俺様男子の精一杯のイジワル

「とにかく、俺様ごっこはもう終わり!」

「今日一日俺様でいてくれるって言ったのに。まだお昼になったばかりだよ」


 そうは言うけど、このまま放課後まで続けたら僕の評判はガタ落ちだし、気疲れで胃が大変なことになってしまう。むしろ昼休みまで続けたことを褒めてもらいたいくらいだ。


「お願い聞いてくれるって言ったのに~、イジワルしてくれるって約束したのに~」

「約束を平気で破るのはイジワルでしょ?」

「違うの!そうじゃなくてもっと露骨に、ダメだとかゴミだとか言って罵られたいの!」


 本当に……本当に千冬は、それで嬉しいのだろうか?僕は何度目になるか分からないため息をつく。


「千冬が俺様キャラが好きなのはよくわかってるけどさ。それじゃあ僕の事は、好きじゃないの?」

「えっ?」

「僕は本当は意地悪なんてしたくない。優しくしたい。けど千冬は、それじゃあ嫌なんだよね?」

「う、ううん。優くんに優しくされるのだってちゃんと好きだし、罵られるのだって相手が優くんだから嬉しいんだし。確かに俺様系男子は好きだけど……」


 言ってて恥ずかしいのか、モジモジとして顔を赤く染める。

 いちいち可愛すぎるよ。よーし、そんなにイジワルをしてほしいのならやってやろうじゃないか。


「千冬、少し黙って」

「えっ?」

「あんまりわがまま言うならその口、塞いでやろうか?」

「むぐっ⁉」


 僕は千冬の反応を見る事もなく瞬時に、彼女の口を自分の口で塞いでやった。こんな風に無理やり唇を奪うのも、俺様系のやる事だって千冬から聞いたことがある。

 しばらくそうしてから口を放すと、顔を真っ赤に染めた呆けた表情の千冬が目に写る。


「これが僕にできる精いっぱいのイジワル。ゴメン、嫌だった?」


 不安になって確認してしまうあたり、やっぱり僕は俺様キャラには向いていないのだろう。千冬は赤い顔のまま口を数回パクパクさせた後、ようやく言葉を発した。


「……嫌じゃない」


 それは良かった。けどやっぱり、俺様キャラを求めるのは金輪際にしてほしい。キスだってこんな風に無理やり奪うのではなくて、もっと甘いシチュエーションの方がいい。イジワルな言葉で罵倒するのではなく、優しい言葉をかけて、ちゃんと千冬の笑った顔が見たいんだ。


「千冬、もう一度聞くよ。俺様系を演じられない僕の事は、嫌い?」


 愁いを帯びた表情で、千冬に問いかける。もしここで本当に嫌いだなんて言われたら、きっと僕はショックで寝込んでしまうだろう。

 千冬は少しの間黙っていたけど、やがてポツリと声を漏らす。


「……優くん、イジワルだよ」

「えっ?」

「イジワルな質問だよ。なんて答えるかなんて、本当は分かってるんでしょ。そりゃあ確かに俺様系は好きだけど、私がもっと好きなのは……優くんなんだから」


 頬を赤く染めて、そっと目を逸らす千冬。

 良かった。僕は自分に自信があるわけじゃないし千冬のタイプとも違う。だから時々こうして確かめ合わないと、つい不安になってしまうんだ。


「ありがとう千冬。僕も千冬の事、大好きだよ」

「—――――ッ!優くん、イジワルな上に優しんだから、本当にズルいよね」


 仕方ないでしょ。それが僕なんだから。千冬がそんな僕を好きになってくれたと言うのなら、大人しく諦めてもらう他無い。

 僕は照れた千冬の可愛いらしい姿を眺めながら、思わず笑みを零すのだった。



              完

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俺様系イジワル男子のススメ 無月弟(無月蒼) @mutukitukuyomi

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