第3話 The calm before the storm
ゆっくりと瞼を開けると、見知らぬ天井が見えた。
(そうだった、昨日はエマ達と......)
目をこすりながら、立ち上がり体を伸ばした。
窓を見ると薄っすらと朝日が昇り、小屋に薄灯りをもたらしていた。
辺りを見ると、エマとシャーリーはまだ夢の中のようだった。
そばに転がっている白のテンガロンハットを被り、拳銃を抜く。
簡単に拳銃の動作確認をし、油を染み込ませた布で拭きあげる。
そして、ホルスターに直し腰に付けている鞄を開けた。
羊皮紙に『少し馬を見てくる』とメモを残し、外に出た。
外は少し肌寒かったが、日が昇るにつれてだんだんと暖かくなっていく。
手持ちの時計を見ると針は6時を指していた。
まだ、馬屋に行くのはまだ早いと思い、方向を変えて武器屋の前のベンチに腰掛けた。
すると、すでに武器屋の主人は中で何やら準備をおり、ゴソゴソと音がする。
時折通る人を見ながら、ぼーっと辺りを見渡していた。
20分ほど経っただろうか、空は既に明るくなっており大分体は暖まっていた。
すると、武器屋のドアが開いて主人が顔を出した。
「おはよう、パール。あんたも朝早いね。なんか買っていくかい?」
「ええ、せっかくだし見てみるわ」
主人に続いて中に入ると、早速なにやら箱を取り出してきた。
「これは昨日入ったやつでね、大口径の拳銃だ。君なら気にいると思ってな」
箱を開けると、見たことのない形の拳銃が入っていた。
拳銃に手を伸ばし、手に取ると見た目とは裏腹にそこまで重くなかった。
「これは…なんて銃??自動拳銃みたいだけど…」
「俺の友人に技師がいてな、新型の拳銃を作ったが、実地で使えるか試したいという事で格安で手に入れたんだ。…名前はなんて言ってたかな…確か、ハンドキャノンって呼んでたかな」
「なるほど…ハンドキャノンね」
マガジンを抜き、弾を確認すると、たしかに大きめの弾が入っていた。
キャノンという名前に負けないような威力を持ちそうだった。
「で?これをいくらで売ってくれるの?」
「流石話が早い。そうだな… 君なら130ドルでどうだ?その代わり、この店に寄る時は銃の感想を聞かせて欲しい。友人にそういう約束で売ってもらったからな」
「130か…、交渉成立ね。ついでに弾丸も200ほど頂戴」
「ありがとよ、パール。45口径だが、あんたなら使いこなせるだろう」
主人はカウンターの下から箱を二つ取り、カウンターの上に置いた。
弾の入った箱を受け取り、カバンに入れた。
そして、ハンドキャノンを腹部に付けたホルスターに直し、扉を開いた。
いつのまにか外は人通りが多く、大抵のものは忙しそうに歩き回っていた。
しかし、今日は何やら雰囲気が異なっていた。
街中でヒソヒソと皆が話をしており、何やら困っている様子だった。
だが、中にはフラフラとまだ酔いの途中の奴も居て、私は特に気に留めてなかった。
この町ではいつもの事だからだ。いや、この世界どこも同じかもしれない。
通りを歩き、馬屋に向かう。
大きな扉を開き、中を覗くと私の今の愛馬が居た。
レニーはあの日に火に包まれて亡くした。
その後この町に来て最近買ったのが、この茶色の美しい馬、サニーだ。
馬屋に入り、主人に軽く挨拶を交わしてサニーに触れた。
まだ私に慣れていないようで、少し距離感を感じた。
「よしよし、サニー。外に出ましょ」
頭を撫でながら、鞍を引いて外に出る。
出るときに主人に金を支払い、サニーに跨った。
サニーの横腹を軽く蹴り、走らせる。
行き先はエマ達の小屋だ。
サニーはかなり足の速い馬ですぐに小屋に着いた。
馬から降り、近くに鞍を固定する。
中からは、何も音が聞こえてこなかった。
