ドクダミ姫
@SyakujiiOusin
第1話
童話「ドクダミ姫」
百神井 応身
みなさんはドクダミという草をごぞんじでしょうか?
濃い緑色の葉っぱで、白い花を咲かせますが、触るととても臭いので、雑草扱いされて人は見向きもしません。
でも、昔は薬草として重宝されていたのです。日本では、文字も無いような古くから生活の中に溶け込み、口々に伝えられてきたもので、その用い方も、経験や体験などによるものです。
胃腸病の妙薬として知られているのですが、何と言っても、傷が化膿したときには効き目があるとされていました。
むかしむかし、あるところに貧しい若者が一人で住んでいました。
朝は暗いうちから起きだして野良仕事をし、夜は藁で縄を編んだりムシロを織って、それを売ることで細々と暮らしていました。
あるとき若者が道を歩いていると、1本のドクダミが道端で今にも枯れてしまいそうに萎れていました。きっと薬草取りが落としたことに気づかないまま行ってしまったに違いありません。若者は、そのドクダミを拾い上げると、人通りが少ない土のところにそっと植えて、持っていた竹筒に入った水を注ぎかけてあげました。
若者はその道を通ることがあっても、そんなことはすっかり忘れていましたが、ドクダミは元気に根付いて、そこに株を沢山増やしていました。
あるとき、若者は山へ薪取りに行ったのですが、切り株で怪我をしてしまいました。
大したことはないと手当もしないで放っておいたのが悪かったのか、傷口が化膿して腫れあがってしまい、おまけに熱も出て、起き上がることもできずウンウン唸って寝ていました。
あばら家の戸口の板戸をほとほとと叩く人がいて、返事もできずにいると、若くて綺麗な女の人がすっと家の中に入ってきました。
寝ている若者の傍にいくと、持っていた袋の中からドクダミの葉を取り出して囲炉裏の火でそれを焙って、柔らかくなったのを傷口に貼りました。しばらくすると、傷口からウミが沢山吸い出されてきました。
若い女の人は、若者が元気を取り戻すまで、何日もそれこそつききりで看病しました。
若者は、女性の親切に心からのお礼を言いました。
「見ず知らずの貧しい私を、これほどまでにお世話をして下さり有難うございました」
すると女性は「あなたは覚えていないかも知れませんが、私はあなたさまにずっと前に助けていただいたことがあるのです」と答えました。
ところで「あなたは私の匂いがお嫌いではありませんか?」と女性は若者に尋ねました。
「どうしてですか?とても良い匂いがしますが」と若者が答えると、「それでは私をあなたさまのお嫁さんにして下さい」と言いました。かすかにドクダミの香りが漂っていました。
美しいお嫁さんの奨めるままに、若者は薬草取りになりました。
お嫁さんは、薬草が生えている場所をとてもよく知っていました。
質の良い薬草を取ってくることが評判になり、若者の商売は繁盛して、夫婦は幸せに暮らしました。
ドクダミ姫 @SyakujiiOusin
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