転性ガールズシャウト2
…このシチュエーションを俺は知ってる。
アニメや小説で見たことある、異世界転生的な作品。その展開に似ている気がする。
とは思いつつ、いざ自分がなってみると不安でしょうがない。
中身アラサーのおっさんで、剣術も魔法も使えそうな感覚はない。おまけに転生させてくれたヒロインも今のところ現れないし、転生じゃなくてこれじゃ転性なんだが…。
立ち並ぶ建物は現代ほど発展してはいない気がするが、昔の日本でも海外の街並みでもない独特の雰囲気が漂っている。
やはりどこか別の世界に来てしまったことは間違いないようだ。
どうせならMMORPGにありがちな中世ヨーロッパなファンタジーがよかったんだけど…
与えられた現実を受け入れながらも、愚痴をこぼす余裕は出てきた。
そんな時だった。
「てめえ!ここは俺達の場所なんだよ!」
野太い男の怒号が聞こえてきた。
…言葉が理解できる!!
なにかトラブルが起きてそうだが、意思の疎通ができるであろう相手がいるなら行かない手はない。
その希望の声は先ほど公園の方角から聞こえてきたようだ。俺は元来た道を急ぎ足で戻った。
◆
公園に着くと声の主はすぐにわかった。他の広場より一段高い、まるでステージのような場所の上でなにやら揉め事が起きている。
二人組の男と、女になった俺より小柄な女の子。
男の方は派手な金髪と赤髪、二人とも白を基調としたコーディネートにスタイリッシュな出で立ち。少女の方はこれまた派手なピンクの髪に変な柄の黒のブルゾンにミニスカート姿だった。
驚いたことがもう一つ。
三人ともギターケースを背負っている、全く知らない異世界だと思っていたが、この世界にもどうやらギターが存在するみたいだった。
何はともあれ同業者とはありがたい。言葉は理解できそうなので、三人に気づかれないように会話が聞こえるところまでひっそりと近づく。
「だからここは今から俺たちが路上ライブするっつってんだろ。どれだけ前から告知してたか分かってんのか!?」
「知らないわよ。今日は私のライブの日なの。早くどいてくれる?」
「俺たちイルミナスのライブの邪魔する気か…?」
どうやら、どちらがここで路上ライブをするかで揉めているらしい。確かにステージみたいになってるこの場所は、路上ライブにはピッタリだろう。
「…白黒つけようじゃねえか。てめえもヒムニアなら逃げたりしねえよな?」
「そっちがその気なら受けて立つわ。手加減する気ないわよ?。」
言葉を交わすと、金髪と少女が背負っていたケースからそれぞれ自分の楽器を取り出す。ストラップを肩にかけ、チューニングを始める。
ん…?
アンプがない。演奏の勝負をするようだが、エレキギターにエレキベースだからアンプがなければ弦の弾く音しか聞こえないはず。
おもむろに、もう一人の赤髪もケースからベースを取り出した。
「なにしてるのよ、あんた。」
「誰も一対一とは言ってないだろ?」
うわあ。
よく見る卑怯な手だな、悪役が使うやつ。
こんな少女相手に大人の男二人が寄ってたかってとは…情けない。
「そんなことしないと勝つ自信ないんだ。」
「辞めるなら今のうちだぜ。」
少女の顔から笑みが消えたのが見えてしまった。
どうする。助けるか?
迷っていて気づかないうちに、どこからともなく人が集まってきている。
「お!ヒムニアが揉めてるぞ!まさか今からアレやるのか?」
「生で見れるなんてラッキー!」
「きゃー!かっこいー!」
イルミナスと名乗る二人がしていたという告知で来た人たちだろうか。ポツリポツリと集まってきた人たちが輪を作る。その輪に紛れて俺は少女たちに近づいた。
「ちょっと予定とは違っちまったけど、これはこれでいいや!」
「イルミナスのライブ楽しんでってくれよなー!!」
\Foooooo!!!/
イルミナスが客を煽る。
こうなってしまったらお互いにもう逃げられない。争いは避けられそうにないな…。心配ながらも俺は少女を見つめる。
男二人を睨む少女の手が震えていた。
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