(まだ寝てるのかな?それともどっかに出たのか…)
そう考えながら、扉に近づくとエマが飛び出して来た。
勢い良く開かれた扉は私の顔を直撃した。
「ソフィア!!!…あ、ごめん!」
私は鼻を抑えながら、エマを見る。
エマのすぐ後ろにシャーリーも顔を覗かせ、二人とも信じられないような物を見たような顔をしていた。
「痛った〜、全く。そんなに急いでどうしたの?」
「そうだった!!アンタ、ショーンの事知ってるかい!?」
「ええ、知ってるけど…」
「あいつが賞金首に載ったんだってよ!」
「そうなの?まぁ、何やら大きな男になるだか言ってたからね。殺人でもやらかしたの?」
すると、シャーリーがエマを抑えて話し出した。
「ええ、昨日。保安官と保安官補佐を殺したらしいの。さっき死体は発見されたんだけど、近くにメモがあってその内容がとんでもなかったの」
「メモ?」
「そうなの、内容は『これは俺達デッド・スカルズの遊びの始まりに過ぎない。今夜、この町は俺達の狩場になる。無駄な抵抗をしなければ金品と女だけで、命までは取らねえ』って書いてあったの」
「なんでショーンだって分かったの?」
「メモの裏にショーンのサインがあったんだって。しかも最近あいつギャングに入ったって噂も流れてたから」
「なるほどね。で?どうする?この町から離れる?」
そう言うと、遠くから銃声が聞こえた。
咄嗟にピースメーカーを取り出し、音の方向へ走る。
エマとシャーリーも私について来た。
町の入り口に走ると、既に人だかりが出来ており、その一人に止められた。
「危ない!ここから出るな!」
「一体何があった……」
入り口から少し離れたところに、中年の女が倒れていた。
どうやら撃たれたようで腹部を抑えながら、こちらに手を伸ばしている。
「助けないと!」
咄嗟に飛び出そうとするが、同じ人物にまたも制止された。
「やめろ!これ以上は危ない!」
「どう言う事!?」
「アンタもあのショーンのメモを見ただろ!今日この町を襲うみたいな内容の! あの女はこの町から避難しようと出たら何処からか撃たれたんだよ!多分、あのギャングどもが俺たちを遠くから見張ってるんだ!誰も逃さないように! くそっ!抵抗しなければ命は取らないんじゃないのか!」
「そんな…」
そう言うと、また銃声が響いた。
奥を見ると、遠くに転がる女の頭から血が吹き出し、女はピクリとも動かなくなった。
町人はそれを見ると、皆パニックを起こしていた。
この町は元々、そう言った騒動が少なかった。
保安官も一人で賄えるほど、基本的に治安は良い町だった。
だから、戦える人間は少なかった。町人の多くは商人か農夫で銃を生業としない者たちばかりだった。
私はエマとシャーリーに近づき、話しかけた。
「で?どうする?」
「この町から出ようとすると、狙撃される…。だからってギャング達に捕まるのは…」
「そうだな、そういうのを逃れてこの町に来たんだ… くそっ!せっかくいい町だと思ったのに!」
エマはそう言うと、悔しそうに拳を握った。
シャーリーは辺りを見渡すと、悩んだ顔で話し出した。
「ここでギャング達と戦うって手もあるけど… 広いところなら遠距離武器があるアイツらには勝てないけど、街中ならなんとか…」
「何言ってんだよ!シャーリー!私ら3人だけで戦うつもりか!?」
「いえ、この町で戦えそうな人を選んで…」
「だとしても…」
「……シャーリーの言う通りだ。もうアタシ達には二つしか道はないようだし。捕まって一生奴隷みたいに扱われて殺されるよりマシだ…」
「エマまで………そうねやるしか無いか」
すると、エマが民衆の真ん中に歩いて行った。
「あんた達!こうなったら道は二つだ!戦って死ぬか、黙って殺されるか! アタシ達3人は戦う事に決めた!」
