お巡りさんにお世話になる数日前

今村駿一

おまわりさんにお世話になる数日前

「しかし最近の女子中学生は凄いぜ。無理やり押し倒してやったんだけどよ。そこからもう暴れる、暴れる。俺まだ全身筋肉痛だよ。いやー激しかったなぁ」


 金曜日の夜、友人から突然電話が来てガソリンスタンド併設の喫茶店に呼び出された私。

 

「でよー、こっちが疲れているのに泣きながら逃げようとするんだよ。まぁ逃がさないけどな。しかしどんだけ体力あるんだよって話だよ。俺もう40歳のおじさんだよ。もう若い子の相手はきついわ~」

 

 喫茶店内の注意と視線がこちらに向いているのがわかる。


「よう、もう少し小さな声で話せよ」


 一応注意する私。


「おう悪い悪い。あとなぁ、若い奴は声が大きすぎてよぅ、耳が痛い痛い」


 静かな声で話し始める友人。

 しまった、逆効果だったか。

 聞き耳でも立てているのか、広い喫茶店内が更に静かになった様な気がした。


「でな、お前も暇な時でいいからさ、一緒にやらないか」


 5つ横のテーブルに座っているおじさんから(俺にも参加させろ)というような激しい熱視線を感じる。


 別に変わってあげたいんだけどね。


 でもおじさん、あなた仕事出来なくなると困るからさぁ。


 何気なく外を見る私。

 外に停まっている古いハイエース。

 相変わらずサーフィンメーカーのシールが貼りたくられている。

 友人の車だ。


「ああ、あれな。やっぱ便利だろ」


 私の視線に気が付いた友人。

 ニヤッと笑う。

 フゥ、と溜息をつく私。


「相変わらず元気だなお前は」

「そりゃそうだよ。いつまでも現役で続けるぜ、俺は」

「そんな若い子ばっかり相手でよく体力続くわ」

「いや、ばーさんの方が気を遣うから疲れんだわ。その点若い子は遠慮無くできるからいいぞ」


 こいつは今、若い子ばかり相手しているみたいだ。

 高校生ならまだ年がいっている方で大体は中学生、下手をすると小学生だという。

 若すぎるだろうが。

 コーヒーを啜る。

 苦い。


「なぁ頼むよ。お前だって嫌いじゃないだろ」

 顔を近づける友人。

 その顔に思い切りデコピンをする。

 痛いなぁ、と言う様におでこをさする友人。


「お前なぁ、もうそういう危ない事に人を巻き込もうとするなよ」

 呆れながら言う私に、

「別に危なくないだろうが。お前だって昔は散々やっていただろうが。それで何か危なかった事があったか?」

 意外な事を言うなぁ、と言う顔で私を見る友人。


 まぁこいつとはそういう仲だったな。


 外のハイエースをもう一度見る。

 よくこれに乗せてもらったなぁ。


 フゥ~~、と長い溜息の後、

「じゃあ、たまにならいいぜ」

 返事をする私。

 とたんに笑顔になった友人。



















 

「そうかそうか、いやーありがとうなぁ。試合前の相手だけでもいいからさ。道着はまだ持っている? 無かったらこっちで費用出すけど」

「いや、持っているから別にいいよ」

「いやー、ありがとう。あと他に出来る奴いないかなぁ」

「……じゃあ心当たりに声かけてみるわ」

「いやー、ありがとう!」

 話が終わったので喫茶店を出て駐車している車に向かう。

 

 

「じゃーなー、暇な日後で教えてくれよ~」

 私の車を見送る友人が大声で手を振る。



 夜の田舎道、車を走らせる。

 しかしなぁ、あいつも柔道整復師だけじゃなくて柔道場の面倒まで見て大変だなぁ。

 あんなに古くなったハイエースなんか乗って、あれも子供達送迎用に使っているみたいだし。

 本当に柔道生涯現役を貫くんだなぁ。

 俺も柔道なんて暫くやっていないし、子供相手でも危ないかもなぁ。

 ケガでもしたら仕事出来なくなっちゃう。

 受け身位は少しやっておくか。

 あと他のメンバーは……


 そうだ、山本にでも声をかけておくか。

 あいつも警察官だし、警察で3段取っていたから何とかなるだろう。

 顔も広いから他の指導者も連れてきてくれるかもしれないし。


 お巡りさん、お世話になります。



 柔道指導員のお願いがあった日の出来事。


 了

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お巡りさんにお世話になる数日前 今村駿一 @imamuraexpress8076j

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