まだ冒険者がわざわざ冒険してんの? バカじゃね?

ちびまるフォイ

非人道的なほどの匠のわざ

「なあ、代理冒険者って、お前?」


「ああ」


ギルドのカウンターに座る男に勇者は声をかけた。

噂には聞いていたが、代理冒険者と話すのは初めてだった。


「本当に、代理で依頼を達成してくれるのか?」

「もちろん」


「で、実績や栄光は依頼者のものと?」

「そうだ」


「依頼内容は討伐系の依頼のみ?」

「そうしている」


「おいおい、ホントかよ! 信じられないな!」


「そう思うんなら依頼してくれ。ここでの仕事は長いんだ。

 疑うのなら他の冒険者にも聞いてみるいい」


「ああ、いや、疑っているわけじゃないんだ。

 かくいう俺も他の冒険者から話を聞いてあんたを訪ねたわけだし」


勇者はさっそくギルドに貼り出されていた依頼書のひとつを手にとった。


「それじゃ、これを代理冒険者としてやってくれないか。

 勇者ともなると、あれやこれやと依頼されて困ってるんだ」


「わかった」


代理冒険者は依頼の詳細を尋ねることもなく、

ギャラの交渉をするでもなく、ただストイックに仕事へと向かった。


しばらくして、代理冒険者は戻ってきた。


これには勇者も驚いた。


「はっや! え!? もう仕事終わったのか?」


「もちろんだ。代理冒険者でも中途半端な仕事はしない」


「あそこの洞窟のドラゴン、めっちゃ強いのに……!

 すごいな、本当に助かったよ。あんたの名前を聞いていいかい?」


「俺はサンズ」

「サンズ! これからよろしく頼むよ!」


勇者はサンズのことをいたく気に入り、

自分は安全な家の中でぐーたらしながらも仕事を受け続けた。

すべて処理は代理冒険者サンズにさせていたが、


「勇者様! ドラゴンをやっつけてくれてありがとう!」

「勇者様、草原のゴブリンたちを一掃してくれたんですね!」

「勇者さま! どうしてあなたは勇者なの!?」


「フッ……人々の願いを叶えられるからこそ勇者なのですよ」


手柄はすべて勇者になるので、栄光や名声も欲しいまま。

いつサンズが「俺が頑張ってるんだから折半だろ」とか

コンビ芸人でありそうな交渉をしてくるか不安だったがそれもなかった。


代理冒険者サンズは驚くほどの早さで討伐依頼を達成しギルドに戻る。

そして、サンズがギルドに居るときはいつでも依頼をしていい。


「お前のおかげで本当に最高な毎日だよ。

 仕事も早いし、そんなに続けていて疲れないのか?」


「俺はこの仕事をしたくしているから」


「それに、毎回武器も防具も傷ひとつついてない。

 サンズ。お前は本当に優秀な冒険者なんだな」


「そんなことはない。冒険者としては三流だ」


「謙遜すんなよ。こないだだって魔王を倒しただろ?

 それだけの腕前があるなら、代理冒険者じゃないほうが良い気がするぞ」


「俺はこれが気に入ってる」


「ふぅん……変わってるなぁ」


いくつ依頼をこなしても文句を言わない代理冒険者の存在は

勇者に「いつか仕返しされるのでは」と疑心暗鬼を生ませた。


いくら話をしても表面でさらりとかわされてしまうので

サンズの人となりが見えない不気味さも、疑心暗鬼の火に燃料をぶちこんだ。


そこで勇者はある日の依頼でサンズにこっそりついていくことにした。


(フフフ。女湯を覗くために学んだ透明魔法がこんなときに生きるとはな)


勇者はサンズの後ろに気配をけして付いていった。


あれだけの強さと、他に類を見ないほどの仕事の早さ。

どんな凶悪な手段でやっつけているのか確かめてやると躍起になっていた。


「ここか」


サンズは依頼されていた洞窟につくと、奥には巨大なオーガが待っていた。


(奴め、いったいどんな秘密兵器を隠してやがるんだ……)


勇者がかたずを飲んで見守るとサンズはそのままオーガに歩み寄った。


「ギルドでお前の討伐依頼があった。ここは離れたほうがいい。

 西の大陸はまだ冒険者ギルドが少ないから安全だろう」


「見逃してくれるのガ?」


「早くいけ。ここに留まれば他の冒険者の標的になる。

 お前は俺が倒したことにする。ここはもうダメだ」


「助かるガ」


オーガは子どもたちと荷物をまとめて洞窟を去っていった。

代理冒険者はその足でギルドに戻ってきた。


「戻ったぞ。仕事も終えてきた」


サンズは依頼書をカウンターに返した。

先に急いで先に戻った勇者はサンズの腕を捻り上げた。


「なにが仕事を終えた、だ! 嘘をつくんじゃねぇ!」


「な、なにを……!?」


二人の争いにギルドにいた他の冒険者の視線が注がれる。


「どうしてあんなに仕事が早いのか。

 そのくせ疲れやしないし、武器も防具も傷がつかないのかわかったぞ!

 お前は本当は戦わずにずっとモンスターを逃していたんだな!!」


「……」


「俺が倒したはずのモンスターが他の人に見つかったらどうする!?

 俺が嘘つきってことになるじゃないか!!

 だからお前は責任を避けるために代理冒険者を続けていたんだな!!」


「……」


「なんとか言えよ! このエセ冒険者!!

 その武器も防具も所詮は見かけ倒しのかざりのくせに!!」


サンズは掴んでいた勇者の手を払った。

その力に勇者は言おうとしていた罵倒の言葉が喉奥に引っ込む。


「……なぜ殺す」


「えっ……」


「モンスターがいるからギルドには依頼が来る。そして報酬を得る。

 モンスターがいなければ冒険者は仕事が失われるだろう」


「へ、屁理屈言うんじゃねぇよ。持ちつ持たれつって言いたいのか?

 俺たち冒険者は倒せと言われるから倒すだけだ。それが依頼だろ!」


「殺してレベルが上がるわけでもない。金だって出てこない。

 モンスターにも生活があったんだ。明日の予定もある。友達もいる。

 なのに、どうして殺すんだ」


「それは……その……」


「依頼の本質は、モンスターに困っているから、だろう。

 殺す必要なんてどこにもない。移動してもらえればそれでいい」


「な、生意気言ってんじゃねぇよ!!」


口で勝てないと悟った勇者は持っていた

マスターソード(税別)をサンズに振り下ろした。


けれど、その刃先はサンズに当たる前に、素手で受け止めた手で砕かれた。


「う、嘘だろ……」


サンズの圧倒的な力に勇者は、ただでさえ低い語彙力が失われた。


「モンスターにも様々な奴がいる。

 毎回聞き分けの良いモンスターばかりじゃない。

 そういうときに、どうやって言い聞かせるかわかるか、勇者?」


「あわ、あわわわ……」


サンズの作る影からは人間とは思えないほど

凶悪なシルエットが浮かび上がる。



「戦う前に、圧倒的な力の差をわからせるんだ」



「ぴぃあーー!!」


勇者は足をぐるぐる渦巻きにしてギルドを去っていった。

その日から勇者は街で感謝されても苦笑いだけするようになった。







ここは冒険者ギルド。


カウンターにいつも座る一人の冒険者がいれば

どうかまた声をかけてあげてください。


「俺がギルドにいるときは、いつでも代理冒険を引き受ける」

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