死を運ぶ配達員
手紙を投函して数日。彼女の元には届いたのだろうか。返事が来るとも思っていない。だがあれだけのことが書かれていたとなると少し心配である。残念ながら松風の兄である松風
そんなことを考えながら仕事をしていれば疲れも出る筈だ。インフルエンザの流行る冬。受験生も受け持つ私は微熱を出していたので移さぬように大事を取って休んでいた。然程辛くもないのだが、多少の熱、風邪が受験という闘いの最中である彼らにとっては大敵となる。体調管理も仕事のうちであるのだが。本当に、教師失格である。
かといって休んでいる間にやることも無いので、コーヒー片手にこの前の小テストの丸つけを終わらせる。流石に高校三年生ともなれば安定してくるのだが、慣れぬ一年生は珍回答続出である。受験までには単語を覚えてくれると良いのだが……。
半分程を終え、休憩しようとリビングへと向かう。もう昼時か。流石に体調の崩し始めで昼食を抜くのは良くない。さて何を食べようか。
そう思案している最中に家のチャイムが鳴る。休む間も無くピンポンピンポンと煩い。随分とせっかちな奴らしい。
「ハイハイ今行きますよ」
きっと外は寒い。薄手のダウンを羽織って私はドアを開けたのである。
「お届け物です、センセー」
目の前に立っていたのは包帯まみれの男。大量の手紙を送ってきた彼女が命懸けで守った筈の平穏が訪れることはなかったのだろうか。否、此処にこの男が現れたということは守られることは無かったのであろう。
「何故お前が……」
「センセーは酷い人ですね、俺をこんなにして」
私がやった訳では無いだろう、喉元にまで出かかったその言葉は嚥下した。保科の言うことは一理あるのだろう。事実を知って尚助けることすら出来ずに見殺しにしたも同然なのだから。だが私に出来ることは限られていた。今でもあれが最善策だったと思ってはいる。
「最低な人だ」
「お前には言われたくないな」
「センセーもアイツの味方なんですね」
この前と同じ不気味な笑みが包帯の間から覗く。私の心の臓は震え上がっていた。
「それならセンセーも境と同じ場所に逝きましょうか。長谷川センセー、サヨウナラ、もう会うことは無いでしょう」
刹那、腹部から発せられる激しい熱。そして生暖かい感触がヌラリと肌を伝った。その熱が、感触が何であるかを察したときにはもう遅い。視界が白くぼやけ、その奥には不気味な笑みがひとつ。
それが私の最期の記憶であった。
死紙 東雲 彼方 @Kanata-S317
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