第6話:もう1人のルーキー

 

 ここはとある地下街にある奈落の底の底。壁がコンクリートで固められ、家具が一切ない30畳程の部屋に男が1人、少女が1人いた。床には複雑に交差した巨大な魔法陣が描かれている。紫髪の男はあぐらをかき精神統一をし、ピクリとも動かない。青髪の少女の方は床の上で足を伸ばしながら本を読んでいた。彼女の周囲に本が積み上げられたり無造作に散りばめられたりしている。


『イルム様、リリナ様、失礼します。』

 ドアをノックし大柄な黒ずくめの男とその部下が5人、更に手足を施錠されたスキンヘッドの男と鎧を着た男が入ってきた。目を開け紫髪の男が問いかける。



『シュトロクリムか…………。』

『左様でございます。』

『リリナ、頼む……。』



『分かった…………。』

 読書をしていた少女が "ボン"と本を閉じ繊麗な体で立ち上がる。青空色の長髪をたなびかせ、足を忍ばせながら魔法陣の中へ入っていった。そして、黒ずくめの男達に命令を下す。


『その者達を中へ……。』

『承知いたしました。』


 黒ずくめの男達は強引にスキンヘッドの男と鎧の男を魔法陣の中心へと誘導した。2人には殆ど意識がなく、フラフラと足を運び中心に辿り着く。少女は掌で三角形を作り出すと呪文の詠唱を始めた。


『世の理に準じ、神明に随順し、極致、王法、権能により変位を執行する。パルカ神に尊霊を譲渡し邪曲があらんことを………。

 !!!!!" ラエル・ドルグ "!!!!!』


 すると、魔法陣が紫色に輝き中心部に縮小する。2人の身体が煌めき散り散りと消えていった……。黒ずくめの男達がひれ伏し大柄な男が賛賞した。


『リリナ様、お見事でございます。』



『戻れ……。』

 背を向け冷徹な態度で下命する。


『は!!』


 黒ずくめの男達は颯爽に消え、再び少女は読書再開した…………。











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 俺とディスティアは宿泊所にある食堂で向かい合わせに座りながら朝食をとっていた。マルクというカレー風味のスープにピナというちくわの形状をしたパンが4つだけの軽食だったが、1000円の激安宿泊所かつ朝食付きということを考慮すると中々のリーズナブルな価格設定と割り切ることが出来た。しかし、ディスティアは不満気な顔つきで納得していない様子だった。


『レジス、この朝食なんだか物足りないよ……。』

『取り敢えず今は我慢して後で何処かへ食べに行くか……。』

『さんせーい!! 昨日食べたパルムまた食べたいなぁ……。』

『却下だ!!』

『ええ!! なんでダメなの!! あんなに美味しかったのに〜〜〜。』

『パルム1つで幾らすると思ってるんだよ……。』

『ええ…っと50エリスくらいかな?』

『残念ながら200エリスだ。』


 片手に持っていたピナを落とし青ざめた表情をする。

『私、あの勝負の後すぐ寝ちゃったけどお金って幾らぐらいしたの……?』


『たしか俺たちが最終的に食べた数が50個だったから10000エリスぐらいだったかな。』


 口に含んだスープをタラタラと流し出した。

『あの一晩で………そんなに……うそぉぉぉ!!』

『嘘なんだけどな。』

『え!?!?』

『序列ランキング登録の時に受付のお姉さんが言ってただろ。6のルールで"食事はあらゆる所で無料配布してる"って。自分で"この世界の基本知識は把握している"とか言ってただろ!』

