第40話 出発前夜

 それから二人は、冒険者ギルドに向かい、手頃な依頼を受けることにした。

 それは、報奨金という大金を手にしたものの、それ以外にも、時間を持て余しているというのが本音だ。

 例の未到達地への調査は半月以上も先の話である。そのため、相賀たちはその間を依頼によって埋めようとしていたのだ。

 もちろん、比較的簡単なものを多くやっている。

 主に討伐や採取系の依頼だ。

 短期間でパッとやれるものを中心に依頼を受けていく。

 途中、様々なことがあったものの、どうにかして切り抜けることができた。

 そして、その時はやってくる。


「おい、見てみろよ!王立騎士団からの正式な依頼書だ!」


 冒険者ギルドの依頼ボードに、堂々と掲示されている、王立騎士団を示す封蝋がされた依頼書だ。

 この封蝋がされているということは、王立騎士団が正式に冒険者に対して依頼をしているということになる。

 そして、それに参加できるというのは、一種の誇りとして見いだされるのだ。


「よっしゃ俺が一番乗り!」

「あ、ずりーぞ!俺も行く!」

「私たちも行こうかしら」

「そうだね。これはめったにないチャンスだよ」


 そういって、ぞくぞくと冒険者が受付に殺到している。

 それだけ、冒険者にとって、王立騎士団と共に仕事するのが誉れなのだろう。

 その中には、当然相賀たちもいるのだった。


「僕たちも依頼受けときましょうか?」

「そうですね。けど、もう少し人が空いてからにしましょうか」

「分かりました」


 しかし、窓口に殺到している冒険者の数が多く、とても今受付できる状態ではないだろう。

 結局、相賀たちが受付できたのは、それから数時間後くらいであった。

 さて、受付が完了した所で、相賀はあることをしようと考えていた。

 そのため、相賀はルナにこう相談する。


「研究室に預けている報奨金の一部を出してもいいですか?」

「別に構いませんけど、どうかしたんですか?」

「少しやり残したことがあるので」


 そういって研究室に行き、報奨金の一部を取ってくる。

 そのまま、相賀はある場所へと向かう。

 その場所は、この惑星に転生してきたときにお世話になった場所である。


「ここです」

「ここって……」

「えっと、記憶を失って最初にお世話になった人の経営しているお店みたいです」

「お世話になった人って、バートン商会のバートンさんじゃないですか!」

「そんな有名な人なんですか?」

「当たり前じゃないですか!冒険者ならお世話にならない人はいないと言われるほど有名ですよ!そんな人と知り合いなんですか!?」

「えぇ、まぁ……」


 ルナのテンションは置いておいて、相賀は店の中へと入っていく。


「すみません、バートンさんはいらっしゃいますか?」

「会長になんの用事でしょうか?」

「相賀雅也が来たと伝えてもらえませんか?」

「お伝えはしますが、いらっしゃるとは限りませんよ」

「それでも構いません」


 そういって、店員は奥の方へと消えていく。

 そしてしばらくして、奥からドタドタと誰かが走ってくる。


「マサヤ!やっと来たか!」

「ご無沙汰してます、バートンさん」

「この間不穏な噂を聞いてから心配してたんだぞ!」

「あぁ、やっぱり来てましたか?」

「当たり前だ。まぁいい。こっちに来て少し話をしようではないか。そっちのお嬢さんも来るといい」

「は、はい」


 ルナは少し緊張している様子だった。

 相賀たちは奥の応接室のような場所に通される。

 そこに座ると、相賀を中心に話をする。


「それで、強姦したとかいう話が上がってきたんだが、本当か?」

「それは嘘ですよ。僕はしてません」

「そうだよな。いや、良かった。もししていたらどうしようかと思っていたんだがな」

「ははは……」

「それで、今はそっちのお嬢さんと一緒にやっているのか?」

「はい、そうです」

「は、初めまして、ルナと言います」

「お嬢さん、そこまで緊張しなくてもいいぞ。何もお嬢さんのことを取って食うわけじゃないんだ」


 そういって、バートンは笑う。


「それで、今日はなんの用事で来たんだ?」

「実は、この装備をもらったときの代金と、もらったお金を返そうかと思いまして」

「なるほどな。ツケを返そうって話か」

「そうです」

「金額はいくらか言ってなかったっけな」

「はい」

「まぁ、大まかにいって、、銀貨14枚と言ったところか」

「銀貨14枚……。はい、ちょうどですか?」

「おう、きっちり貰ったな」

「それで、これとは別にお金を……」

「あぁ、あれはいいよ」

「え、でも……」

「あれは俺が道端で落とした無くし物だ。それをマサヤが拾って使っただけに過ぎない」

「……いいんですか?」

「あぁ、構わない。これはある種の投資でもあるからな」

「ではそのように」


 こうして、しばらく三人は話し込んだ。

 そして夕方くらいになった時に、相賀はふと思い出す。


「そうだ。装備を一新しようかと思っているんですよ」

「おぉ、そうか。ならうちの商品を持っていくといい。ちょうどいいものを入荷したばかりだからな」


 そういって、相賀は売り場の方へと案内される。

 そこに、グローブが鎮座していた。


「これは最新の魔法工学によって製造された新品のグローブだ。今まで以上に攻撃力が強化されているのが特徴だ」

「ちなみにお値段の方は?」

「銀貨20枚だ」

「うっ、高い……」

「安心しな。そんなお前さんに、特別価格で提供してやる」

「特別価格ですか?」

「そうだ。特別に半額でいいぞ」

「半額ならなんとか買える……」

「どうだ、買うか?」

「……買います!」

「よし、そう来なくてはな」


 そうして、相賀は新しいグローブを入手した。


「古いほうのグローブも買い取ることはできるが、どうする?」

「いえ、これは持っておきます。大切なものなので」

「そうか。それもいい。大切にしろよ」


 そういって、相賀たちはバートンの店を後にする。

 そしてそのグローブに合うように、身体強化の魔石を購入しに行く。

 こうして、いよいよ未到達地への調査が行われる。

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