転性ガールズシャウト1

 

 暗い部屋でビール片手にタバコをふかしながら、つけっぱなしのテレビに目をやる。


 深夜の音楽番組が今週のヒットチャートを流している。


「今週の第一位は〜…新人美少女バンド『Poppin' Panic』の皆さんですっ! おめでとうございま〜…」


 ブツッ



「結局世の中顔かよ。」


 ボヤきながらテレビを消し、リモコンを投げつける。




 28歳の誕生日。


 ずっと続けていた売れないバンドは今日解散した。


 遊びも友達も恋愛も全て捨てて、音楽に食らいついた結果がこれか…。




 流れそうな涙をこらえ、パーカーのポケットに入っている新品のタバコを取り出す。


 就職するよ。と辞めていったメンバーが最後に俺にくれた、どっかの国の珍しいタバコらしい。




 音楽以外なんもやってこなかった俺にこれからどう生きろと…


 複雑な気持ちで箱を開け、咥えて火をつける。



 うわ…重いタバコだな。クラクラしてきた。

 不思議な感覚に意識が朦朧としてくる。


(あーあ、俺もイケてる顔に生まれてたらなあ。)











『成功ヲ顔ノセイニスルトハ…情ケナイ。

 チョット不安ニナッテキタガ、期待シテルゾ青年。』





 幻聴…が聞こえる。



 その声、どこかで聞いたような声だったが…思い出せない。








 寒っ!



 気がつくとそこはなぜか外。



 公園らしき広場のベンチに一人で寝ていたらしい。すっかり夜だってのによく職質されなかったもんだ。

 そしてこの時期に薄手のパーカー一枚での外出はさすがに寒い。


 吸ってる途中だったはずのタバコも、飲んでた酒も手にはなかった。



(飲みすぎたか…。どこだここ。)


 酩酊状態で外出したようだ。と、消えた記憶を辿りながら辺りを見渡すが、見覚えのない場所だった。



 とりあえず一服しようと、パーカーのポケットに手を伸ばすが入っていない。



(タバコ…も部屋に置いてきたか。ん…?)



 寝ていたベンチの上に、見慣れたケースが置いてある。


(これ、俺のギターケースじゃね…?)




 中を開けてみる。



 しかし中に入っていたのは俺の使っていたギターではなく、形は似ているが鮮やかなスカイブルーの派手なエレキギターだった。



(ったく、趣味悪いギターだな。しょうがねえ、交番にでも届けるか。)




 家に帰る道さえわからないのに、交番に寄るというミッションが追加されてしまった。




 タバコ吸いてえな…。そんなことを考えながらギターケースを背負い、歩き出す。



 …よく考えたら財布も携帯もない。現代社会で金も情報端末も持ってない人間のいかに無力なことか。




 少し焦った結果、タクシーで家まで送ってもらって、財布を取ってから支払うという案を思いついた。



 ということで再び歩き出す。







 数分後、頭痛のする頭で必死に考えたその名案は、儚くも崩れ去ることになる。




 歩き出した俺は恐ろしい事実を見つけてしまった。



 俺の寝ていたその公園は、どこかの街の中心部のようだった。

 暗くてよく見えないが、間違いなく俺の住んでいた名古屋市天白区ではことはわかる。ないだがその街並を俺は知らない、この海外のような、絵本の中のような街並みとレンガの敷き詰められた道はタクシーどころか車という文明すら無さそうだった。





 なにが起こっているんだ…。



 酔っ払って変な夢でも見ているんだと自分を納得させようとしたその時、アパレルショップらしき店のショーウィンドウに写る少女と目が合う。



 明らかにオーバーサイズのパーカーにジャージ姿、背中には重そうなギターケースを背負っている。


(このパーカー、俺も持ってるやつだ)



「って、ええええええええええ!!??」




 目覚めてから始めて声を出したことに気づく。その声は自分で言うのもなんだが可愛らしい少女の声だった。



 ショーウィンドウを鏡代わりにして、頬をつねってみる。写る少女が同じ動きをする。



 夢ではないことと、この写る少女が自分ということが同時にわかってしまった。




(おいおい嘘だろ…?)



 自然と右手が股に伸びる。決していやらしいつもりではなく焦りから生まれた行動だということをわかってほしい。

 だが残念ながら28年間連れ添ってきた俺の相棒は跡形も無く消えていた。



 恐る恐る胸にも触れる、小さいながらも感じる確かな膨らみ…。

 着ている服は自分の部屋着だから、なんというかノーブラ?状態だ。




 様々な考えが頭の中を凄まじい考えで駆け巡る。


 結果、一つ思い当たる節があることに気づいた。

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