そう叫ぶと、民衆は一斉に彼女の方を向いた。
「なんだと!?お前達が抵抗したら他の人達も死ぬじゃ無いか!もう諦めてあいつらの言うことを聞いた方がいい!」
そう一人の男が叫ぶと、近くにいた中年の女が声を荒げた。
「あいつらが約束を守ると思うかい?!殺されたあの女を見ても!……決めたよ!アタシも戦う!娘をあいつらに渡してたまるもんですか!」
「その通りだ!妻が戦うと言うなら俺も戦うぞ!」
「よく言った!おっさん、おばさん! …女4人と男1人で戦わせるつもりか? この町には本物の男は居ないのか!」
民衆はしばらくざわめくと、そのうちの半分ほどが手を上にあげ、戦う事に賛同し始めた。
「戦う気があるやつは、町の中央の酒場に集まるんだ! 戦う気がないやつは家に閉じこもって、縮こまってろ!」
エマはそう言い放つと酒場に向かった。
私とシャーリーもとりあえず彼女の後に続き、酒場へと向かう
酒場に入ると、エマは一番大きな机の前に立っていた。
「具体的にどうする気なの、エマ」
「思ったよりいい感じな反応だったからな、結構な人数になると思う… あとは…」
「私に任せて」
シャーリーはそう言って羊皮紙を取り出す。
そして、ペンを取り出して酒場を中心とした町の地図を描いた。
そうしているうちに酒場には約15名ほどの男女が入ってきていた。
「皆、よく聞いて。敵の人数が分からない限り、こっちから出て行って戦いに挑むのは無謀。だから町中で戦おうと思う。この酒場に約半数があいつらとはじめに応戦する。後は向かいの宿屋の二階や、商店の屋根から狙撃して一網打尽にするのが一番だと思う」
酒場に集まった者達はそれを聞き、あれやこれや案を出して行った。
しばらくすると妥当の策が出来上がり、皆バラバラに分かれて準備をする事にした。
私も酒場から離れ、商店に寄った。
寄る途中、子供や妻と最後の挨拶をする者や、緊張の面持ちでウロウロする者達が目に入った。
そういったものを横目に見ながら、商店に入り、新聞と昼食のパンと缶詰を3人分買った。
エマ達の家に戻ると、2人はガンマンのような格好に身を包み、銃の点検を行っていた。
「久しぶりに見たよ、2人のその格好」
「そうだな、半年ぶりか?少し埃かぶっていたよ」
「腕は落ちてないといいんだけど…」
「まあ、昼ごはんを買ってきたから食べましょう」
「あら、もうそんな時間?じゃあ頂きましょう、エマ」
「そうだな」
買ってきた昼食を2人に渡し、近くにあった椅子に座りながらパンにかぶりついた。
昼食を終え、新聞を見ていると気になる記事があった。
「ねえ、ちょっとこれ見て」
「どうしたんだ?」
新聞には『半年前にとあるエルフの農場で銃撃戦があった模様!ギャングは壊滅しており、農場にはエルフの姿も何やらおかしな噂の農夫の姿も見えない。彼らはどこに行ったのか?』と書いてあった。
「これって…」
「あの日の事だよな……」
「でも、ここの噂の農夫の姿が見えないって所…」
私はたった一つの希望を見つけた。
まさか、あの状況を潜り抜ける事が出来る人が居るなどと考えられず、彼はすでに死んだと思っていた。
死んだと思った人が実は生きていた、なんてどんな反応をしたらいいのか分からないが、気がつくと新聞に水滴が落ちていた。
その水滴が涙だと気付くのには時間はかからなかった。
涙はいくつもいくつも新聞の上に落ち、新聞を濡らす。
私は袖で涙を拭うが、滞りなく涙は流れた。
だが、私の心にはこんな状況だと言うのに、嬉しさが一杯になった。
そして、たった一つの希望を口にした。
「ウィリアムが、生きてる……」
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