『あれれ?? そんなこと言ってたかな??? 気のせいじゃないかな。昨日の勝負でレジスは疲れて記憶が曖昧なんだよ、きっと!!』


 うわぁ……。ディスティアのやつ初めから無かったことにするつもりだ……。しかも俺が疲れてるからとか言い出したし……。本当になんて奴だ……。





『ええ!! 朝食ってこれだけ!! 100エリスも払ってんだよ。もっと量ぐらい増やしてくれてもいいんじゃない。』

 隣のテーブル席に2人で座っていたうちの金髪ベリーショートの少女がブツブツ言いだした。


『まぁまぁ、むしろ100エリスなら安い方じゃないか、フフ。』

 少女の向かいに座るつり目の男が不気味な笑みを交えながら宥める。


『ハイハイわかりましたよ〜〜。』


 緑髪の男がヌルヌルしたエロい手つきで

『ところでカルナ、お胸を触らせてくれないか!!』

 と頼みだした。


『堂々と胸を張って言うな!! キモい、死ね!!』


 うわぁ……。変な人達が隣の席にいるし……。あの人達に比べればディスティアと俺なんて可愛いものか……。



『ねぇ、ねぇ……。"おむね"って何なの? 食べ物か何か?』


 馬鹿、声をかけるな!! ディスティア。"おむね"っていうのはおーぱいの事だ。そいつらに関わったらロクなことが………。


『君、かわいいねぇ。お胸っていうのはねぇ……。』


『馬鹿野郎!! 根っからのど変態クズが!!』

 金髪少女が眉間にしわを寄せ男の頭を叩いた。


『いいねぇ、その叩き具合とてもいいよ〜〜。』

『ドMが!! 』


『所であなたは一体……。』


『私はディスティア。あっちの冴えない男の方がレジスだよ。』


 冴えない男言うな!! これからずっと自己紹介の度に言い続けるつもりなのかディスティアの奴。


『ディスティアは僕なのね。次は私達の自己紹介の番ね。私の名前はカルナ。そして、こっちのど変態が僕のケイン。』


『変態扱い……それも悪くない…フフフ。宜しく、ディスティアさん。それにレジスさん。』


 なんだこの変態野郎は欲望その物のようだ。元の世界にいたら即効で捕まりそうだ……。



『カルナ宜しくね!』

『宜しく、ディスティア!!』


 ケインが俺の隣の席に座った。

『ところでレジスさん達は……。』

『レジスでいいです……。』

『分かりました。では改めて、レジス達はこの世界に来たばかりなのですか……?』

『ああ……。何でそんなこと分かるんだ?』

『レジス達も受付のお姉さんに言われてここに宿泊したと思ってね。この、宿泊所はルーキーが手始めに宿泊し、慣れてきてから別の宿を探すらしい。現に私達もそうだ。』

『なるほど。』


 ケイン、只の変態鬼畜不審者と思っていたが中々頭の回転は早そうだ。


『つまり、ケイン達もルーキーってことか……。』

『まだ2勝しかしていない素人ルーキーですけどね。』

『俺たちもまだ1勝しかしていないど素人だ。』


 俺たち以外のルーキーか……。仲間が増えたようで頼もしい……のか? しかし、さっきから気になっているんだがカルナが俺に目を合わせようとしない。もしかして、嫌われたのか?


 俺は席を立ちカルナに手を差し伸べ握手を促した。

『宜しくな、カルナ。』

『よろしく……。』

 俯きながら両手でガッシリと握手をしてくれた。


 嫌われていないようだが何か妙だな……。


『カルナ、何でさっきから俯いているんだ??』



『ああ……ん、もう!! もしかして第3条1項を知らないのね。』

『第3条1項???』


 っていうかケインの奴、何で急にオネェ口調に………。


『第3条1項の"無戦の主人同士が合間見える時、争闘展開する"つまり、1日1回の戦闘を行っていない主人同士が顔を合わせると戦いが始まるってことよ〜。』


『成る程、だから昨日の酒場で急に戦闘が始まった訳か……。』


『ウフフ……それだけじゃないのよ、カルナは初対面の男性に人見知りする傾向があるのよ……。』


 性格が荒らそうに見えたが意外に繊細な部分があるんだなぁ……。俺もディスティアに出会うまでは……。



『ねぇ、話は終わった〜? レジスとカルナが顔を合わせられないのなら仮面でも買えばいいんじゃないかな? 外で歩いている人達みたいに……。』

 ディスティアが俺たちの会話を遠目で見ながら退屈そうな表情をした。


 そういえばエルシオンにいる人々は全員ではないにしても覆面をつけて行動している人がいたが、まさかそんな理由だったとは………。



『流石、ディスティアさん。頭いい〜〜。ところでパンツ何色ですか?』



『会って10分も経ってない人にパンツの色聞くやつがあるか!! 変態が!!』

 カルラがケインの脛を軽く蹴った。


『ぬぬ……。ごめん、つい両手に花があるとね…。』


 カルナはケインに対しては心を開いているみたいだ俺も心を開いてもらえるのだろうか。昔の俺も他人を憎んで………まぁ昔のことは忘れよう!!



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運命の世界『パルティシオン』 ビスケ @BISUKE0527

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