第42話 探索

 森に入ってすぐは、道もある程度出来ており、スムーズな移動ができるようになっている。


「ここは本当に未到達地なんですか?」


 相賀がそんな疑問を投げかける。

 そう考えるのも無理はないだろう。道もある程度は整備されているのだから。


「村から程近いところは、人の手が加わっているんです。しかしそれ以上先になると、すぐに鬱蒼とした森になりますよ」

「へぇ……」


 相賀としては、いまだ信じられないような考えがどこかにあった。

 それから1時間もしないうちに答えは出るだろう。

 道は砂利道のようにガタガタになり、道幅も狭くなってくる。

 そして、森の中で開けた場所に出た。

 そこに冒険者が集まってくると、ジェシカが前に出て、話し始める。


「これから振り分けを行う。冒険者諸君はそれぞれの騎士のもとに集まり、班を結成してくれ。それをしたあとは、班の騎士に従い、周辺の探索に出てくれ」


 そういって、班分けが始まった。

 班分けはスムーズに進行し、20組ほどの班が出来上がった。

 相賀たちは、なんの因果か知らないが、ローランたちと同じ班になってしまう。


「我々はここから北東方向に向かう。いいかね?」

「はい」


 班のリーダーである騎士が確認を行う。

 その返事には、相賀とルナだけが反応していた。

 一方でローランたちはというと、無愛想な顔をしてこちらを見ている。

 そのような態度であるから、相賀たちもなんとなく居心地が悪い。

 しかし仕事は仕事。そこは割り切ってやり遂げなければならないだろう。


「顔合わせは済んだな?では行こう」


 リーダーの騎士はお互いの様子を見て、出発の合図をする。

 先頭を行く騎士の後ろにローランたちが、その後ろを相賀たちが行く。

 この時、相賀はあることを考える。


(もし、ローランたちが何かしてくるなら、今のタイミングが一番いい。警戒だけでもしておこう)


 相賀たちにとって、先頭を行く騎士の姿を見失うことは最も避けなければならない事態だ。

 こんな山の中で遭難をするなど、考えたくもない事案だからである。

 そのため、歩みだけは絶対に止めないようにと相賀は考える。

 そのまま1時間ほど歩いただろうか。

 道という道はなくなり、なだらかな斜面を登っていた。

 そんな時だ。

 近くの草むらから、ガサガサという音が聞こえてくる。

 相賀たちの班は思わず身構えた。

 もしかすると、この間のオオアカグマのような動物が襲ってくるかもしれないからだ。

 ガサガサと草むらが揺れる。

 そして出てきたのはイノシシの子供であった。

 比較的小さな体をしているウリ坊は、チョコチョコとローランのもとに歩み寄っていく。

 しかし、ローランはそんなウリ坊のことを気にすることなく、警戒を続けていた。

 すると、近くの草むらが激しく揺れる。

 直後、草むらから巨大な何かが飛び出してきた。

 そして、巨体はまっすぐローランのもとに移動していく。


「はぁ!」


 ローランは巨体の動きを見切った上で避け、構えていた剣を振り降ろし、その巨体に一撃を加える。

 すると、巨体はそのままゴロゴロと転がり、そして止まった。

 相賀が巨体を確認してみると、それは1mは超えるであろうイノシシの死体であった。


「さすがだね、ローラン」

「相変わらず剣術では右に出るものはいねぇな」


 ローランのことを褒めたたえるキャロルとガイバー。

 その様子を見ていた相賀は、その剣術に圧倒されていた。

 ローランが相賀の視線に気が付くと、高圧的な目をしてくる。

 その様子に、相賀は若干イラッと来たが、すぐに気持ちを抑えた。


「マサヤさん……」


 心配になったルナが、相賀のことを呼ぶ。


「あぁ、大丈夫です。問題はないですよ」


 そういって、相賀はルナのことを安心させる。

 その言葉に、ルナも少し安心したようだ。

 その後、イノシシの死体を少し処理して、班は再び前進を始める。

 道中、地図の書き込みを行いつつも、前進をしていく。

 今回の目的は、地図の作成がある。

 そのため、地図を書き込んでいくのは重要な任務であるのだ。

 とは言っても、正確な地図を書き込むわけではない。

 大まかな位置を頼りに、大まかな地図を作成するだけだ。

 正確な地図の作成は、危険性や周辺の地域を探索したのちに行われる。


「よし、周辺の調査は済んだ。次に進もう」


 地図の書き込みを終えた騎士が、次に進もうとする。

 その時だった。


「ん?」


 相賀が別の方向を見ていた時に、何かを発見する。


「あの、あっちの方に煙のようなものが上がっているんですが」

「煙だと?」


 騎士が相賀の報告を受け、そちらの方を見る。

 すると、確かに煙が複数本上がっていた。


「よし、あそこに行ってみよう。そう遠くはないはずだ」


 騎士の先導で、煙の上がっていた場所へと向かう。

 1時間ほどしたあと、現場に到着する。

 そこには、小さな村があった。

 しかし、そのほとんどは焼け落ちており、人の姿を見ることは出来なかった。


「こんなところに集落があるなんて……」


 騎士は驚いたように、その情報を地図に書き込む。

 相賀は、火事の原因を突き止めるために、家屋の一つに近づいてみる。

 すると、どころどころ火の手が回っていない状態のある家の材料があることに気が付いた。


「どういうことだ?」


 普通、一般的な家屋の火災というのは、何もしなければ家は丸ごと火の手に巻き込まれることだろう。

 しかし、ここではそうなっていない。

 しかも、非常に家屋がバラバラになっている状態だ。

 普通に焼け落ちたのならば、ありえないところまで柱が吹き飛んでいるものもある。


(僕の想像が正しければ、焼けて倒壊したのではなく、倒壊してから焼けたのかもしれない)


 相賀はこのように推測を立てる。

 その時だった。

 遠くの方から、何かの咆哮のようなものが聞こえてくる。


「な、なんだ?」


 聞き覚えのない声に、相賀は戸惑う。

 すると、すぐ近くにいたルナが恐怖の声を上げる。

 ルナの方を見ると、ルナは頭を抱えてうずくまっていた。


「ルナさん!」


 相賀はすぐに駆け寄って、ルナの様子を確認してみる。

 ルナの様子は良くなく、ガタガタと震えていた。

 相賀はふと顔を上げてみる。

 すると、そこには恐怖の表情でいるローランたちの姿があった。


「マサヤさん……」

「ルナさん、この声はなんなんですか?」

「あれが……、あれが来ます……」


 その瞬間、相賀の視界に、ちらりとあるものが映った。

 相賀は空を見上げる。

 すると、そこには巨大な翼を広げた何かが舞っていた。

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