さしゅごしゅ! ⑥-2-3
「ん? 何故だディオネ。すぐに終わるぞ?」
「恐れながらご主人様。我が一族は世界樹に並々ならぬ思い入れを持っておりまして、その幼木が新たな地に迎えられるという偉業に大変な関心を持っております。その瞬間を共にするという栄光に浴する機会を与えられたなら、彼女らはもはやご主人様なくして生きられぬほどの忠誠を抱くこと間違いございません。
加えて私は、こと世界樹に関しては少々明るくある身です。ご主人様が植え替えを終えられた後、世界樹と地脈との魔術的接続をお手伝いさせていただけたならこれに勝る喜びはございません」
「……ふむ」
うん。見物したいのはわかったけど、魔術的接続?
あー。なるほど。この苗を植えた先でもこの庭園みたいにできるよって言っているのか。ほほう。それ、とても素晴らしい提案なのでは。こっちでも農業できるってことですよね。なにせウチの森ってば魔木以外植物が育たないことで有名なヘルモード土壌。農業不可縛りは領地経営するなって言っているに等しい枷だ。
隣接する領地の胸三寸で道路封鎖されれば生活必需物資が尽きて干上がりますというザコ領地。お姫様をお迎えするにあたって早急な改善が必要だとは思っていたんだよ。俺一人ならどうでもいいけど姫の今後を考えるなら無視できない問題だ。
姫は由緒正しき王家の人間。俺と違って人付き合いをしないわけにはいかない立場。いずれはパーティみたいな催し物を主宰しなければならなくなるだろうし、そうなればたくさんの人員やたくさんの物資が必要になる。
金はまぁしばらくは何とかなるだろうけど、それだって無限じゃない。国を支える産業は必要だ。領地開発は急務。俺の甲斐性がないばかりに姫が肩身の狭い思いをしたら俺ってばきっとへこたれると思う。俺の甲斐性がないせいで姫さんに愛想をつかされて家を飛び出されその先で魔族に連れ去られ魔王復活に彼女が利用されたなんてことになったら一か月は寝込む。そういう自信がある。
なのでそうならないように、その第一歩として、まずは最低限自給自足ができる土地を目指そう。ここはディオネの申し出を素直に受けてその後まるっと彼女の思惑に乗っかるのが吉と見た。
「そうか。ならばいっしょに来てくれ」
俺はアイテムデポからスコップを取り出し、さっそく苗木の周りの土を掘る。
それを見て、血相を変えて大声で烏女集合を唱えながら慌てていずこかへ走り出したマルギット。
ディオネも両手を天に突きあげて、体をゆらゆらクネクネさせ始めた。
ふぁ?
なにその変な踊り。
パペットマンの不思議な踊りの類か?
それともなんかの儀式? 君らの宗教の儀式なの?
ディオネってば自分の事「世界樹の巫女」とか言ってたからたぶんその絡みなんだろうけど。
――……いやよそう、触れるのは。
異国のお坊さんは言いました。
知らぬが仏と。
きっとあれもそのたぐいだ。なんせ彼女は巫女なのだから。絶対烏女の信仰する宗教の祭事的ななにかだ。
俺は困って、暫く手を止めてディオネを見る。
彼女は一心不乱に踊り続けるばかり。
――えっと。このまま作業を継続して大丈夫なのだろうか?
少し待ったのだが、特に何か言われるとか踊りが変化するみたいな進展もなかったので俺は作業を再開する。困ったら注意してくるだろうと思いつつ。
俺は木の根が傷つかないよう慎重に世界樹の幼木を掘り出す。
それが終わる頃には肩で息をする烏女らが俺の周りに集まっていた。
「アタルー。あちきも行ってよい?」
ついでにヒミコも来た。
まぁこいつは世界樹の葉っぱが主食だから――たまに小枝ごと食ってるくらいだし――餌の置き場が気になるのだろう。
「ヒミコ。さっき転移を連用したせいで烏女を移動させる手段がマズルカ回廊を行くしかなくてな。悪いが手伝ってくれるか?」
「うん、いいおー! 鳥さん乗せるねー」
言うが早いかヒミコはその肉体を増殖させ巨大なアラクネの姿に戻ると、糸を吐き出し周囲にいた烏女らをからめとってひとまとまりにする。そして糸の塊を足で跳ね上げ上手に背中に乗せた。
ちなみにディオネだけは糸を回避して、自分で跳躍しヒミコの背に乗っていた。
「よし。じゃあ門開くぞ。はぐれるなよ」
俺は〈―― 多次元門 ――〉を開き、苗木を持って我が領地・魔の森へと続く道へと足を踏み出した。
さしゅごしゅ! ~好き好き大好きご主人様~ にーりあ @UnfoldVillageEnterprise
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