帰還

「なによ、ぼーっとしちゃって

 私もここに残るって話自分からしたんじゃない。」

「いつの間にユリィも残ることになったのか?」


 ユリィはそんなに俺といたいのか。素直に嬉しいな。

 けど、そうもいかない。仮にここに残ったとして魔王の娘に会ったらなんて言うか…酷くて殺してしまうかもしれない。

 ここは強制的にでも王都に帰すしかないな。


「ユリィ。君の気持ちはとても嬉しい。けれど俺のすべきここに君は巻き込めない。どうかわかってくれ。」

「でも私はサトルに最後までついていくって決めたのに…」

「ユリィ、サトル、覚悟、ある。それ以上、とめては、いけない」


 グッジョブゴルド!話が分かる!


「でも、でも…」

「なにも永遠の別れじゃないんだぜ?ちょっとばかしの別れで泣いちゃうなんてまだガキだなぁユリィは!」

「ガキじゃないわよ!ファイアボールで焼かれたいの?マークは!」

「おうおう、威勢の良いこったなぁ、怖い怖い。」


 ナイス!マーク!やっぱ持つべきは仲間だな!


「…そう、よね?また会える、ものね?」

「もちろんだ。必ず帰る。」

「わかったわ。気をつけてね?やるべきこと済んだら早く帰っていらっしゃいよ?」

「ああ、もちろんだ!」


 俺の母親みたいな言い方する。

 母親…か。1年前までは魔王を倒せば元の世界に帰ることが出来ると信じていたが、旅を進めるうちに召喚や時空移動の魔法はまだあまり研究が進んでいないことがわかった為に、俺を召喚した人すら分からなかった。母さん、父さん、妹、に別れも言えないまま…元気にしているだろうか。


「じゃあ、また。」


 転送陣に魔力を注ぎこみ、三人を王都に帰してやる。魔王との死闘で魔力もギリギリだが、三人を送ることは出来るだろう。


「サトル、元気で、」

「俺に会いたくて、泣いちゃったりするなよ?サトル。」


「また、会おうね。絶対よ?サトル。」


 本当に永遠の別れのような言い方をするからウルっときちゃったな。

 そうして俺はユリィ達三人といちど別れた。


 *


 三人を王都に送ったあと、俺はこれからのことについてリリフと話し合うことにした。


「リリフ〜

 もうでてきていいぞ?」


 応答がない


「リリフ?」


 リリフが隠れていたであろう魔王の玉座のうらに目をやってみる。すると、リリフの姿はなく、そのかわりに、黒いモヤがかかった扉のようなものがあった。


 俺は、その扉に見覚えがあった。


「俺が召喚された時の扉だ。」


 信じられなかった。

 2年間探し続けた。存在すらしないと言われたあの扉が目の前にあるのだから。

 リリフがおらず、この扉があると言うことはそれ即ち、リリフがここではない異世界に行ってしまった可能性があるということだ。


 俺は迷いなく、その扉に飛び込んだ。



 暗闇の中を落ちていく。ジェットコースターのあの体の浮くような感覚が続いている。それに、強烈な吐き気と暗闇による不安感が押し寄せてくる。


 瞬間。俺は光に包まれた。優しい暖かさが俺をつつみ、安らかなうたた寝のように静かに目をとじた。


 *


 身体の痛みに俺は目を覚ました。

 頭が回らない中辺りを見回すと、どこか見覚えのある景色だった。


「…俺の家だ。」


 声に出してしまうほどに驚いていた。

 この2年間願うほど帰りたかったこの場所。異世界をいくら探しても見つからなかった俺の本当の帰る場所。

 気づくと俺は自然にインターホンに手を伸ばしていた。

 俺の顔を覚えているだろうか…

 驚くだろうか…

 様々なことを思いながらインターホンを押す。


“ピーン…ポーン”


