ライスケーキ殺人事件
「助けてくださいっ!!」
「あの! おまわりさん!」
「はい?」
「助けてくださいっ!!」
多賀目巡査長が勤務する駐在所に駆け込んできたのは、駐在所の裏の民家に住む
「落ち着いてください、何があったんですか?」
「おばあちゃんが、餅を! 背中を叩いたんですけど、餅が出なくて!」
余程あせって家を飛び出してきたのか、真冬にもかかわらず
「わかりました、いま行きます!」
走って家に戻るの
「あら、
初詣の帰りらしく破魔矢をもった、探偵オバさんこと
「
「こっちです!」
引き戸の玄関を開けてすぐ、揃えられたスリッパを履いて
縁側から西日が入る居間の、中央に置かれたコタツの横で、おばあちゃんがうつぶせに倒れていた。
「
「は、はい!」
「おばあちゃん、大丈夫ですか?!」
駆けつけた救急隊員は蘇生措置を行わず。
間もなく、警察署から検死を行うための要員が来るということになった。
「ううっ、ごめんなさい……おばあちゃん、お餅が大好きで……正月は絶対にお餅を食べるんだって……私がお雑煮にお餅を入れなければ……」
「そう、ですね……」
ハンカチで顔を覆って嘆く
この2年間、餅による窒息の死者数は600人を超えている。特に高齢者の割合が多いため、正月の前から餅による窒息を防止する呼びかけが全国的に行われている。しかし、どんなに未然に防ごうとしようが餅による窒息死がゼロになることは難しいのだろうか、と
「ちょっと、ごめんください」
破魔矢を持った
「ちょ、なにしてるんですか
「ねえ、
「なっ?!」
いつも事件現場に神出鬼没で現れてくる素人の探偵オバさんに、
「もう、ほんとにやめろよオバさん!
「私、玄関で揃えてあったあなたのスリッパを見たわ。素足にスリッパで、慌てて駐在所に駆け込んだのよね、きっと。でもスリッパは、キレイに揃ってたことが気になったの。あと私ね、おばあちゃんとこの縁側でよくお話してたのよ。おばあちゃん、お庭に出るの大好きだから、冬でもここにサンダルを置いといて、家にいるときは縁側の窓に鍵をかけないんだって。さすがにそれは危ないんじゃないの? って聞いたら、駐在所の裏の家に入ってくる泥棒なんているわけないわって、おばあちゃん笑ってたのよね……
そう言うと、
「そんな、ことって……」
「アアアアアアアハアハアハアアア! おばあちゃんは、事故よっ! お餅でよくある事故で、死んだのよおおおおおおおおおおお!! 」
「そうね……きっと、そうよ。
「ねえ、どうして! 私なの?! 血の繋がりもない他人の、食事も排泄も入浴も病院の送迎もなにもかも感謝もされずお金ももらえず出来なかったり間違えたりしたら何日もねちねちねちねち罵声を浴び続けながら介護しなきゃならないのよお……ねえ……みんな、しんじゃえばいいのに……」
声がだんだん小さくなっていった
遠くのパトカーのサイレンの音が、だんだんと近づいてきていた。
探偵オバさん - 丹野程子の事件簿 - 春木のん @Haruki_Non
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます