▲エピローグ:感想戦▽ それぞれの未来▼ それぞれの棋譜へ△
あれから。
九年余りで世界は変容を遂げた。いや、遂げ始めているといった感じだろうか。
あの時、
みたいにまとめると、ハッピーエンド的な終わり方だが、その後も人々の生活やら人生は脈々と続いていくわけで。
将棋の呪縛から解放されたかのように、日本は、あの静かな狂騒状態から、多様な生き方を模索する世界へと変わり始めている。少しづつ、着実に。
周りも変わっていっている。そして、あの時の仲間とは、今でも連絡を取り合ってたり、逆に没交渉だったりもするのだけれど。
……そして。
「……と金、今日は遅くなるんでしょ? 落ち着かないから外で飲んでる。新宿辺りにいるから、終わったら連絡して」
落ち着いたベージュのパンツスーツが非常によく似あう。出社時間が同じくらいになったと言うので、駅まで一緒に行くことにした。自然に指を絡ませてきてくれるけど、僕はほんと幸せ者だよ……
高校卒業してからは疎遠だったが、とあるきっかけで、また会うようになった。そこからの経緯は省くが、僕らは来月に入籍を控えているわけで。
「……ここでケチつけられたら、たまんないんだからねっ!! 必死こいて気合い入れなさいよっ」
俯く僕の眼前に顔を突き出し、殊更にツンを前面に出してくるけど、ミロカさんなりの応援に他ならないことは、もう充分過ぎるほど、僕は知っている。柔らかな笑みを浮かべたまま去っていく後ろ姿を見て、僕は改めて自分の丹田辺りに力を入れる。
……気合いを、入れるんだ。
そして、
……準備は整った。静謐な空間に座して僕は待つ。
音も無く開く襖。音も無く畳の上を滑る鮮やかな、桃色の振袖姿。細身のうすらでかい体が眼前で膝を突く……や否や、
「……キサマら二人の、せめてもの餞に……途中で泣くくらいになるほど、けちょんけちょんに序盤からブチかましてやるのだっ!!」
正座して僕の目を覗き込んでくるなり、そんなキンキンのアニメ声でぶっ込んで来やがった。そしてしてやったりの悪戯っぽい目つき。盤外戦術も大概にしてくれよ。
「定時になりましたので、第十一期、
……ひとつくらい、譲ってもらうぜ、そのタイトル。
沖島の眼鏡の奥から放たれる、迫力を増した視線を受け止めつつ、僕は羽織の袖を気にしながらも、しっかりと7七の歩を摘まみ上げる。
「先手、
やるぞ、自分のため、そしてミロカさんとの未来のために。
人生という名の混沌の局面を、恐れず、迷わずに進み続けるんだ。
僕なりの、僕だけの棋譜を、刻みつけながら。
(終)
摩訶★大戦隊 ダイ×ショウ×ギ×レン×ジャー gaction9969 @gaction9969
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます