流れ出した破滅は地獄を招き、さようならを赦さない

愛創造

赦された初めましては楽園を遠ざけ、留められる

 それは刹那とも呼べる出来事で在った。私が視た景色は酷く凄惨で、誰の気配も感じ取れない一種の牢獄。否。閉鎖空間では無い。船とも言えとも呼べない、海に浮かぶ廃れ果てた人工物。臭気に塗れた木材の羅列が足場を成し、脆くても崩れない矛盾を創造する。じんわりと染み込んだ潮風はクトゥルーの呼び声ともインスマウスの闇黒とも解けて、されど何方の触手も見当たらない。きっと此れは絶対の恐怖が産んだ狂気で、黒山羊の胎内で得た知識なのだろう。無意味な家々が窓硝子を失くし、地獄の底無しを表現して在る。抜け道は知らない。知った事柄は破滅じみた永遠だ。停滞する我が身は五体満足で、正気も幾分か残って有るものだ。ああ。神よ。佛よ。ヨグ=ソトホウトよ。夢だと嘲笑うのならば最後まで。最期まで私に総てを魅せてくれ――私はさようならを絶対に赦さないぞ――決意だ。覚悟を思った瞬間。私は世界の激動を、極光を降り注ぎに寄って報せられた。沸騰する地面から流れ出す、ゼリー状の黄色は目玉を包み込む。破裂する事も忘れた奇怪は、ひたすらに足元で転がるのみ。判ったぞ。此れは卵だ。海に中って孵化する、初めましての塊だ。素晴らしい。吐き気がするほどにたまらない。私の脳味噌が膿んだ感覚……おお。視よ。邪悪よりも純粋が相応しい生命の誕生を。喜ぶべきなのだ。ぬるりと沈む悪魔どもがレヴィアタンを哄笑する。此処に記された存在こそが人間の価値を無と思わせるのだ。実際、人間などは滑稽なのだろう。私達は一塊の、ゼリー状の黄色に包まれた目玉に過ぎないのだから。楽園など要らない。留められた純粋目玉の如く、赦されれば好いのだ。

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