第41話 ローリャの村

 いよいよこの日がやってきた。

 相賀たちのほかに、多数の冒険者や騎士の姿がある。

 沿道には、彼らを見送ろうとしている民衆であふれかえっていた。


「すごいですね、まるでお祭りみたいです」

「でしょう?それだけ、未到達地への夢が大きいというものなんです」


 相賀の言葉に、ルナが反応する。

 中には出店まで引っ張ってきて商売をしている者もいるほどだ。

 そんな中、騎士たちの先頭にいるジェシカが声を出す。


「諸君、私は王立騎士団レイレス隊隊長のジェシカである。今日はこのような調査に同行できることに感謝を申し上げたい」

「ジェシカさん、結構偉い人だったんですね」

「みたいですね」


 ジェシカの演説の裏で、相賀たちは小声で話す。


「今日から数週間の間、我々は未到達地へと足を踏み入れることになる。そこにはどのような危険が待っているのかは分からない。しかしそれでも我々は進まねばならない。我々の歩みを止められるものはいないのだ。さぁ、征こう。あの地の彼方へ」


 演説が終わると、待っていたかのように音楽隊の演奏が始まる。

 それと同時に、民衆から割れんばかりの歓声が上がった。


「うぉっ。すごいですね」

「そうでしょう。それだけ未到達地への関心が高いんですよ」


 そして、ジェシカが合図を送る。


「総員、前へ!」


 その合図と共に、騎士団が前進を始める。

 その後ろにいる相賀たち冒険者も、しばらく経ってから動き始めた。


「しばらくは騎士団の皆さんについていくだけでいいみたいですね」

「そうですね」


 実際その言葉通りで、相賀たちは未到達地直前に存在するローリャの村まで、騎士団の後ろをついていくことになる。

 道中、野営を挟みながら、ローリャの村に向かう。

 そして、ローリャの村に入る直前で、またも遭遇した。


「まだ検問やってたのか……」

「確かに安全のためには仕方ないのかもしれないですけど、これだけの数を一気にやるんですか?」


 そういって、ルナは後ろを見る。

 そこには、もちろんのように冒険者がいる。ざっと数えても100人はいるだろう。


「検問の人も大変ですね……」

「そうですね……」


 そんなことを言いつつも、相賀たちは検問を無事に通過した。

 相賀たちは初めてローリャの村に入ることになる。

 そこは、規模からしてみれば、村というよりかは街のそれに近い。

 そのため、かなり栄えていると言っても過言ではない。


「冒険者諸君、これから数日間はこの村に滞在してもらい、英気を養ってもらう。その後、未到達地へと出発する。ここで最後の準備をするといい」


 そうジェシカが話す。

 早速冒険者たちは、各々の馬車をおいて、最後の準備を進める。

 相賀たちも例外ではなく、食料の買い込みなどをしていた。


「干し肉買いましょうよ」

「ダメです。お金がありません」

「いいじゃないですかぁ。マサヤさんのケチ」

「食料は十分に買い込んでるでしょう。ほかにも買っておくものがあるんですから、我慢してください」

「むぅ」


 そういって、ふてくされるルナの手を引っ張っていく。

 その夜は宿に泊まることなく、自走式馬車の荷台で寝ることにした。

 ほかの冒険者もそのようにしているほか、防犯という意味合いでも車中泊は十分な意味を持っている。

 そして数日が過ぎようとしていた。

 その間に、相賀はかつてのパーティメンバーであるローランたちと遭遇する。

 しかし、ローランたちが相賀のことに興味を無くしているのか、なんの言葉も交わさずに、通り過ぎるのみであった。

 そんなこともあり、相賀の気分は非常に微妙な状態である。

 しかし、そんな状態では仕事にならない。

 相賀は心を一新させ、目の前のことに集中しようと考えた。


「諸君、今日からいよいよ未到達地へと出発する。この先何があるか分からない。道も整備されてないため、馬車で乗り込むことも不可能だ。馬車で行ってもいいが、保障はしない。それでは、征こう」


 そういって、ジェシカ率いる騎士団を中心に、森の中を進んでいく。

 相賀たちは冒険者の中でも後発組だ。

 そんな相賀たちは、最後の最後まで、荷物の持ち運びに関して相談していた。


「必要最低限のものを持っていこうとすると、どうしても人が持てる量を越えますね」

「うーん、仕方ないですね。あの方法を使うことにしましょう」

「あの方法?」

「はい。もしもの時に、先輩から教えてもらってたんです」


 そういって、ルナは杖を一振りする。

 すると、馬車が小さくなって、人よりも少し小さいサイズになった。


「これが自走式馬車の特徴、大きさを変幻自在にすることができるんです」

「へぇ、すごい。これなら、引っ張って持っていけそうですね」

「でしょう」


 相賀たちはこの小型の自走式馬車を持って出発することにした。

 未到達地は主に山々によって覆われているため、非常に歩きにくいことが言える。

 そんな山道を騎士団や冒険者が移動しているのだ。

 今回の調査の目的であるが、まず第一に未到達地の危険性の排除が挙げられる。

 ローリャの村も昔は未到達地の領域に入っていたものだが、調査と入植のおかげで今は未到達地最前線の村として栄えている。これは未到達地の危険性を排除したことによる賜物であると言えるだろう。

 そして第二に、地図の作成である。

 地図を作成することにより、王国の領土を広めるという魂胆が存在している。

 領土拡大は現在の王国にとっては権力を示す指標になる。

 そのため、地図の作成は王国にとって重要な仕事であるとも言える。

 そんな目的は、末端の騎士や冒険者には伝わっていないが。

 こうして、相賀たち冒険者も交えた未到達地の探索は開始されたのだった。

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