或る男のひとりごと

「坊主、はいるぞー」


見慣れたドアを開けて、家主に呼びかけるも返事がない。

シン、と静まり返っている廊下がいやに不気味だった。

リビングのドアノブに手にかけようとしたところで、そこにべっとりとこびりついた血に気がついた。同時に生臭さが鼻をつく。


「うえ、あいつ、後処理くらいしとけっての」


頭にうかぶ嫌な予感を振り払うように乱暴にドアを開けた。


「うわあ、まじかよ」


的中してしまった。

男ーー松村はげんなりと肩を落として額に手を当てた。

目の前には家主とその居候と思わしきものが、抱き合うようにして息絶えていた。家主の胸にはナイフが深々と突き刺さっていた。


「親子2代で自殺かよ、処理する俺の身にもなれよな」



庭に大きな穴を掘り、その中に2人をそっと横たえて土をかける。最後の土をかけるときに見えた、家主の横顔は安らかだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

幸せの味 あさぎ @asagicolor

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