妹が勇者に目覚めたので、魔王城で待つことにする。

ノラ猫少尉

魔王の意思を

「力ある勇者よ…どうか、人類と魔族が共に生きられる世界を…」



俺がこの世界に召喚されてはや2年。ようやく俺は、魔王を倒すことが出来た。


「サトル!無事だったのね!よかった!」

「コイツ、サトルが死んじゃうんじゃないかってなきじゃくってたんだぜ?」


いいパーティにも恵まれた。

始めに駆け寄ってきたのはユリィ。魔法使いだ。

そして、彼女を茶化しているのがマーク、チャラい見た目して、一応聖職者だ。


「心配…かけたな。」

「そうよ!ほんっと心配したんだから!」


見た目も可愛く内面も文句無しの美少女だ。ユリィはもともと貴族の出で、初めは、アリンコすら殺すのをためらう奴だったが成長したよな。


「んで、魔王はどうだったよぉ

見たところ死闘のように見えるが?」


マークはもともと教会の孤児だったが、神からの加護を受け聖職者になった。しかし、その神すらに刃向かおうとして処刑されるところを俺が、仲間にしたんだ。

始めこそは態度の悪いヤツっていうかクラスに一人はいる問題児って感じだったけど、マークはマークで成長したな…


「なんだよ、黙り込んで、

どうだったんだ?魔王とやらは!」

「あ、ああ。最後まで誇り高い戦士だったよ」

「は?魔王が誇り高い戦士?そんなわけであるかよ」

「最後まで汚い手など一つも使わず。

一対一で正々堂々と勝負が出来た。」


本当に誇り高い戦士だった。

わざわざマーク達とは隔離させて一対一の決闘を申し込んでくるなんて。

本当に、心が歪んでいたのならそんなことはできなかったはずだ。


「サトル、そういう、それは、嘘ない」


後からゆっくりと来たのは盾使いのゴルドだ。

名前の通り見た目もイカツイが、性格は温厚だ。ゴルドは王国で罪人の処刑執行人をしていた。ひとを殺すことを仕事としていたゴルドは人としてもタガが外れてしまっていて会話すらできなかったが共に旅するうちに大分会話もできるようになっていった。なにより素のゴルドは正義感の強いヤツだ。


「あーあ。またお前までサトルの味方して〜

泣いちゃうぞ?俺。」

「それで、これからどうする?サトル?」

「俺はやるべきことがある。

王国への凱旋は後から行く。先に行ってて くれないか?」

「ちょっと、俺のことは無視ですか?角ウサギはストレスで死ぬらしいけど俺も大切に扱えよ?」


うるさいマークはさておき。

これからについてだな。魔族に家族を殺されたユリィには出来ないことを俺はしようとしている。


「俺は、やることがあるからここに残る」

「なら私も残るわ!」

「どうして残りたいんだ?」

「それは…貴方のことが、すk…すっごく心配だからよ!」


かわいい。

もっといじめてやりたくなる。

だけど、それを彼女と一緒に俺の『やるべきこと』を達成するのはあまりに残酷だ。


それが世界で最も嫌われた戦士。

魔王の遺言だったとしたらなおさら…



「力ある勇者よ…どうか、人類と魔族か共に生きられる世界を。」


それが魔王の最後の言葉だった。

誇り高く戦い、誇り高く死んでいった。


「その願い、聞き届けてやる。

感謝しやがれ。

俺も丁度そんな世界を作りたかったところだ。」

「じ、じゃあどうしてお父様を!!」


王の部屋の奥で震えながら、俺に言ってきたのは魔王の娘だ。


「…魔王がいては成し遂げられない世界だからだ。」

「どうして!?勇者である貴方が、人類に対して共存を呼びかければ、、」

「本当にそう思うか?」

「え?」

「そうだな…人類の魔族に対して恨みを持つ人々に俺が『魔王はいい人です。』と言って聞くと思うか?」

「それは…」

「人類も魔族を殺した。その恨みは魔族も晴れることはないだろう。しかし、魔族の誇りはより強いものにあるのだろう?」

「そうだけれど。それが…!!!」

「気がついたようだな。

魔王を倒したいま、俺は魔族の王。魔王に戴冠する。」


俺は魔王になる。俺はとんでもないことを言っているのは重々承知の上だ。だが、俺はやる。あの誇り高い戦士であった魔王の遺言を成し遂げてやるんだ。


「じ、じゃあ貴方は人類を捨てると言うの?」

「捨てない。」

「じゃあどうやって?」

「人類の国王から、魔王を倒したあかつきには王位の継承権を与えると言われているんだ。」

「あ、あなたは二つの種族の王になるつもりなの!?」

「たとえそれが険しい道だったとしても、必ず成し遂げてやるよ。

俺の親父がそうしたかったようにな。」

「…くっ、ふふふっははは」

「なにかおかしかったか?」

「貴方はすごい人だなぁって。

お父様の仇なのに、貴方を応援したい!貴方についていきたい!って思うの」


この子を泣かせるわけにはいかないな。

俺は、あの誇り高き。もっとも嫌われた魔王の意思を受け継ぐとしよう。

200メートル程後方から足音が聞こえる。おそらくユリィかマークだろう。鉢合わせになったらまずいな。


「魔王の娘…俺の仲間達が来るからどこかに隠れていてくれないか?」

「リリフよ。私の名前はリリフ=ヘクマティアルよ。よろしくね。」








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