第45話 ワールドリメイク☆ダイスロール
相賀が気が付いた時には、そこは真っ白な空間の中にいた。
そしてそこには、いつ振りかに見る女神の姿があった。
「惜しかったわねぇ。もう少しでいい感じのところまで行けてたのに」
女神が終わったかのような口調で話す。
「どうやらあの後は、あの女騎士がどうにかしてドラゴンを倒したみたいだし、まぁ結果オーライってところかしらね」
しかし、そう言われても、相賀は何か真剣な表情でいた。
「ん?何、どうしたの?」
「神様、ひとつお願いがあるんですが」
「お願いって何よ?」
相賀は立ち上がり、女神に向き直る。
「な、何よ改まっちゃって……」
「神様、もう一度あの世界に行かせてください」
「はぁ!?どういうこと?」
「もう一度あの世界のあの時間に転生して、ドラゴンとの決着をつけたいんです」
「それって……あの場所あの時間ぴったりに転生するってこと?」
「そうです」
「無茶よ。そんなこと出来るわけないわ。一体どれだけの確率だか分かっているの?」
「分かりません」
「無量大数分の1よりも低い確率なのよ?出来るわけないわ」
「いいえ、出来ますわ」
そういって、一人の女性が出てくる。
「師匠……」
「私も自分の実務の傍ら、相賀君の転生の様子を見てきました。彼の願いのためなら、私は神の間を越えた手伝いをしましょう」
「それって……」
「ある程度シード値の設定をしましょう。しかし、それでも完璧になるわけではありません。結局は相賀君の運次第になるでしょう」
「それでも構いません。お願いします」
「あれ、私置いてけぼり?」
女神の師匠は、パソコンに手を伸ばし、カチャカチャとシード値を設定していく。
しかし、最後の文字は入力せずに、空白のままである。
「この状態のまま、世界を構築してみてください。先ほどの確率よりかは簡単にあの世界に戻ることが出来るでしょう」
「ありがとうございます」
「さぁ、行きなさい」
そういって、相賀はパソコンの前に立つ。
そして、エンターキーを押した。
すると相賀の視界は一瞬暗転する。
そして視界に光が戻った。
相賀は周辺を確かめる。
そこは森の中だった。
そして、そばには小さくなった自走式馬車がある。
「戻ってこれた……!」
相賀は喜んでいたが、すぐに気を取り直す。
相賀は馬車に積んであった荷物を急いで開ける。
そこにあるのは、荷物入れに使っていたバッグと、使い古したグローブであった。
防具の類いや魔石はなかったが、それも仕方ない。
相賀は荷物入れのバッグと持てるものを持って、急いでドラゴンの元に向かう。
その時だった。
「マサヤさーん!」
ルナの叫ぶ声が聞こえてくる。
相賀は急いでドラゴンの元に走っていく。
そして、その姿が見えた。
ドラゴンは、炎を出しつくし、そのまま咆哮を上げる。
相賀はその瞬間を逃さなかった。
相賀は持てる全力を出し、そのままドラゴンの横っ面に拳をお見舞いする。
しかし、魔石の強化もなしに殴ったものだから、どうにもダメージが入っているようには見えない。
「マサヤさん!?」
ルナの驚く声が聞こえてくる。
相賀はドラゴンの頭から飛び、ルナの横に向かう。
「ルナさん、心配をかけました」
「マサヤさん、今どこから……」
「その辺の話はあとでします。今はドラゴンを倒すことに集中しましょう」
「……はい!」
相賀は、ボクシングのように構え、力を込める。
ドラゴンを倒す。そのためだけに。
その時だった。
相賀のバッグから、虹色の光があふれだす。
その瞬間、相賀の体からどんどん力があふれてくるようになる。
「これは……虹色魔石の光!」
ルナが驚いたように言う。
「ということは、マサヤさんが選ばれた人間!?」
その声も届かず、相賀は拳に力を込める。
「はぁぁぁ……!」
そのまま拳を突き出す。
するとどうだろうか。
霊体化したような巨大な拳が顕現し、そのままドラゴンに向かって飛んでいく。
ドラゴンは回避することも出来ず、もろに食らってしまう。
そして、姿勢を崩して倒れこんでしまう。
相賀は巨大な拳をコントロールしている感覚を感じる。
そのまま、巨大な拳をさらに巨大化させて、ドラゴンを丸ごと包み込んでしまう。
そして、そのまま圧倒的な力をもって、握りつぶす。
ドラゴンは抵抗するものの、あえなく握りつぶされてしまう。
地上には、ドラゴンの血が大量に滴り落ちる。
そして、巨大な拳は相賀が手を開き、力を抜くと同時に消えていった。
残ったドラゴンの残骸は地上に落ちる。
そして虹色の光は次第に小さくなっていく。
「勝った……」
ジェシカがぽつりをこぼす。
それに呼応するように、近くにいた騎士が生存確認を行う。
「……息してません!我々の勝利です!」
それを聞いた相賀は膝を着き、深い溜息をつく。
そこにルナが走ってきた。
「マサヤさん!」
そしてそのまま抱きしめる。
「ル、ルナさん!?」
「マサヤさん、良かった……」
相賀はそのまま、ルナのことを抱きしめるように手を回した。
―――
その後のことだが、未到達地でのドラゴン討伐に、王国中が沸いた。
そして相賀のことを、いつしか「ドラゴンスレイヤー」と呼ぶようになる。
その功績あって、相賀は王国の国王に謁見することになった。
その後もしばらく冒険者として活躍し、36年後に引退する。
そして、相賀が60歳となったころ。
相賀は寿命が近くなっていた。
体中しわくちゃになり、老人のようになっている。
もともと冒険者という過激な仕事を主としていたものであるから、当然の帰結と言えるだろう。
相賀はベッドに横になって、静かな午後を過ごしていた。
そしてそのそばには、あの時と同じようにルナがいた。
「ルナさん」
「なんですか、マサヤさん」
「……今日までありがとうございました」
「もう、昨日も言ってたでしょう?」
「そう、かな」
そういって、相賀はルナの手を握った。
しかし、それはほどなくして力がなくなる。
相賀雅也、60歳にてこの世界を去った。
―――
「……なさい。ちょっと!起きなさいってば!」
その声と共に、相賀は目を覚ます。
その場所はいつぞや見た時と同じように、真っ白な空間であった。
そして目の前には、女神がいた。
相賀は自身の姿を確認してみると、高校生のときの姿に戻っているではないか。
「あれ、僕は……」
「ちょっとー。老人になったからって、頭まで老人になってるんじゃないでしょうね?」
「確か僕は……」
「寿命で死んだのよ」
「ならなんでここにいるんです?」
「あなた、覚えてないの?自分の神の加護を」
「僕の加護は、死んでもここに戻ってくることが出来る……」
「『原初転生』って加護。あなたは寿命で死んで、ここに戻ってきたの」
「じゃあ、僕って……」
「実質的に不死身の人間ってわけ」
相賀は納得したような顔をする。
「で、どうするの?」
「どうするって?」
「『原初転生』を出した人間は一応いるっちゃいるわ。その人たちは一部は今も転生を楽しんでいるようね。そのほかには神の仲間入りする人もいるみたいだけど」
「そう……なんですか」
「それで、あなたの答えはどうなの?」
「僕は……せっかくですから、しばらく転生を楽しみたいと思います」
「そう、それがあなたの答えね」
そういって、女神はパソコンを差し出す。
「せっかくだから、これで転生先を決めましょう。今度はいい感じの世界になるように調整しているわよ」
「そうですね、それも一興というものですね」
そういって、相賀はエンターキーに指を持っていく。
「いざ、ワールドリメイク・ダイスロール!」
ワールドリメイク☆ダイスロール! 紫 和春 @purple45
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます