転性ガールズシャウト3
初めて少女と目があった。
心配するあまり前に出過ぎた…。それとも見つめ過ぎたからか?
どちらにせよ少女の表情に笑みが戻った気がした。
(よかった笑ってる。不利だと思うけど、頑張れよ)
そんな気持ちを込めて「ガンバレ」と口パクで伝えてみる。伝わったかな?
「ちょっとそこの君、こっちこっち」
少女の手招きに、周りの目が俺に集まる。まさかとは思うが…。俺は自分の事を指差して、俺を呼んでいるのかと確かめる。
頷く少女。おーっ!と観客。
考える暇もないままに俺は小さなステージに上がらされていた。
「誰だよそいつ」
「ビビって助け求めちゃった?」
イルミナスが煽ってきてるぞ、どうすんだこれ。
「うるさいわね、準備中よ。」
「ちっ。さっさとしろよ。」
そう舌打ちをして、イルミナスの二人がリハーサルのように演奏を始める。
その音に紛れて小さな声で少女に尋ねる。
「な、なんか用ですか」
少女も小声で返答する。
「ヒムニアでしょ?君。お願い!」
さっきからヒムニアってなんだ?ああ、ギター貸して欲しいってことかな。俺のじゃないけど…まあいいか。
うん。と頷き、ケースからギターを出す。派手なスカイブルーのギター、俺の趣味だと思われるの嫌だなあ。
少女にギターを差し出す。
ちょっと不思議そうな顔をしながら、本体ではなくストラップを手に取り俺の首にかけた。
「ありがと。」
消え入るような声だったが少女は確かにそう言った。
「準備OKよ。先攻はそっちからどうぞ。」
「ちっ、やっぱりバンドメンバーだったか。運がいいなクソガキ」
「まぁ、増えたところで関係ないけどな!」
待て待て待て待て。
ギターを両手に持った状態のまま固まる俺、臨戦態勢の三人方。温度差に気づいて、ねえねえ。
「「アンプリファイド・シャウティング!!」」
その掛け声で一気に空気が変わり衝撃が広がる。それは比喩などではなく、衝撃波が観客の衣服をなびかせている。
始まった先攻のイルミナスの演奏はライブハウスの最前列で聞く演奏そのものだった。音を大きくするアンプはないはず、だがアンプに繋いだギター…いやそれ以上に響く音を奏でている。
その音を聞いた瞬間にこれはただのギターやベースの演奏じゃないと悟った。到底俺に出来る技じゃないと。
♪これ最強 解答 帰ろう ご名答
(見せてみろ 無えぞ退路 参ろう GO!イルミナス)
ほら感動 毎度 毎度 倍増
(追いつける? 格好つけるだけの 脳 パラダイス)
無理ならついてこい follow meと響かせるこのビート
前言撤回 追いつけない 一触即発 It"s SHOW TIME
さあ先攻 光線の様な採光 浴びてさあ行こう
イルミナスのシャウトが響く。響くと言うより突き刺さると表現した方がいいだろうか。
呼吸が苦しくなるほどに俺の心臓を圧迫してくるその音と声に、ギターを持つ両手が震える。
即興の演奏に即興のリリック…?
何が起きているか理解が追いつかないが、フリースタイルのラップバトルと演奏を同時に行なっている…と言えば分かりやすいか。自分でも何を言っているか分からないが現実にそれが目の前で起きている。
先攻の攻撃が終わった…のか。と言うことは次は後攻の俺たち。しかし俺には何もすることはできない、あんな演奏はただの人間の俺には無理だからだ。
少女一人の演奏が始まった。ベースのスラップ音のサウンドが重くそれでいて体がノってくる、少女の見た目からは想像できない激しい演奏に驚く。
♪それだけ?痙攣 させるんで 観念
それだけ?痙攣 させるんで 観念
残す後遺症 The show 圧勝
脳内振動 シンドローム A級戦犯 パンデミック
残す後遺症 The show 圧勝
脳内振動 シンドローム A級戦犯 パンデミック
選ぶワードセンスも少女とは思えないが、ベースのサウンドと相まって男勝りな格好良さ、それが彼女のシャウトだった。
その年でこの演奏。上手い。悔しい。なんだよそれ、俺も、俺もあんな演奏がしたい。
美少女転性から始まる異世界バンドライフ しのみぃ @4nommy
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