第44話 そして……

 相賀が先頭になって、全力で駆ける。

 その先には、ドラゴンが霊体化の相賀のことを探していた。

 相賀は先行してドラゴンに立ち向かう。


「とりゃあ!」


 相賀は身体強化の魔石の力を使い、大きく飛び上がる。

 そして、ドラゴンの脳天に強く拳をぶつけた。

 だが、ドラゴンはなんともないような感じで、相賀のことを睨む。

 そのまま頭を振り回して、相賀のことを引きはがす。


「くそっ!」


 相賀は仕方なく、ドラゴンの頭から離れる。

 そして、次のチャンスをうかがう。

 ドラゴンの方も、相賀の出方をうかがっているようで、お互いジリジリと睨み合っている。

 そこに飛んできたのは、巨大な火の玉であった。

 相賀が驚いて後ろを見ると、そこには若干息の荒いルナが立っていた。


「ルナさん!」

「マサヤさんがドラゴンに手を出しちゃったら、私も一緒に倒さないわけにはいかないでしょう……!」

「ありがとうございます、ルナさん!」

「私も交わらせてもらうわ!」

「ジェシカさん!」


 そして、騎士たちも一緒になって、前線に立ってくれている。

 一方でローランたちは、遠くの方で見守るように立っていた。


(今はローランたちの力は借りないでおこう)


 余計なことを言っても仕方ない。

 そう考えた相賀は、ローランたちを抜きにして、ドラゴンと対峙した。

 ドラゴンが大きく咆哮を上げると同時に、全員が動く。

 ジェシカを含む騎士たちは、左右に分かれてドラゴンの足元を狙う。

 ルナは呪文を唱えて、攻撃を使用とする。

 そして相賀は、まっすぐに突っ込んで、首元を狙う。


「ホーリー・アイス!」


 ルナの魔法が炸裂する。

 巨大な氷の塊のようなものは、まっすぐドラゴンの頭目掛けて飛んでいく。

 ドラゴンはそれを回避しようと、上に飛ぼうとする。


「でぁ!」


 そこをジェシカ率いる騎士たちが、足元を切ることで回避をさせないようにする。

 それはうまくいき、ドラゴンは飛べずに終わる。

 そして、真正面から氷の塊を食らった。

 その影響か、ドラゴンの顔面から首にかけて、霜のようなものに覆われた。

 そこを相賀が首の下に回って、ジャンプしながらパンチを繰り出す。


「昇〇拳!」


 身体強化によって強化された相賀のアッパーカットが、ドラゴンの首を正確にとらえる。

 そのまま、ドラゴンの首が変な方向に曲がる。

 ドラゴンは吐血でもするかのような、変な声を上げる。

 しかし、ドラゴンはそんなことをもろともせずに、首を振り回す。


「うぉっと!」


 相賀はそれに巻き込まれないように、見切ったうえで避ける。

 そしてそのまま下がった。

 ドラゴンの下では、騎士たちがドラゴンに一太刀入れようと懸命に剣を振り回している。

 すると、ジェシカの剣がドラゴンの前足の鱗の隙間に突き刺さる。


「やった!」


 しかしそう言っているのも束の間。剣が抜けないようである。

 そのままジェシカは剣を持ったまま、ドラゴンの足に振り回されてしまう。

 そして、次の瞬間にスポッと抜けた。

 ジェシカは宙に投げ出されてしまう。

 しかもその先には、ドラゴンの首が迫っていた。


「危ない!」


 相賀は思わず、念を込めて地面を蹴る。

 地面を蹴る瞬間、魔石の効果による身体強化が行われた。

 相賀の体はまるで瞬間移動のように、ジェシカの元に飛んでいく。

 そのままジェシカの体を抱えてドラゴンの首を離れる。

 そして、ドラゴンのしっぽ周辺に着地した。


「あ、ありがとう……」

「礼はあとです。今はドラゴンを倒すのが先です」

「あぁ、そうだったな」


 そのような感じで、相賀たちは次第にドラゴンのことを追い詰める。

 足元で騎士たちがドラゴンの足を傷つけ、相賀がドラゴンの本体に直接ダメージを与え、遠くからルナが魔法による補助を行う。

 こうすることで、ドラゴンにジリジリとダメージを与えることに成功する。

 そして、互いに息も上がるころだ。


「よし、もう少しで倒せる!」


 その時だった。


「よくやったな、マサヤ!」


 後ろから声が聞こえる。

 相賀が振り返るよりも先に、相賀の横をローランが通り過ぎる。


「ローラン!」

「ここまでよくダメージを負わせてくれた!そしてドラゴンを倒すのは俺だ!」


 ここに来て、ローランが戦果を横取りしようとしていたのだ。

 おそらく、今まで後ろで見ていたのは、この機を逃さないようにしていたためだろう。


「いっけーローラン!」

「やっちまえ!」


 キャロルとガイバーはローランのことを応援している。


「うぉぉぉ!」


 ローランはドラゴンの頭に向けて、剣を振り下ろそうとする。

 その時だった。

 ドラゴンの口から、炎のようなものが噴き出した。


「へっ?」


 ローランはそのまま、炎に巻き込まれた。


「あっ……」


 相賀は思わず手を差し出そうとする。

 しかし、時すでに遅し。

 ローランの体は空中で真っ黒に焦げ、そしてそのまま地面に落ちた。


「ロ、ローラン!」


 思わずキャロルが叫ぶ。

 それを見たガイバーが、ディザストハンマーを強く握る。


「うあああ!」


 ガイバーも、ローランのあとを追いかけるように、ドラゴンに突撃する。


「待て、ガイバー!」


 相賀の制止もむなしく、ガイバーも炎にまみれて炭と化した。


「そんな、ガイバー……」


 キャロルは力が抜けて、その場に倒れてしまう。

 この状況、どのように切り抜ければよいのだろうか、相賀は考える。


「とにかく攻撃をしましょう!相手は瀕死です!」

「そうね、とにかく攻撃あるのみよ!」


 そういって、相賀たちはもう一度散開して攻撃を加える。

 散開した状態なら、ドラゴンも狙いを定めにくくなるだろう。


「よし、これなら攻撃を加えられる!」


 相賀や騎士たちが攻撃することで、ドラゴンを翻弄する。

 完璧な状態だ。

 そう思っていた矢先であった。

 ドラゴンが急に一点を定める。

 その方向には、ルナがいた。

 ドラゴンは口から炎を繰り出そうとしている。

 それだけでドラゴンが何をしようとしているのか分かった。


「ルナさん!逃げて!」


 相賀は思わず、ルナのほうへ飛んでいく。

 どうにか、ドラゴンの炎が到着する前に、ルナのもとに到着しようとしていた。

 しかし、ドラゴンの炎は目前に迫っている。

 相賀は瞬間的に考え、そして一つの結論に至った。


「ルナさん、ごめんなさい」

「マサヤさん?」


 相賀は、ルナに聞こえるように、言葉を発する。

 そして、そのままルナの体を吹っ飛ばした。

 ルナは遠くの方に飛んでいく。

 そしてルナのいた場所に、相賀だけが取り残される。

 次の瞬間。

 相賀はドラゴンの炎に焼かれた。


「マサヤさーん!」


 状況を把握したルナの声が静かに木霊した。

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