第2話 兄と、忌々しくも愉快な先輩たちについて。

 さて。

 私の身の上話なんてこの日常を綴っていく上ではいくらでも話せることだ。

 まずは私の愛しの兄と、兄を取り巻く忌々しくも愉快な諸先輩方について紹介しよう。



 そのいち。兄こと、笹崎飛高。


 文芸部においては、“ひーくん”なんて呼ばれているらしい。私知らなかったぞ。

 高校2年生で、私のいっこ上。

 身長は170センチ以上あって、だいたい私より頭一つ高いくらい。

 抱きしめるのにちょうどよい身長差とか、キスするのにちょうどよい身長差とか、確かそんな感じだった気がする。嬉しい!


 性格は優しい。ちょっと優柔不断。頼まれごとは断れないし、なんなら自分から「助けましょうか?」と声を掛けに行くタイプ。

 趣味はオタク的。アニメとか、ラノベとか、マンガとか。ゲームもそこそこやるらしいけれど、そこらへんはよく知らない。パソコンでやってること多いし。そのくせ部屋に行ってもソフト見つからないし。あとはリビングにある家庭用ゲーム機のFPS? とか。


 妹に萌えるシスコン星のシスコン星人で、ブラコン星人の私とは実は血の繋がりがない。

 なぁんてことはなく、同じ両親から生まれた正真正銘の兄妹だ。

 親戚からは「目元がそっくりねえ」「お母さんに似て2人とも美人さんねえ」と大評判だったりもする。

 それなのに、お互いに対する想い方がさっぱり似ないのには納得いかない。

 私の気持ちはまあ、前のをご参照いただくとして。


 兄がこんなことを話しているのを聞いたことがある。

 どこで?


 家で。

 隣の部屋から漏れてくる声を。


「いやだからね? 兄妹ものの良さってのは『絶対に恋人にならない』ってところだと思うわけ。兄妹バディとか、ラブコメの三角関係の外から兄を応援する妹、いいじゃん? 兄妹ラブ? いやあ嫌いじゃないけど。でもリアルではわなー」


 ない! いただきました!

 私の失恋の瞬間でもある。

 その次の瞬間、「は? だからってなずなをやるわけじゃないけど?」という謎のフォローじみたシスコン発言もあったのだけれど。……電話の相手誰だったんだろう。

 まあいい。


 以上の言質を以て、私と兄の価値観の相違はわかっていただけたことだろう。


 ちなみに、私はこうやって考え事をするときには彼のことを“兄”だの“笹崎飛高”だのと呼称してはいるけど、実際に呼ぶときには「お兄ちゃん」と呼んでいる。

 なんでかって? その方が喜んでくれるからだよ。


 本当は、別に兄として慕っているわけじゃないし、昨今の兄弟姉妹は相手を名前で呼ぶことも多い。だから無理して「お兄ちゃん」なんて呼ぶ必要はないのだけれど。

 でも、笹崎飛高にとって、笹崎なずなは“可愛い妹”なんだよなあ!

 こればっかりは、惚れたものの弱みということで。



 そのに。文芸部部長、水戸華乃香先輩。


 彼女は“コスプレイヤー”だ。

 兄をコスプレの併せ? に誘ってきたのもこの先輩。


 高校3年生のナイスバディお姉さんで、どうしたらこんなに成長できるんだと思わざるを得ない。

 ふわふわの栗色の長髪、優しさを携えた二重の瞳、淡く色づいた唇の全てから包容力と色気がにじみ出ている。女の私でもわかる。

 さぞ、お色気コスプレが似合うことだろう。……それを、兄は見たことがあるのだろうか? 

 …………。


 閑話休題。


 水戸先輩は一言で言うと、「お姉さん」だ。あるいは「お母さん」。

 でも以前、楠瀬先輩が水戸先輩のことを「お母さんみたい」と言ってかなり怖い表情をされているのを見て以来、そう思うことは自戒している。

 あれは母でなく、般若だった。


「ネットで色々と、ね?」


 とは先輩の言。


 趣味はコスプレと紅茶を淹れること。コスプレが趣味ってことはその元ネタとなる作品鑑賞は大前提ということで割愛。 


 兄にアプローチを掛けている様子はなし。ちょっと安心。

 でも、頻繁に(私も含めて)コスプレに誘われている。



 そのさん。文芸部副部長、楠瀬真澄先輩。


 彼女は“同人作家”だ。

 一次創作二次創作、NLBLGLなんでもござれ――らしい。


 高校2年生で兄とは同じクラス。聞けば、兄は彼女と一緒に文芸部に入部を決めたとのことだった。余計なことを。

 ……ごほん。


 猫目が人当たりの強そうに見えるものの、その表情は常に朗らかでポジティブな印象を与えている。むしろその強さは勝気さにも見えて、リーダー感というか、人の前に立てる人間にも思わせてくれる。

 なんというか、カリスマ性があるのだ。


 性格は見た目の通りの唯我独尊。自分の決めた道を突き進むゴーイングマイウェイな人だ。その目的のためならば、自分のまわりの人間の協力を惜しませない。

 思えば、高校生になってから、よく兄が「友達との約束が」なんて言って、朝早く――早朝から出かけることもままあった。

 即売会っていうのは、結構朝早いんだよね?


 どうやら、楠瀬先輩が一番の難敵なのかな?

 嫌な人ではないんだけどね。



 そのよん。――――。


 ……。彼女については、まだわからない。

 だって、まだ一度も会ったことがないのだから。


 ただ、もう一人、女の先輩がいるということだけ、ちらっと耳にした。



 そのご。私こと、笹崎なずな。



 以上5名が、うちの高校の今年度の文芸部員とのことだ。

 ちなみに去年度にも女性の先輩が、……女性の先輩が! 2人も! いたそうだけれど、無事卒業したのだそう。

 つまり去年は、兄と女性5人の6人で部活動をしていたそうだ。私の知らないところで。


 ……まあ、去年のことはいい。もう終わったことだ。



 私はこれから、どうすればいい? 自問する。



 好きな人が、たくさんの女の人に囲まれている。それは嫌だ。



 どう転んでも私とは結ばれることはない。……それはわかってる。



 でも嫌なものは嫌なのだ。少しでも自分を見ていてほしい。



 それが兄妹愛でも。



 だから私は文芸部に飛び込んだのでしょう?



 だったら、精一杯引っ掻き回して、あわよくば、手に入れてしまえばいい。



 私は、笹崎飛高以外はいらない。



 笹崎飛高にも、笹崎なずな以外は必要ない。

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兄とハーレムと私 Kuruha @kohinata_kuruha

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