あの…もしかして、中ボス…忘れてません?

ちびまるフォイ

ずっと待っているのは誰だって辛い

「フフフ……そう、ダンボーの町を永久凍土にしたのは私。

 それで、いったいどうするのかしら?」


「そう、ここにある氷のクリスタルはただの飾りじゃないわ。

 今まで私に挑んだ冒険者を凍らせてオブジェにしているの」


「……いいでしょう、氷の女王の力、思い知らせてあげるッ!!」



「先輩」


「わーーー!! わーーー!!! なに!? びっくりした!!」


氷の女王は青ざめた顔を真赤にした。


「さっきから何ひとりでやってるんスか?」


小ボスは呆れた顔で、リハーサルをしていた氷の女王を驚かせた。


「勝手に入ってこないでよ! なんなの!?」


「いや、魔物同士なんだし気を使うのも失礼かと。

 さっきのは練習スか?」


「ここで練習してたこと絶対言わないでよ!!

 私、緊張しいだからうまく言えるか不安だってことも!!」


「はぁ、まあいいスけど。

 あと、俺、この先のほこら配属になったんで、よろしくッス」


「あ、そうなの。近いね。よろしく」


「あと、冒険者との会話の練習はしすぎるのよくないッスよ。

 スラスラ読みすぎると、逆に台本臭くなるッスから」


「うるさいな! 君、私の後輩でしょ! ほっといて!」

「氷の女王らしさゼロっすね……」


後輩の小ボスはやれやれと洞窟を去っていった。



それからしばらくすると、小ボスのいるほこらに氷の女王がやってきた。


「先輩、どうしたんスか?」


「来ないの」

「幸福?」


「冒険者が一向にこないの!! なに!? どうなってるの!?

 毎日毎日、誰もいない洞窟で一人待ってるとかつらすぎるんだけど!?」


「いや、冒険者はちゃんと来てるッスよ」

「ほんと!?」


「俺のところで全部やっつけてるッス」


「原因は君じゃない!!!」


氷の女王は小ボスを思い切りゆすった。


「君がぜーーんぶ倒しちゃうから、こっちに全然来ないの!

 流しそうめんの序盤で一網打尽にされた気分よ! わかる!?」


「いや、俺、人間型の魔物じゃないんでそういう例はわからないッス」


「とにかく、なんか、あんまり倒さないでね!」

「どういう注文スか」


「……君が悪さしないか見てるから」

「先輩ヒマすぎッスよ」

「黙ってて」


氷の女王は後輩の守護エリアの影に隠れた。

まもなく冒険者御一行がガイドに連れられてやってきた。


「グルル。この先は通行止めだ。おとなしく引き返すがよい」


「キングライオ。お前を絶対に倒す!!」


冒険者は満身創痍で斬りかかると、ワンパンで沈んだ。

その様子を見ていた氷の女王は慌てて後輩に向かっていった。


「ちょっと! 君、なにやってるの! 倒しちゃ私のところまで来ないじゃない!」


「いや、先輩落ち着いてくださいよ。

 相手は必死に戦ってるのにこっちが手を抜くなんて

 モンスターマンシップに反するじゃないッスか」


「私にまだあの薄暗い洞窟でずっと待ってろっていうの!? 辛いよ!!」


「俺、もともと裏ダンジョンの海底神殿出身ッスよ。

 そもそも負けろっていうほうが無理ッスよ」


「じゃあ攻撃しないで」

「先輩、それじゃボスじゃないッス」


氷の女王は知恵熱で体が溶けるほど悩んだ。

準備万端なのに誰も訪ねてこないのをなんとか打開したかった。


「あのさ、もう私達で場所変えない?」


「いやーー、それは無理ッスよ。

 だって先輩の洞窟、めっちゃ氷あったッスよね?」


「まぁ氷の洞窟だしね」


「そこに俺がいるのは無理ないッスか?」


「いいじゃないのちょっとくらい!

 私だって冒険者と絡みたいのよっ!」


「別にいいもんじゃないスけどね……」


ぎゃーぎゃーと駄々をこねる氷の女王(笑)を

これ以上逆らうと長引きそうなので小ボスは洞窟へと向かった。


「フフフ。これでばっちりね。

 さぁ、冒険者を返り討ちにしてやるわ」


女王は読み込んだセリフを何度も復唱して冒険者に備えた。


けれど待てど暮らせどいっこうに冒険者は来なかった。

氷の女王は、元担当箇所だった氷の洞窟に戻ってきた。


「なんでよ! なんで私になったら、冒険者来ないの!」


「先輩どうしたんスか」


「あーーん!! なんで私避けられてるのよ!!

 プライドも設定もかなぐり捨てて配置転換したのに

 冒険者ひとりとも出会えない!! もうサイアク!!」


「まぁ、直前の村でも主に俺の情報が行き渡ってるスからね」

「ゑ?」


「いや、だから『キングライオは炎に耐性がある』とか

 『キングライオは水に弱い』とか『キングライオが人を苦しめてる』とか

 話題の中心は、次に遭遇するはずの俺になってるわけッス」


「うんうん」


「配置転換しても、冒険者の頭には次の敵が俺だと思いこんでいるから

 先輩の方ではなく、俺のいる方のルートを選ぶんじゃないんスか?」


「……不公平」

「先輩?」


「ずるいずるい! 私も冒険者と戦いたいーー! 話したいーー!!

 君ばかり表舞台に立つなんて納得いーかーなーいー!!」


お菓子を買ってくれない親に抗議する子供のように女王はじたばた暴れた。


「先輩、どうしても冒険者と会いたいんスか?」

「うん」


「冒険者と話したい?」

「うん」


「それなら、とっておきの場所があるッスよ。

 そこなら確実に冒険者にも会えますし、必ず話しかけられます」


「ホント!? やっと一人ぼっちの孤独から解放されるのね!」


氷の女王は小ボスから地図をもらって指定された場所に行った。

冒険者から確実に話しかけられる場所へ。



しかし、そこにはすでに先客が立っていた。




「ようこそ! ここは始まりの町です」



氷の女王は言葉を失った。


「ま、魔王様……!」


「なにも……何も言わないでくれ……寂しかったんだ……」

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