さしゅごしゅ! ⑥-2-2
「俺のせいじゃない!」という責任回避ではなく、責任をもって真摯に対応しなければならない俺。
そしてこの庭園では生きていけない新たなる世界樹。
ならば答えは簡単だ。新たなる世界樹の養育環境を、俺が整えればよい。
「ならば、植え替えよう」
「……え?」
声をあげたのはマルギットだ。
最近よく見る驚愕の変顔をしていた。
片やディオネは、目を細めはしたが平静としている。とても対照的な二人である。
「かしこまりました」
「え? えええ?! あの、ご主人様、植え替えるって……」
「だってこのままでは死んでしまうのだろう? せっかく芽吹いた命を絶やすことはあるまい」
一緒に住めないなら別居すればいい。それだけの話。
よくあるらしいぞ諸事情で離婚はしないけど別居してそれぞれ暮らしてるみたいなの。こことは違う別世界の話だけど。なんでも案外それが悪くなくて、そういう関係が長くなっていく中で友達みたくなって「俺たち何で結婚してるんだろうね一緒でいる意味なくね? でもめんどくさいからこのままでいっか」みたいな関係になりズルズル夫婦として生きていったとかなんとか。少なくともこことは異なる別世界では同じマンションの別室に別居するなんてケースは珍しくないようだった。それを踏まえれば、世界樹の共生は生死に関わるという大事でもあるのだからここはスパッと遠く離れた場所に住み替えるのが正解だろうと思える。幸いにして俺には自由にできる土地があるのだし。
「ですが、え……世界を、植え替えると……?」
いや、植え替えるのは世界樹な。世界じゃない。
「大げさだな。確かにこの苗にとっては新天地だろうが」
「いやそういうことでは……」
うめくマルギット。信じられないものを見るような眼で俺をガン見。
何だよその目。
俺のことをまるで信用してないな。
このくらいの木を植え替えるくらい園芸専門職じゃなくてもやれるだろう。俺にはそれすらできないと思われているのか。だとしたらちょっとだけ悲しい。
「ご主人様。私たちは世界樹に触ることができません。巫女である私だけは触れますが、植え替えるとなると……」
「いや任せるがいい。これでも俺には農家のお手伝いを一週間した経験がある。植え替え程度造作もない」
「さすがご主人様です」
ディオネはそう言ってにこやかにほほ笑む。
見たかマルギットよ。このディオネの俺に対する信頼感忠誠心。
それに引き換えお前はまだまだだな。全然俺のことをわかっていない。
木の植え替えなんて超簡単だぞ。一本くらいなら専門職に依頼するより俺がやった方が絶対に早い。
まぁ烏女が世界樹に触れないって言うのはいわゆる宗教あるあるネタか。ご神体に直で触るなどとんでもない! みたいな。あぁ、考えてみれば農作業超大得意なお前らがそんな簡単なことできないわけないもんな。そういや天使がどうとか言ってたし、そういう縛りプレイか今気が付いたわ。
うんうん宗教、宗教ね。いやいやいいよいいよ、いい、大丈夫。俺はみんなの信仰の自由を保障します。どんな神様を信じようとそれは個人の自由。ノープロブレム。むしろそういうのっていいと思う。宗教はニンゲンの偉大な発明であるからにして。うぇーい、ご神木を植え替えるなど恐れ多いわーひゃっはー神だぁ、ってね。でも俺はそういうの信じてないんだ。お前たちの主人だからって俺の事をお前たちの宗教観念の枠で考えるのはやめてもらおう俺なんかその気になれば世界樹なんてぽっきり折っちゃえるよそんなことしないけど。
「お前たちは戻っていいぞ。話は終わりだ」
「ご主人様。もし御許可をいただけるなら烏女全員をご一緒させていただけないでしょうか」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます