第5話 アルフの町へ
俺がセルフィに無理矢理抱えられて要救助者の元へ行くと、縛られた賊がピラミッド状に積まれた馬車の縁に可愛らしい女性が腰掛けていた。薄桃色の髪を見ると、ファンタジーだなって強く感じる。いやセルフィの髪も十分ファンタジーだけどさ。
「お帰りなさい、そちらの方が?」
「ええ。そこに積んであるのより弱いので、戦力としては期待しないでください」
「初めまして、式葉 康と申します」
「カーテナと申します、この度はお世話になりました。街までご一緒いただけるとお聞きしましたが」
「はい、願ってもないことです」
ほぼ着の身着のまま投げ出された俺達にとって、早いうちから知り合いができるのは非常に助かる。セルフィが話の中で身分証が無いと言ったところさほど驚いた様子が無かったらしく、街へ入ることは難しくなさそうだった。それでも分からないことなんて幾らでもあるし、交流を持てるのは重要だと思う。
御者はセルフィが買って出てくれた。10人規模の元護衛による襲撃は計画性が高く、再度の襲撃や街に門兵が居る場合グルの可能性もあるらしい。ただそうなると襲う側は人を雇った上で細事を"事故"としてもみ消せるほどの権力を、襲われる側も居なくなれば"事故"程度では済まされないほどの権力を持っている事になる。どう転んでも厄介事だと言っていた。
「へえ、じゃあこの道は沼を避けるための迂回路なんですか?」
「かなり昔に力を入れて作ったんです。数十年は使われていたものの、ある時大勢の土魔法士を動員して沼を固めました。それでより利便性の高い道ができてからは放置されていましたね」
「では今回はどうしてこの道を?」
「新しい道にフォレストウルフ・ハウンドが大量発生してるんですよ」
戦闘力として役に立たない俺は、こうして話し相手兼情報収集をしている。この『ハウンド種』というのは通常種より図体が大きく、追い立て・待ち伏せ・陣形など連携まで駆使する高い知能を持っているようだ。
また縄張りをどんどんと拡大していく傾向にあり、空腹となれば周囲の生物を見境無く襲う凶暴性も備えているそう。今回も金銭に見合う腕の良い護衛10人雇ったにもかかわらず、決して安心できない旅路だったと言っていた。
「領主様の騎士様方と街に居る冒険者達で倒し続けて、なんとか縄張りの拡大は抑えられています。しかし、果たしていつまで持つか」
「限界が近いんですか?」
「現在は領主様が期間給で依頼を出しています。決して渋っているわけではないのですが、長期的にそれも大人数となれば低くせざるを得ません。財源にも限りがありますから。それに、色々とおかしいんです」
「それは一体?」
「まず、街を最優先に襲撃してくるのです。何度も返り討ちにしているので、高い知能を持つハウンド種であれば敵わないと理解するはずなのですが」
カーテナはまるで街を襲うことが目的のように、と続けた。彼女から話を聴く限り、生存本能がないようにすら感じる。絶え間なく現れていることと関連がありそうだ。
「それから倒すと黒い煙のように消えてしまうんです。こんな現象は初めてで、誰もが戸惑っていて。これも賃金が低い理由の一つで、肉や毛皮など売却する素材が得られないのです。どんなに安くても数があれば足しになりますが、それすらも無いとなると」
「なるほど、ハイリスクノーリターンの極みですね。狩っている冒険者も達成感が薄く、そのうちに目的も見失ったりとモチベーションの維持が難しそうです」
「仰る通り、既に街を出て行ってしまわれる方が増えています。さすがに騎士様だけでは手が回りません」
黒い霧になる特徴から界破喰い関連なのが確定した。問題は発生源の場所と、俺達(主にセルフィ)が対処できるかだが、どちらも心配はしていない。聞いている限り、セルフィの
……街へ行ったら稽古をしよう。女神フルールに期待されていなかったとは言え、おんぶにだっこはヒモみたいで嫌だ。男のプライドだってまだ半分くらい残ってるし。幸いにも、師匠となる人物はクリアファイルと共に大勢居る。女神に当てにされるくらいだから、下手に齧るより全然良いはずだ。
「主、カーテナさん。街が見えました」
「セルフィさん、何から何までありがとうございます」
「家へ帰るまでは気を抜かないでください」
「はい、すみません」
その後は襲撃もなく、平穏に街へと辿り着いた。立派な外壁と門に囲まれている。土魔術士が活躍しているそうだし、この外壁にも関わっているのだろう。
短い入門待ちの列に並び、俺達の順番が来る。門兵への説明をする時はセルフィの指示でカーテナを馬車から出さず、少しだけ扉を開けて行なった。それだけでなく、門兵の一挙一動を見逃さないよう監視もしている。
「か、カーバンシー商会のご令嬢!? おおお襲われたとは、ごっご無事ですか!?」
「大丈夫です、大丈夫ですから落ち着いてください」
「落ち着いていますとも! すぐに兵長に、いや領主へお伝えせねば!」
欠片も落ち着いていない兵士を必死でなだめ、なんとか上へ黙っていてもらう。この件にその辺りが絡んでいたことを考えて、少しでも情報の伝達を遅らせるためだ。猶予があればカーテナさん側が対策を取る余裕ができる。
門をくぐると石畳の広々とした大通りを進んでゆく。料亭や食材・衣類など様々な店が並んでいるが、どこか閑散としていて寂しげだ。普段はもっと活気があるのだろうが、フォレストウルフへの対応に追われていて余裕がないのだ。
「ようこそ、アルフの町へ。どうかごゆっくりなさってください」
そういうカーテナさんの笑顔は寂しげだった。
クリアファイルから召喚するキャラクターシートの嫁キャラ達 煮詰めうなぎ @nitsume-unagi
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