王の戴冠
「リリフ!?」
見間違うはずもない。
紛れもなくあれはリリフだ。どうして同じ扉を通ってきたのに出た場所がちがうのかはわからないが、今、リリフは東京にいる。
「リリフ?
だれそれ?知っているの?」
「い、いやいや、む、昔観たアニメのキャラクターに似ていたからつい…」
また放送が流れる。
『尚、政府はあの存在を魔王と推測。魔王の出現と推測し、直ちに軍の招集を開始する。』
「ま、魔王…」
「お兄ちゃん、魔王って…」
リリフのところに行かなくちゃな。
画面に映るリリフの様子だとかなり焦っているからな。
「お、お兄ちゃん…なんだか体が熱い」
「こんどはどうした!?」
驚きがここまで多すぎて少し強い言い方になってしまう。
「肩がっ、肩が熱い。燃えるように熱い」
「大丈夫か!?冷やすか!?」
「い、いや、もう大丈夫…」
「ちょっと肩を見せてみろ」
俺にはその“熱い”という現象には心あたりがあった。
やっぱりだ。千春の右肩には勇者の刻印が刻まれていた。俺の妹、千春は俺と同じように、勇者に選ばれたんだ。
「…勇者だ。
千春よく聞け、お前は勇者に選ばれたんだ」
「…勇者?勇者ってあの勇者?」
「そうだ。勇者だ。どんな魔物にも立ち向かえる力と勇気のある存在だ。だから、隠せ。その力を誰にも知られるな誰かに知られれば、千春の意思とは関係なく戦わされる」
千春を血生臭い戦いの世界に放り込む必要はない。俺は、今唯一の家族である千春の安全が一番大事だ。
「私は…私は戦う!!」
「どうしてだ!俺は、俺は千春が安全に生きていてくれるだけでいいんだ。俺は、お前が心配なんだ。なにを投げ打ってでもお前が大切なんだ!」
「心配…してくれるんだ」
「当たり前だ。」
「私は…心配してくれる家族を。お兄ちゃんを守りたい…家族だけじゃない。罪のない人達が殺されるのはもう嫌…私はもう誰も苦しまない様にしたい!」
その時。千春から膨大な量の魔力とオーラが溢れ出した。
俺の意思とは裏腹に進んでいく。
だが、それが千春の意思なら俺は俺の出来ることをしよう。
「そうか…
なら千春、これを…御守りだ」
俺が、千春に渡したのは石の入った袋だ。
向こうの世界で俺がユリィの師匠からもらった御守りだ。
「千春。俺はまた行かなくちゃいけない。俺を恩人のところへもう一度」
「そう、なのね。また帰ってきてくれるよね?」
「必ず帰ってくる。だけど千春は強くなれる。だから強くなって、千春が俺に会いに来てくれ。」
「会いにって…」
言い終わるが早いか俺は東京に向かっていた。
千春…わかっていなかったな。だがいずれ分かること、強くなれば必ず…
*
東京についてすぐ、リリフの姿を見つけた。
見つけるのは大変だと思っていたが案外簡単に見つけられた。なぜなら、何千何万もの魔物に跪かれているからである。
「おーい、
リリフー」
「あっ、サトル!」
ザッ、と一斉に何万もの魔物がこちらを見る。うん。フツーに気持ち悪い。
「「ニンゲンダ、コロセコロセ!!」」
ゴブリン供が少々うるさいな。
ああそうか、魔力を押さえていたからか、俺を知らないはずないと思ったんだが…
俺の魔力をオーラとして全力で開放する。
ザワッとざわめきが一気に広がった。
「ユウシャダ、ユウシャガナゼ」
「おい、ど、どうするんだ」
「と、とにかくリリフ様を御守りするんだ」
ふむ、8割型魔力も回復したな。
俺は簡単な転移魔法を使った。簡単なと言っても勇者の魔力量だ。何万の魔物くらい余裕だ。
そして転移さきは…
日本武道館だ。
突然の転移に魔物達は驚き、ざわめいていた。
俺は、リリフに耳打ちをした。
「ここで戴冠式をする」
リリフは少し驚き、小さく頷いた。
「
注目する魔法を使った。
一気に静まりかえる。
緊張するな。魔王戦のときより断然緊張する。
「俺は、リリフ=ヘクマティアルの実の父親である魔王を倒した勇者である。俺は魔王の最後の言葉を聞いた。『人類と魔族の共存出来る世界を』と」
また、ザワつき始める。
お前らは修学旅行でテンションの上がった中学生かとツッコミをいれたくなるのを抑える。
「嘘だ!!」
「デタラメを言うな!」
怒号が飛び交う。
「それは本当だ!
この私、リリフ=ヘクマティアルの名において証言しよう!」
ナイス!リリフ!
「まさか…」
「本当なのか!?」
わかってくれた様だ。
俺は話を続ける。
「俺はその魔王の、誇り高き戦士であった魔王の意思を継ぐ。それは厳しい道のりとなるだろう。血も流れるだろう。涙も流れるだろう。だが、お前らは生き残れ!俺は約束しよう。俺がお前らに見せるのは、今まで死んだ魔王の誰もが成し遂げられなかった誰も苦しまない美しい世界だ。必ずだ。必ずお前らを連れて行ってやろう。さぁ俺とリリフと魔族魔物全ての戦士で共に戦おう!」
「「「「うおぉぉぉぉぉぉ!!!」」」」
ボルテージは最高潮だ。
「じゃあこれを飲んで、初代魔王の血よ。闇の魔法が使えるようになり、魔族の王として認められるわ」
俺はその血をイッキした。
原液のアルコールを飲んだように体が熱くなる。飲んだことないけど。それに耐え、最後の決め言葉を言う。
「俺は今ここに、第125代魔王に戴冠したことを宣言する」
これこそが、俺の想像をはるかに超える壮大な戦いの第一歩になるとは、全く予想していなかったことはナイショの話。
妹が勇者に目覚めたので、魔王城で待つことにする。 ノラ猫少尉 @gakkan
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