第5話: "一雫の涙"

 

 運命のダイスが開いた時と同じように酒場中輝きが覆い尽くした。俺とディスティアそれにビルとルータスは元の姿に戻ることことが出来た。ビルは老いた表情をしながらルータスと共に酒場を出ようとしたが黒ずくめの集団がビルとルータスを囲い込んだ。


『何なんだ……お前ら……。』

『我らに……何用か?』


『お前たちこれで40敗目だな……?』

 黒ずくめの集団の中でも一際大柄な男がビルとルータスに確認を迫る。


『ああ……それがどうした?』


 それを聞いた黒ずくめの男が部下に命令を下した。

『こいつらを連行し、シュトロクリムへ追放しろ!』

『は!!』



『何だ!! お前ら!! 俺に触れるな!!』

『無礼者!! 我に刃向かうつもりか!!』

 周囲の黒ずくめの男達が一斉に抑えかかる。



 結局手足を施錠され無抵抗で連行されてしまった。それを見ていた観戦客もその場の流れで帰っていく……。俺はビルとルータスが連行されたことについてパルカに問いかけることにした。


『あいつらはどうして連行されたんだ? それにシュトロクリムが何とかって言ってたけど……。』



『私からは何も言えないし言うつもりもない。君たちも例外ではないとだけ言っておこう。』


 いつもの自由奔放なパルカとは打って変わってその瞳は冷酷な眼差しだった。


『俺たちも??』


 空間に切れ目が生じパルカはその中へと消えていく。顔を俯かせ椅子に座りながらディスティアは何かを考えている様子だった。そして、俺は声を掛けた。


『ディスティア、あの黒ずくめの集団のことを考えているのか?』


 俺の問い掛けにピクリとも反応しない。


 あのディスティアがこんなにも真剣に考え込んでいる!? これは只事ではないのか??


『 もしかして12のルールに引っかかって連行されたなんてことは無いよな……。ディスティアはどう思う?』


 しかし、足を組んだ状態のまま一向に反応を見せない。


 うん? 様子が変だぞ……。ディスティーノが使えるようになった影響なのか?


 すると下を向いたディスティアの顔の辺りから液体状のものが垂れてきた……。


 これって………まさか…………。


 すかさずしゃがみ込みディスティアの顔を覗き込んだ。


 はぁ……やっぱり……眠ってるのかよ……。俺は今まで寝ているコイツに話しかけてたのか……。ディスティアが考える……なんて考えた俺が馬鹿だった……。まぁ……今日はディスティアのお陰で勝てたし部屋まで背負ってやるか………。


 俺はディスティアをお姫様抱っこしながら宿泊所まで戻りベットへ寝かしつけた。その愛らしい寝顔を見ながら一人思い耽る……。







 この世界には受付のお姉さんが教えてくれた12個のルール以外に暗黙のルールが存在する。ディスティアが教えてくれた"主人が僕に名付けをする"のもこれに該当するだろう。後はビル&ルータス="ビルス"が言っていた第2条1項、2項、3項のルールも初耳だった。新たに疑問が増えたとすればビルとルータスに声を掛けられた瞬間、ベルの音が鳴りパルカが出てきて戦闘が始まった事とビルとルータスがシュトロクリムって所へ連行されたことぐらいか……っていうかあいつらからお金貰ってないんだが………。はぁ……生活に支障アリアリだ……………って考えを整理しよう。受付で聞いたルールが第1条系のルールで第2条系は能力についてでいいんだっけ…………この調子でじゃあまだまだルールがありそうだな…………。


 眠っているディスティアが『むにゃ、むにゃパルムおおいいしぃ……。もう食べれな……。』と寝言を話しだした。


『まだ食い足りないのか……どんな胃袋をしているんだ…………ふぅあぁぁぁ…………。』


 俺も眠たくなってきた頃だし……そろそろ眠るか……。


 俺は部屋の照明を消しディスティアの隣で深い眠りについた………。









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 光が存在しない深淵の彼方……。自分という存在を感じながら姿がない世界……。暗闇の中をただひたすらに歩き続ける…………。そして、下筋の光が現れると同時に誰かの声を聞く……。『たすけ……て……。一人は……嫌だ……。誰か…………。』

 しかし、声は届かない……。その声は知っている……。しかし、届かない……。ただひたすら歩き光源へ向かって歩み続ける………………………。







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 クスン……スス……クスンクスン…………。




 近くの物音で俺の目が覚め、ゆっくりと薄眼をする。目が慣れてくるとベッドの端に座る白髪の少女が涙を浮かべていた。認識が戻るまでただひたすら薄眼で見つめ続けた。そして、脳が再び活動を始める……。




 クスンクスン………。




 ディスティア…………だよな……。何で泣いているんだ……? 悪夢でもみたのか??




 潤った薄い唇を小さく開け静かに発する。

『レジス………。』

 クスン……スス……クスンクスン……。




 俺? 何で俺の名前を…………。




『辛いよ…………。』




 窓の光が落ちる雫を反射させ俺の顔を照らしつける。




 こういう時って声を掛けて慰めた方がいいのだろうか………。まさか辛い立場にいた俺がこんなことを考えるとは……………辛い立場? まさか………。




『私も一緒にいてあげられれば…………。』




 勝負の時に………………本当に俺の記憶が………。

 そういえばこの世界に来てディスティアと出会ってから色々抱え込んでいた気持ちが軽くなったような……………………確かディスティアは俺の"不運"の塊…………!?!?





『お母さん…………ごめんね…………。』




 お母さん!? 俺の記憶にはそんなもの……。もしかして、俺が忘れている記憶まで…………。




『私とレジスはずっと………一緒だから……。』




 俺は溢れ出しそうな涙をグッと堪えディスティアとは逆方向に寝返りをうった……。




 寝返りに気づいたディスティアが俺の背中に小さな胸をつけギュッと抱きしめる。頬に付いた雫が俺の背中にこぼれ落ちた……。枯れたはずの湖に再び水が舞い戻る。それが頬を伝い顎を伝いベッドを濡らす。




 とうの昔に枯れ果てた……と思って……いたん……だが……な………。




 安心、愛しさ、勇気、幸福を感じ脳へ伝わる信号が途絶える。水面下の意識が奈落の底へと吸い込まれていった…………。













 鳥の囀りに意識を揺さぶられ、電光が照りつけ起床を促される。俺はまぶたを開けた。昨夜の出来事を思い出しつつ辺りを見渡したがディスティアの姿がなく代わりに胸から下にかけて重みを感じた。視線をやると裸体姿で俺の身体を抱きかかえながら眠っていた……。


 俺の化身体とはいえ、これは流石にアウトだろ……。しかし、どうしたものか……。どかそうにも両手両足でガッシリしがみついているし力を入れると下部にあるブツが反応してしまう…………。


 仕方なく、俺はディスティアが自ら目覚めるまで寝たフリを続け必死に気づかれまいと隠し通した……。



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 ご覧いただきありがとうございます^_^ 感動ものはいかがだったでしょうか? 始めてチャレンジしてみました。 ブクマや感想などがあればよろしくお願いします。

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