第20話 迫害の亜人

 道を歩いていて角を曲がった時だった。

 フィーネとぶつかりそうになった太ったオッサンが謝ろうとしていたが、フィーネを見て、


「ちっ、エルフか」


 と、言うと急に態度を変えて冷たく素通りして歩いていった。

 俺は今の態度にむかっ腹が立ったが、フィーネは気にならないないらしく、「ほかっておきましょ」と言って先を歩きだした。

 俺も後をついて歩いていたが、さっきのおっさん以外にも、この街に入ってから、フィーネやチャロに対して冷たい視線を投げかけてくる奴らがいる事に気が付いていた。

 気になって、何気なしにジャスティンに聞いてみる。


「なぁ、この街って、フィーネやチャロに冷たい視線を投げるやつがいるみたいなんだが、気が付いたか?」


「……そうだな、そういう奴がいるみたいだな。亜人あじんを良しとは、思っていない連中がいるようだ」


「亜人って?」


「人間以外の種族だ。俗にエルフやドワーフとかかな」


「さっきチャロが捕らわれそうになった時、みんながあまり助けてくれなかったのは、そこらへんも絡んでいるのかな?」


「そんな事ないぞ、リョウタも見ただろ?襲った奴を追跡していった奴らがいた事を」


「た、確かにそうだが……」


「どこの国にも、自分達人間が一番だと思っている連中がいるんだ。そういう連中が集まった組織があるぐらいだ。宗教にもあったな。『人間至上主義』の宗教が」


 亮太はビックリした顔をして、


「そんな連中がいるのか!!許せねぇ」


「まぁ、落ち着け。俺は亜人や魔族歓迎なんだけどね」


 そういって、肩をすくめた。


 そう言っていると、今度は5人の街の憲兵に出会った。

 憲兵は皮の鎧での完全武装で、亮太達の服装を確認すると「ちょっといいかな」と尋ねてきた。


「旅の者かね? この国には何の用できたのかな?」


 先頭の男は隊長なのだろう。ゴツイ顔の憲兵だったが、物腰は柔らかだ。


「この国には観光です。色々見て回りたくて」


 と言うと、この国はいい国だからゆっくり見て回ればいい。と相槌を打ってくれた。

 その後、フィーネやチャロをチラッと見ると、


「何か困っている事はないかね?」


 やさしく聞いてくれた。ゴツイ顔だが根はよい人っぽい。


「別に大丈夫です」


「問題ないのだ」


「そうか、最近は物騒な事件も起きていてね、お嬢ちゃん達も夜とかは気を付けるんだぞ。後、街中はいいが、街はずれにスラムと呼ばれる荒廃地帯がある。あそこは危険なので近寄っては駄目だよ」


「物騒な事件ってなんですか?」


「人さらいとか殺人などが多いな。とにかく気をつけてな」


「はい、わかったわ」


 そう言うと、憲兵達は周りを確認して見て回ると、街の人混みの中に消えていった。


 亮太は周りをキョロキョロしながら、


「街の治安維持の為なのかな、衛兵の姿結構見るね」


「そうね、そういわれるとちょっと多いかも」


 フィーネも周りを見渡しながら答える。

 そんなこともありながら、俺達は路地裏に手頃な宿屋を見つけそこに滞在する事にした。


 妖精やエルフの売買を組織ぐるみで行っているというパルメザック一味のアジトが、このブリジット王国のどこかにあるというのだが、それは今『漆黒の隼』が調べてくれているはずだ。

 場所がわかれば、彼らから接触があり居場所を教えてもらえる手筈になっている。


「待つしかないか……」


 亮太は宿屋の2階の部屋から城下町の夕暮れを眺めていた。

 もうすぐ夜が来る。

 今日の城下町見学は楽しかった。

 チャロが捕らわれそうになったが、なんとか無事だった。

 明日も守ってみせると亮太は思った。


 ブリジット王国は工業も発展している国と聞く。

 鍛冶では有名なドワーフ職人も多く、名工と呼ばれる達人もいるらしい。

 それも見てみたいと思った。


「あのミスリルの剣、かっこよかったな……」


 ◇◇◇◇◇


 夜も更けた頃、宿屋の部屋の扉に気配を察知して亮太は目が覚めた。

 ガバっと起きて、扉を見てみるとそこにはもう、ジャスティンとフィーネが起きていて何かの白いカードを見つめていた。チャロはまだ布団で睡眠中だ。


「どうしたの?」


「カードが扉の下に置かれていたんだ。誰かがさっき部屋の前まで来たみたいだな。暗くて読めんぞ」


「わたしは暗闇でもかなり見えるから読めるわよ。えっと、『場所がわかった。詳しくはファルコン商会の武器屋店主に問え』とあるわ」


「ファルコン商会の武器屋? 何処だ、そこは?」


「うーーーん、あ、今日行った武器屋、確かファルコン商会のお店だったわ!!」


「おう、あの店ね!」


「あのミスリルの剣の店か!よし、明日朝一で行ってみよう!!」


 亮太の元気な声にチャロがやっと目を覚ます。


「う~~ん、どした--……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

爆炎の魔導士が我がままだった件 りょうま @ryouma1112

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