第1話 笹崎家について。あるいは言い訳に似た何か。

 笹崎家はいたって普通の中流家庭だ。

 父親はサラリーマン、母親はパートタイマー。

 海外出張もなければ、突然長期に亘って子どもを置いて旅行に行くこともない。


 両親と兄妹の4人家族が一戸建てに暮らしている。うん、普通の家庭だろう。


 それがどうしてブラコンとシスコンの温床に?


 それは、かつては我が家がかなりの転勤族だったことに由来する。

 要するに、お互い以外仲の良い友人がいなかったわけだ。


 周りは知らない人だらけ。人見知りをしていた私は兄に頼りきり、そして兄もそんな私を弱い力ながら守ってくれていた。


「なずなには俺がついてるからな」とは、兄が昔よく言っていた台詞だ。今はもうあまり言うことはないけれど。

 それでも、私の中学の入学と同時に一戸建てを購入して、住居が落ち着いた今でも兄はよく私の買い物に付き合ってくれる。


 中学生になって、人見知りを治すために半強制的に運動部に入れられてからは人見知りはなくなり、割と社交的にもなったと思う。

 というか、もともと人見知りというわけでもなかったんだと思う。引っ越しの繰り返しで、兄がいるという安心感から単に友達を作ってこなかっただけ。

 まあ、私とは違って、兄はよく人から頼られていたっけ。知らない人とも臆せず話してすぐに打ち解けて。


 そんな兄を尊敬して好きになったのは当然だ。と私は思ってる。

 顔も悪くないしね。


 サラサラの黒髪に黒縁の眼鏡。優しげな文学少年、といった感じだけれど、眼鏡を外せば――いや外さなくても整った顔立ちだとよくわかる。


 私だって、同じ血を引いているのだから、そんなに悪い顔はしてないのよ?

 ……いや、そうではなく。


 ともあれ、中学に入ってからは、「兄に頼る妹」「妹に頼られる兄」という関係は解消されるはずだったのだ。

 それが何故か、私は兄を恋愛対象として意識し、兄は私に過保護になったわけなのだけど。


 別に、ラノベにありがちな特別な事件があったわけじゃない。

 おそらく、ちょっとしたことの積み重ねだ。


 さりげなく荷物を持ってくれるとか。

 道端で困ってるおばあさんを助けてたとか。

 私の愚痴を文句ひとつ言わずに聞いてくれるとか。


 なんて普通。でも、それは確実に私の兄への好感度を上げていた。

 人を好きになるなんてそんなもんでしょ? それが、私の場合は同じ家にいただけ。


 だから、私は深く考えるのをやめた。

 私は笹崎飛高が好きだし、向こうも悪しからず思われている。

 でも付き合えない。

 それが全て。


 でも。

 否定に否定を重ねて、私は思考するしかない。


 でも、

 さすがに好きな人にハーレムができてたら止めるしかないよね!?

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