第39話 休息の日
レイレスの街に戻った相賀たちは、その日一日を冒険者ギルドで怠惰に過ごしていた。
もちろんその間にも、相賀に振り注ぐ視線は止まない。
「マサヤさーん、なんか暇ですねぇ……」
「今日は休憩の日って決めたのはルナさんでしょう?」
「それでもですよー。こうやって飲み食いだけしてても、楽しいことはやってこないですし」
ルナは若干酔っているのか、相賀に執拗に絡んでくる。
「そういえばマサヤさーん。マサヤさんの記憶って戻ってないんですかぁ?」
「……」
相賀は思わず言葉に詰まる。
「いやぁ、まだ戻ってないみたいですねぇ」
「うーん、やっぱり知り合いの子に頭の中を覗いてもらったほうがいいじゃないですかぁ?」
「それは困るかなぁ……」
「どうしてですかぁ?」
「……自分の知らないことを他人に見せびらかすほど、僕の心臓は強くはないので」
たった今相賀がでっち上げた嘘である。
「うぅん……。それでも不便なのは変わりないですよねぇ」
「僕は今のままでも十分だとは思いますけどね」
「な、何言ってるんですか、もう!」
そういって、相賀は肩をバンバンと叩かれる。
「いたっ、痛いですよ、ルナさん」
「このっ、このーっ」
そんな茶番のようなことをやっていると、受付の方から声がかかる。
「アイガマサヤ様、ルナ様、いらっしゃいますか?」
「ルナさん、呼ばれてますよ」
「うにゅ?」
相賀は、悪酔いしているルナを連れて、受付の方へと出向く。
「はい、自分ですが」
「マサヤ様とルナ様ですね?お会いしたいという方がいらっしゃいますので、こちらへどうぞ」
そういって相賀たちは、受付の裏へと案内される。
相賀にとって、ここに入るのは3度目だ。
パーテーションで仕切られた簡易的な応接室に案内されると、そこにはジェシカが座っていた。
「ジェシカさん」
「こんにちはー」
「二人とも元気そうでよかったよ」
「ジェシカさんこそ、ずいぶんと移動が早かったものですね」
「私の馬は優秀だからな」
「私の馬車も優秀です!」
「あれはルナさんの物ではないでしょうに」
「それで今日の要件なんだけど」
相賀たちの会話をぶった切るように、ジェシカが話を始める。
「この間の逮捕された依頼主の件で来たの」
「あぁ、あれですか」
「あの件で少し話があってね」
そういってジェシカは、椅子の横から少し大き目の袋を取り出す。
「これ、簡単に言えば報奨金ね」
「はい?」
「報奨金って、なんのヤツですかー?」
「例の男を捕まえたことで、男が所属していた宗教団体の摘発にこぎつけることが出来たのよ。最近出来た新興宗教は何かと危険なものが多いし、ここで一網打尽にできれば御の字なんだけどね。で、これは摘発に繋がった報奨金ってわけ」
「そうなんですか」
「一応お手柄に近いのよ。ありがたい限りだわ」
「お手柄ですって。よかったですね、マサヤさん」
「そうですね」
「そういうわけで、これは二人で山分けしてもらって構わないから」
「分かりました」
「それじゃあ、私はここで失礼するわ」
そういってジェシカは去っていく。
こうして、相賀たちは依頼料を受け取れなかった代わりに、報奨金という大金を手に入れた。
「この大金、どうしよう……」
「うぅ……、変に酔っちゃいましたね……」
相賀が大金をどうしようか考えている時に、ルナは酔いから少し醒めたようだ。
「ルナさん、この大金覚えてますか?」
「確か、報奨金か何かでもらったんですよね?」
「そこまで覚えているなら問題はないようですね」
「本当どうしましょう、この大金」
「どこかに預けられたらいいんですけどねぇ」
「うーん、そしたら私の研究室に来ませんか?」
「研究室ですか?」
「はい、どうせ今は荷物置き場にしか使ってませんし、自走式馬車の整備も頼みたいところでしたから」
「それじゃあ研究室に行きましょうか」
「はい」
そういって相賀たちは、レイレスの街に存在する大学へと向かった。
レイレスにある大学は、主に理工学の分野に幅広く応用している教育兼研究機関である。
その中のうちの一つに、ルナの研究室がある。
「ここです。どうぞ」
「お邪魔します」
中はきれいに整頓されており、様々な研究資料が存在していた。
ルナはそんな研究室の金庫のような場所に、報奨金を詰め込む。
「これでよし。あとは先輩の所に行くだけですね」
そういって、相賀たちは別の建物へと移動する。
そこは魔法工学研究棟と書かれた看板が入口に掲げられていた。
その研究棟の一階に、目的の人物がいる。
ルナはその人を呼んだ。
「せんぱーい」
しばらくして奥から誰かが出てくる。
「あら、ルナちゃん。なんの用事かしら」
ルナと同じような女の子が出てきた。
「先輩。先日は自走式馬車を貸していただきありがとうございました」
「いいのよ、それくらい。私としては意見が聞けるからね。それで、そちらの方はどなたかしら?」
「初めまして、ルナさんと同じパーティの雅也と言います」
「マサヤさん、こんな子と一緒になってくれてありがとうね」
「いえ、楽しくいさせてもらってます」
「それで、馬車の話だったわね」
「はい、整備と意見交換をしようかと思いまして」
「分かったわ。とりあえず、こっちに来てもらえるかしら」
そういって、二人は奥の方へと案内される。
そこで、ルナは持っていた自走式馬車を展開する。
「最近使い倒してたので、少しボロが出ているかもしれませんが」
「どれどれー?……うん、走行距離のわりには足回りはしっかりしているようね」
「それで、意見なんですけどぉ」
「いいわ、言ってちょうだい」
「これはマサヤさんとも話してたんですけど、体を固定できるようなベルトがあったら便利かなって」
「なるほど、ベルトねぇ……」
そういって、しばらく意見の出し合いをしていた。
「……こんなところですね」
「分かったわ。ありがとう、少し検討してみるわ」
「よろしくお願いします」
「さて、これはこっちで預かっているから、新しいの貸してあげるわ」
「そんな、悪いですよ」
「でもこれの便利さ知っちゃったでしょ?」
「悔しいですけど」
「素直でよろしい。こっちも量産方法について検討している段階だから、こうして貸し出すのはこちらとしてもありがたい限りなの。それじゃあよろしくね」
そういって、二人は大学をあとにするのだった。
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