第43話 最強の生物
相賀が空を見上げると、そこには見たこともない巨大な何かが舞っていた。
「マサヤさん……逃げましょう……」
何かにおびえるように、ルナが相賀の服の袖を掴んで言う。
しかし相賀は、空を舞っている何かを確認するまで動けずにいた。
巨大な何かは、太陽を背にしているため、相賀からの位置ではまともに見ることができない。
その時、巨大な何かがゆっくりと地面に降り立つのを見た。
巨大な何かが地面に降り立った時、地面が大きく揺れる。
そしてそれは咆哮を上げた。
相賀はそれを見て察する。
そこにいたのは、真っ赤な鱗で覆われたドラゴンだった。
体長にして20mは超えているだろうか。
とにもかくにも、人間の手に負えるような生物ではないのは確かだろう。
「逃げよう!」
相賀はルナを抱え、馬車を引きながらその場を立ち去る。
その際に、ローランたちにも、逃げるように指示をした。
ローランたちは曖昧な返事をしつつ、その場を後にする。
こうして森の奥へと逃げ込んだ相賀たちは、どうにかドラゴンの目を掻い潜ることができた。
「ルナさん、あれは一体……」
放心状態であるルナを起こし、相賀は説明を求める。
「あれはドラゴンです。太古の昔から地上を支配してきたと言われた最強の生物です。しかしひと昔前までには、ドラゴンは絶滅したとされていたはずなんです。それがなんで……」
「とにかく、ここは穏便に逃げるか、倒すしかないでしょう」
「倒す?倒すなんてことはできませんよ。だって、相手は地上最強の生物ですよ?どんな相手だって倒すことは出来ません」
「ですが生物です。どんな生物だって、弱点があったり死ぬことだってあるでしょう」
「しかし無茶です!どんなに無謀な人間でも、ドラゴンだけは避けていたほどなんですよ!」
「……分かりました。ドラゴンを倒すのは今はやめておきます。しかし、もし人に危害が加わるようでしたら容赦なく倒しにいきますから」
そういって相賀たち一行は、ドラゴンが出たことをジェシカに知らせるために、歩みを進めた。
ジェシカのいる方向は、ドラゴンがいる方向とは真逆であるため、ドラゴンに遭遇せずに移動できる。
移動すること数時間。
何とかジェシカのいる班に追いついた。
「隊長!」
「ん?あなたは北東方面に向かってたはずよね?こんなところまでどうしたの?」
「報告します!我々が調査していた方面にて生きているドラゴンが発見されました!」
「生きているドラゴン!?それは本当なの!?」
「間違いありません!この目で見てきました!」
「不味いことになったわね……」
ジェシカは少し考えると、こう宣言する。
「現時刻をもって調査を中断する!直ちに騎士通信網を使って撤退するように指示!」
「了解!」
「あなたたちもすぐに撤退するのよ」
そう言った瞬間である。
遠くのほうから、何かの羽音が聞こえてきた。
「この音は……。まさかドラゴン!?」
その場にいた全員が上を向く。
木々の隙間から、赤い巨体が見え隠れしている。
全員が察した。
――ドラゴンだ。
次の瞬間には、ドラゴンはすぐ近くまで接近していた。
そしてドラゴンは、木々をなぎ倒して地面に降り立つ。
その衝撃はうまく立っていられないほどである。
そしてドラゴンはこっちを向いて咆哮を上げた。
「やっぱりやるしかないのか……!」
相賀は馬車から離れ、グローブを握りこむ。
身体強化の魔石が光り輝く。
それを感じ取ったのか、ドラゴンがこちらに向かって突進してくる。
相賀もそれに合わせて、吶喊した。
相賀の体は、まるで瞬間移動をしたかのように、ドラゴンの頭に移動する。
そしてそのまま、拳をドラゴンの頭に叩き込んだ。
ドラゴンの頭は、そのまま地面に叩きつけられる。
そのままドラゴンは、ぐったりと倒れこんでしまった。
「倒、した?」
その様子を見ていたルナが、ボソッとつぶやく。
「いや、まだです。気絶しているだけです」
そういって、相賀はルナのもとに駆け寄る。
「あの巨体を倒すには、霊体化が必要です。ルナさん、お願いできますか?」
「でも……」
「お願いします」
「っ!……分かりました。そこに横になってください」
ルナは、相賀に横になるように指示をする。
そしてルナは、相賀に霊体化の魔法をかけた。
その瞬間、相賀の意識が一瞬なくなる。
しかし次の瞬間には、相賀の意識は霊体化されていた。
相賀はすぐに起き上がって、あたりを見渡す。
すると、足元にドラゴンの体が横たわっていた。
相賀は反射的に、ドラゴンの体を蹴り上げる。
ドラゴンの体は宙に浮き、そのままルナたちのいる方向とは逆の方に飛んでいく。
ちょうどその時になって、ドラゴンの気絶が解けたようで、相賀に向かって咆哮を上げる。
相賀はちょっとビビったものの、どうにか握りこぶしを作って気合を入れなおす。
そして、ドラゴンに対して取っ組み合いを仕掛けた。
体格差はほぼ互角。相賀からしてみれば、自分の身長程度ある犬を相手にしているようなものだ。
相賀はとにかくがむしゃらに、ドラゴンに対してパンチなりキックなりをお見舞いしていく。
ドラゴンの方も、負けじとひっかきや噛みつきをしてくる。
しかし、お互いに決定打のないまま、相賀の霊体化の限界が来てしまった。
相賀の意識が、自分の肉体に戻っていく。
「不味いぞ、あのまま放置してたら大変なことになるかもしれない……!」
相賀は起き上がって開口一番そう言う。
「どういうことですか、マサヤさん?」
「どうもこうも、あの状態でドラゴンを放置してたら面倒なことになるって話ですよ」
相賀は持っていた荷物を全て馬車に積み込み、その場にいた全員に話す。
「このままでは、あのドラゴンによって僕たちの命が危険にさらされます。そのため、ここにいる全員で、あのドラゴンを倒すべきです」
「けど、全員で行った方が危険じゃない?」
ジェシカが反論する。
「僕が先頭に立ちます。皆さんは後ろから援護してもらえれば結構です」
そう言っている間にも、ドラゴンの咆哮は近づいてきている。
「とにかく行きましょう!」
そういって、相賀は駆け出した。
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