『はい…どのようなご用件でしょうか。』

「…村上…悟です。」

『悟!?いや、よして下さい。そんな…あまりに残酷な冗談は…』


 まぁ2年も家を空ければそうなるか。


「悟です。村上悟です。母の作る肉じゃがが大好きだった悟です。2016年9月1日生まれの村上悟です。信じられないようならその目で確かめて下さい。」


 廊下を走る音がする。

 そして、ためらいを含んだ調子でゆっくりと玄関のドアが開く。


 姿を見せたのは俺と同い年くらいの女だ。

 ここまで来たが、家を間違えた…かもしれない。なぜなら俺の妹は召喚前、10歳の小学校4年生だったからだ。子どもの成長は早いといえどこれはやりすぎだ。


「お兄…ちゃん?」


 いや、待て。

 今、俺の聞き間違いじゃなければ、今“お兄ちゃん”って聞こえたんだが。


「お兄ちゃんなの!?私よ!千春!」


 うん。

 間違いない。俺の妹だ。でも知らないこんな大人な妹持った覚えがない。


「そうだ。悟だ…ただいま…千春!」

「お兄ちゃん…お兄ちゃんお兄ちゃん…」


 涙を流しながら駆け寄ってきた。


「お兄ちゃん…良かった。生きていてくれて良かった!」

「ごめんな、ごめんな。千春…遅くなって」

「本当よ!8年もの間…どこでなにをしていたの!?」

「そうだよな…8ね…」


 また聞き間違いだろうか。

 8年もの月日は過ごしていない。異世界で過ごしたのは2年と2ヶ月と2日これは間違いない…

 となると、時間の流れ方が全く違うってのか!?


「…でも本当に生きていてくれて良かった。8年も帰ってこないから、もう死んでしまったのかと思って集団葬式で一緒に葬儀を済ませてしまったのよ?」


 俺、もう死んだことになってるのか…

 あんなに必死に戦っているときに、既に死んでいたとは…笑えないな。


「ちょっと待て、集団葬式ってなんだ?」

「四年前に起きた『東京異変』で亡くなった人たちの葬式よ?」

「東京…異変?東京異変ってなんだ?」

「知らないわけないよ!?だってあんなに残酷な…残虐な出来事…今だって続いているのに…」


 俺は今まであったこと、なにが起きてどういう結果になったか。何が続いているのか全て話してもらった。要約するとこうだ。


 四年前、2038年9月1日、俺が召喚されて地球時間で四年、向こうの時間で一年が過ぎた頃だった。東京の新宿に突然黒い靄のようなものが現れ、そこから沢山の見た事もないモンスターが東京に流れ込み、多くの人が虐殺された。そのモンスターはアニメで描かれた魔法などを使い多くの人間を殺した。地球の武器ではまるで効かず、ただ殺されるのを見ていることしか出来なかった。

 しかし、魔法の影響を受けた人間が魔法を行使する力に次々に目覚め、人類はモンスター達に対抗する術を得た。そして人類は東京23区に結界をはり、東京都を奪還するためにいまも戦っている。ということらしい。


 これが平和な世界なら、一本小説書けるぞこの内容。


「そして人類の得た魔法にはクラスがあってそれが直接役割りになっているわけ。」

「本当の…全て本当に起こっていること…なんだな?」

「本当よ。紛れもない本当よ。」

「結界を張ったならそのモンスターは出てこられないんじゃないか?」


 俺の張った結界もそう簡単に破られなかったからな。


「いや、なにせ突然与えられた魔法で、突然作った結界だから効果は薄く、もうこの日本には安全な場所なんてどこにもないのよ。」


 そうか…流石にレベルの違いがあるか…


「千春?お前のクラスはなんなんだ?」

「私、18歳なのにまだクラスに目覚めていないの。だからまだ戦えないし、誰も…守ることすら出来ない。」

「でも、戦うなんて危険なこと。しなくていいならいっそ…」

「良くない!!!私が戦えないせいで…お父さんとお母さんは…」


 千春の目からは、ひとつ、またひとつと雫が溢れだしていた。


「まさか…父さんと母さんは…」


 千春はなにも言わず首を縦に振った。


「俺がもう少し早く帰ってきていれば…」

「お兄ちゃんのせいじゃない…なにもできなかった私が…」


 いや、俺が落ち着かないでどうする。

 今まで辛かった千春の為に俺がもっと強くならなきゃ。


「大丈夫だ。千春は悪くない。これからは俺が千春を守る。もうなにも心配することはない。」

「…ありがとう、お兄ちゃん。」


 その時町中に大きなサイレンが鳴り響き、放送が流れた。


『東京に魔物の王とおぼしき魔物が出現しました。ただいまより臨時放映を開始します。お近くテレビをご覧下さい。繰り返します…』


 王だって?俺が殺したのにか?

 急いで家のテレビをつけてみるとそこには見まごうことなき多くの魔物を跪かせ立っている存在があった。

 俺は、思わず声に出してしまった。



「…リリフ?」






















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