第20話

「これを使うす!」




 トオルが小さな小瓶を友恵目がけて投げた。


それをキャッチする。




「……そういうことか! 使わせてもらうぜっ」




 最後の切り札。


これを外せばポートロイヤルは壊滅する。


友恵は、目をつぶって集中し始めた。
















 夏の蒸し暑い日。


ここは、甲子園球場。


高校最後の大会で、私はマウンドに立っていた。


生徒たちが声を張り上げ、校歌を熱唱する。


9回裏、2アウト満塁で、得点は0-1。


相手は4番、金魚。


ここを抑えれば、優勝だ。


学校にいるみんなの夢が、この一球にかかっている。


先発のトオル、中継ぎのミチキがここまで抑えてくれたんだ。


無駄にはしねー。


キメ球は、渾身のストレート。


金魚の奴は、でかい目をぎょろぎょろさせて、私の一球を待ち構えている。


行くぜっ!














 友恵は、目を開き、足を掲げた。


金魚が迫る。


胸を開いて、振りかぶる。




「うおおおおおおおおおおおおおおおおっ」




 金魚の到達まで、後3秒、2、1……


友恵の手から、小瓶が放たれた。


激しく回転しながら、金魚に向かって飛んでいく。


コンマ一秒遅れていたら、友恵に突進していただろう。


寸前の所で、金魚は人間へと変化した。


友恵が投げたのは、人魚姫の化粧水。


その中身が金魚に降り注いだ。




「がぼっ、がぼっ」




 生まれて初めて人間になった金魚は、当然泳ぎ方も知らない。


そのまま、おぼれて海の深みへと消えた。
















「ナイス、友恵さん!」




「お前もな!」




 友恵とトオルは、ハイタッチを決めた。




「わりーな、主人公はお前なのに」




「いいんすよ、俺たちの見せ場はこれからなんで」




「……? どういうこった」




 トオルは、これからミチキと2人で、世界を旅するといった。




「俺ら、自由に泳げるんで、これからダンスを学びに世界を回ろうかなって思ってんす。 そんで、本格的なダンスを身に付けたら、水族館に戻ってショーを開こうかなって」




 すると、友恵は目をキラキラさせて答えた。




「かっけーじゃんか! いいな、私も混ぜてくれよ」




「友恵さんは責任取って、あと2匹の禁魚をどうにかして下さい。 丁度船もあるし」




「えー、私そっちがいいー。 禁魚とか、ダルいわ」




 トオルとミチキは、友恵を振り切るべく、走り出した。




「あっ、お前らっ」




「逃げろっ」




 物語は、まだ始まったばかりである。












おわり


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ペンギンショータイム @moga1212

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