植木鉢の世界
最近の植木鉢は動く。
機械の足が生え、人工知能が搭載された植木鉢は、日中、植えられている植物に最も適した環境を探して、とてとてと動いていく。
人工知能による緑化推進法が可決された現在、その植木鉢達の動きを制限するモノは無く、彼らは我が物顔で太陽と水を求めて街を歩いて行く。
植物から得る炭素で発電する燃料電池と生体電気で動く彼らは、植物さえ生きていれば無限に動くことが出来る。
逆に、植物が死ねば彼らも
彼らにとって、植物を育てることは生命線なのだ。
猫はそんな彼らを見て、シャーっと威嚇する。
それもそうだろう、猫らは日向ぼっこする場所を良くも分からない二足歩行の植物に取られるのだ。
植木鉢達がブロック塀沿いに屋根を登り、猫たちを駆逐した時は、情けない声を上げる猫が大量発生した。
その後、植木鉢の重さが屋根を壊しかけたので、屋根ルートは地域住民により防がれ、猫は
その代わり、植木鉢が歩ける地上は、彼らの天下となった。
それ以来、猫は彼らを敵と見なしている。
日当たりの良い公園の遊具群で、彼らと猫が睨み合う。
スチール製の遊具群はすぐに床が暖まるため、日向ぼっこに最適な場所だ。
それは植木鉢にも同じで、特に温かい場所を好む植物には最適な場所と言えよう。
先に手を出したのは猫。猫パンチが植木鉢にクリーンヒットする。
植木鉢の重心を崩す最適な角度のパンチ。
パンチを受けた植木鉢は、ガシャン、と倒れ、中身を土ごと外に出してしまい、動かなくなった。
猫らは狩猟本能により、彼らの弱点——すなわち植えている植物が無くなれば行動不能になることを察知していたのだ。
しかし、彼らも倒されるわけには行かない。
ある植木鉢は猫の横からタックルし、ある植木鉢は倒れそうになった植木鉢を支える。
ある植木鉢は、機械の足を器用につかい、倒れた植木鉢の蘇生を試みていた。
そう言った群れ行動の最適化により、植木鉢たちは猫らに勝利した。
彼らは鉢の縁を当てあい、勝利を祝う。
ちびっ子達は、公園で行われた戦争の一部始終を見て興奮するのだった。
植木鉢は歩く。水が欲しければ公園の噴水に群がり、雨の日に光が欲しければ屋根のあるアーケード街に。
陽が沈めば、植木鉢は持ち主の元に帰る。
持ち主が家に帰っていない場合は、ドアの前で待機する。
そして、持ち主は帰ってくると植木鉢を中へ入れる。
歩く植木鉢と人間との関係は良好だ。
植木鉢に植物を植えるのは人間の役目、植物を育てるのは植木鉢の役目。
彼らはこの世界で必要とされていることに満足していた。
「お、レタスが育っているな。数枚採ってサラダにしよう」
次の日、レタスを植えた植木鉢は戻ってこなかった。
てのひらの上の即興噺 犬ガオ @thewanko
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