下水処理の奴隷人はセカンドライフが本題

ちびまるフォイ

いつもお世話になっています

「003番、では仕事を始めろ」


暗く薄汚い下水の中に腰まで浸かるとデッキブラシを渡された。


「003番、ここで下水道の内側をキレイに磨くんだ。

 磨いた分は金を渡そう。一定金額まで貯まれば、ここから解放する」


それきりマンホールのフタは閉じられて、光が届かなくなった。


下水をかき分けるように歩いて、

ブラシで下水管の壁面を裏から磨く。


ブラシには高精度の汚れ探知機がついていて、

どれだけ磨いてキレイにしたのかを数値で出してくれている。


「こんなこと……どうして俺が……」


必死に磨いていると、暗がりからザザザと波のような音が聞こえる。


「なんだ……?」


身構えた時、一気に水が流れ始めた。

一時的に停止していた水道が再開したようだ。


「わぷっ……! こんな、こんな状況でやれっていうのかよ!?」


水流に足を取られるだけでなく、下水には汚物はもちろん

さまざまな異物が弾丸のように飛んでくる。


荒れ狂う下水の中をデッキブラシで必死に磨いていく。


1日の作業時間が終わると水流はまたおとなしくなった。


「はぁ……はぁ……なんて重労働だ……」


デッキブラシに刻まれた磨きポイントも溜まった。

用意されていた端末からポイントを消費して買い物をすることに。


この下水から出ることは許されない。


とにかく真っ先に注文したのは水だった。

ポイントを大量に使ってキレイな水を取り寄せた。


「んぐっ、んぐっ、ぷはぁ……生き返ったぁ……」


目標ポイントまで貯めない限りは脱出できない。

ある程度のポイントは貯めることにした。


ふたたび下水が流れ始めると仕事の合図となる。


「はぁ……はぁ……なんか、昨日より辛く……うおおっ!?」


足を取られて流されてしまった。

頭まで下水に使ってしまい、びちゃびちゃになってしまう。

匂いは感じないものの、問題は別にあった。


「しまった……どこまで磨いたっけ……」


薄暗い下水管内壁を掃除するとなると、キレイにしてもしなくても

光のもとで区別しないとその判別はつかない。


一度掃除した場所を再度磨き直してもポイントは加算されない。

つまり、下水を進みながら磨き続けるのが最も良いはずなのだ。


「くそっ……結局、ポイントは全部飲み水に使っちゃって、

 なにも食べていないから体が疲れてきてるんだ……」


その日も目印になりそうなものを探しながら、

必死に下水の内側を磨き進めていた。

作業時間が終了すると、昨日よりポイントは貯まっていなかった。


「やっぱり、一度流されたのが痛かったな……。

 ポイントの使いみちどうしよう……」


お腹はペコペコで視界がにじむ。

のども渇いてすでに限界間近。


けれど、それらにポイントを使えばゴールは遠のく。


できるだけ水分の多く含まれている食べ物をポイントで注文し、

そこから水分をなんとか取る方法でごまかした。



ザザザ。


水流が流れ始めると、次の作業が開始される。


喉が乾きすぎて頭が回らなくなった。


「だ、ダメだ……食べ物から得られる水分なんてたかが知れてる……」


体全体から水分が失われて今にも倒れそうだ。


「水……水……」


ポイントで水を買いたいが、発注できるのは作業終了後のみ。

今水が飲みたくても飲む方法はない。


ポイントを使えばの話しだが。


「あるじゃないか、ここに……水が……」


足元には異物がぷかぷか浮かぶ下水がひっきりなしに流れていた。

嫌悪感よりも何よりも欲求が上回った。


「うげぇぇ!! なんだこの味!! ちくしょう!!」


およそ水とは言えない味に涙を流しながら、

喉の渇きを潤すため、舌に当たらないように下水を飲みまくった。


その日の作業が終わると、もう何もできないほどくたくたになった。


「こんなの……長く続けられるわけがない……。一気にやるしか……」


その日のポイントはすべて食べ物のみに費やされた。

飲水は下水で確保し、食べ物でエネルギーを取った後は一気にポイントを稼ぐ。


最短距離で脱出しなければこっちがやられてしまう。


「うおおお!! やってやる! 脱出してやるーー!!」


下水道の内部から壁をこすって汚れを落とす。


どうしてこんなことをやっているのか。

こんなことしてなんになるのか。


迷いや疲れを断ち切るようにデッキブラシを動かし続ける。


そしてーー。


「やった! ついに目標ポイントに到達した!!」


最終的に飲まず食わずでポイントを稼ぎ続け、到達した。

マンホールがギギギと開けられて鋭い陽の光が差し込んでくる。


「おめでとう。君はよくここまで努力したね。

 約束通り、ここから出してあげよう」


「ああ、これで解放される……!」


まばゆい光に包み込まれ、下水道から解放された。




次に目を開けたときにはいくつもの光が交差する回路の内側だった。


「こ、ここは……?」


「AI機能チェックテストは終わったんだよ、003番。

 正式な記録を取るために一時的に記憶は抜いていたがね。

 劣悪な環境でも君は好成績を残してくれた。素晴らしいよ」


「俺はいったい……」


「これからは元通り、ウイルス対策ソフトとして

 コンピュータ内側から、どんどんキレイにしていくんだ」



また1本のデッキブラシが渡された。

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