私たちの席替え冷戦
さば あゆこ
青春なんてさ
窓際の、一番端の後ろ。40もの席がある中、冬のうちは一番いい席と言っても過言ではない。これは、私がそんな席に座れる権利を獲得したハッピーストーリーだ。
暑かった時期が恋しくなる東北の11月中旬、私のクラス_2年A組は席替えという学校生活を送る上での一大イベントを迎えようとしていた。
朝から「今日席替えじゃん」「今度こそ後ろがいいんだけど」「今回もくじなんでしょ?」「席替えしなくていいのになぁ」などといった声が目立つ。
私は別段、席替えに心動かされるような性格でもないため、授業受けるだけなんだからなんでもいいじゃん、出席番号順でもいいし。と思ったりもしたのだけれど。
そんな言葉を飲み込んで、私は席替えの度に毎度同じような言葉を言っているのだ。
「また席近くなるといいよね〜!」
って。まるでその事しか考えてないような顔で。すると皆大抵、そうだよねって肯定してくれる。こういうのって、上手くやれば楽に学校生活を送れる。一種のゲームみたいなものかもなって思った。嫌われたり、いじめが始まったりしたらゲームオーバー。リセットもやり直しも効かない、生か死のルートしかないゲーム。こういうとこ、学校って、学級って、すごくめんどくさいと思う。先生の目に、学級の皆の目、それと、特に仲良い友達からの目。全部全部気にして生活していくことの窮屈さ。
そんな高校生活、まだ半分だなんて。
キーンコーンカーンコーン
本鈴とほぼ同時に担任が入ってくる。担任は20代後半で、若い男性教師。社会科の先生で、生徒からは慕われてる方だと思う。少なくとも私は担任のことを気に入っている。もう一人副担任もいるんだけれど、二人揃ってHRにいるのを私は見た事がない。
「一時間目俺の教科だからその時席替えね、昨日言った通りくじで」
HRで担任は、少しだけ悪戯っ子のような顔をして言った。
私のグループでは、席替えよりどちらかというと二、三時間目に続けてある英語の話の方が盛り上がった。私は英語の先生は好きだし授業も比較的楽しいと思うのだけれど、友達は違うらしい。「英語の先生ウザいよね、嫌い」「あー、分かる」「二時間連続とかほんとありえない」とかいう盛り上がり方、私は好きではないんだけど。というか、あまり人の事貶すこと自体やなんだよな。…って、心の中ではいくらでも思うことは出来る。
「だよねー。私もあんまりかなぁ」
まぁ、現実はこうなるんだけど。
でも高校生ってめんどくさくて、肯定ばかりしてるとそれはそれで嫌われてしまう。だからたまに、自分の意見も出して調整したりするのも大事だったり。
「でもあの人、たまに面白くない?変な所で」
「まぁね、たまにねー」
さっきまでの愚痴はなんだったんだよ、と思う。笑っちゃうな。
そうこうしているうちに担任が教室に入ってきて、席替えが始まった。今の私の席は前の方。仲良しグループってやつで固まっている。楽だけど、面倒だとも思っていた。
「はい、くじ引いて」
くじに書いてある番号は40番。窓際の一番後ろの席だ。ラッキー、と思い少し口角が上がった。すると、あまり仲の良くない子が話しかけてくる。
「ねぇ、私と席交換しない?ユキの近くがいいでしょ?」
ユキっていうのは、このクラスの中で私と一番仲良い友達。でも、せっかく公平にくじで決めているのに、こういうふうに交換するのは嫌だった。いい席だし。それに、私は担任が好きだし、担任が駄目と言ったことはしたくない。断わる考えしか出てこなかった。
「ごめん、ちょうど好きな席当たったから……」
「あー、そっかぁ、分かったごめんね」
「ううん、こちらこそ」
めんどくせぇーーーー。決まりなんだからちゃんと守ろうよ。……って、言えない私も同レベルなんだよなぁ。
そう思いながら、一番端の席に腰掛けた。ユキは残念だなぁ、と言っていたけど、授業受けるだけだからと宥めた。
そんな紆余曲折を経て獲得したこの席は、最高の席だった。高校生活あと半分、ずっとこのままならいいのに。と思っているうちに、次の席替えはすぐにやってくるのだった。
私たちの席替え冷戦 さば あゆこ @aaa0055
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます