生徒会長の秘密

生徒会長の秘密

 その高校は元々男子校だったのだが、少子化や生徒数減少、その他もろもろの事情で数年前に男女共学となった。共学となったことで様々な問題が生じたが、先生たちの努力(一割)と金の力(九割)で解決されてきた。


 だが今年、先生たちも予想していなかった問題が巻き起こった。


 もともと男子校だったため共学になってからも女子生徒の数は少なく、全校生徒の三分の一にも満たない。そんな男子生徒が多い学校内で、入学試験より首席を維持している女子生徒が生徒会長に立候補した。公約発表の時に、それは起きた。


「私は真の男女平等を目指す!口では男女平等と言いながらも実際は不平等だらけの社会!政治家の女性の割合は先進諸国の中でも最低値!同じく会社で要職についている女性の割合も少ない!家事は女性の仕事という固定観念!この意識を私たちが変えていかなければ誰も変えることはできない!そこで、私はまずこの高校から変えていく!」


 女子生徒が澄んだ声で力強く演説をしていく。容姿端麗な姿もあって生徒のほとんどは演説の内容より女子生徒の外見に見惚れており、静かに聞いている。

 まあ、ここまでは良かった。男女平等は社会的にも課題であるため、先生たちもさほど気にすることなく軽く頷いていた。次の爆弾が落ちるまでは。


「私は男女の制服の概念を撤廃する!」


『ん?』


 演説を聞いている人たちの頭にクエッションマークが飛ぶ。しかし女子生徒は気にすることなく言葉を続けた。


「そもそも制服を男性用、女性用と分けている時点で差別が生まれている!私が生徒会長に当選したら、制服は性別に関係なく着用できるようする!まず私が見本として、今は男子生徒用とされている制服を着て登校しよう!」


 この宣言に女子たちから黄色い歓声が響いた。


 壇上にいる女子生徒は背が高く、髪はショートカットで、切れ長の瞳に凛々しい顔立ちをしている。さながら宝〇歌劇団の男役のような女子生徒だ。

 男子生徒数の方が多い学校だが、バレンタインデーでチョコをもらう数が一番多いのは、この女子生徒であり、崇拝している信者までいるほどだ。

 そんな女子生徒の男装姿が毎日、しかも生で見られるのであれば、と女子たちはこぞって応援をした。そして、そんな女子たちを敵にまわしたくない男子たちは我が身を守るために応援をした。


 その結果、この女子生徒は生徒会長に当選したのだった。





 学校の正門を通って生徒たちが校内へと入っていく。その中で一際目立つ生徒が一人いた。全員が羨望の眼差しでその生徒を見つめている中、勇気ある女子生徒が一歩前に出て声をかけた。


「司(つかさ)様!おはようございます!」


 可愛らしい女子の声に、ネクタイを締めズボンをはいたブレザー姿の生徒会長(女子)が雄々しくも優雅に答える。


「おはよう。おや、髪型を変えたんだね。前のも似合っていたけど、その髪型も可愛いよ」


 そう言って生徒会長が微笑むと、背景にバラの花びらが舞っているような幻覚が現れた。この世のものとは思えない優美な光景に女子生徒の心臓に見えない矢が刺さる。


「はう!」


 漫画の中でだけのセリフだと思われていた言葉を発しながら挨拶をした女子生徒が倒れかける。それを隣にいた友人たちが支えた。


「しっかりして!」


「気を確かに!」


 友人たちの腕の中で女子生徒が恍惚の笑みを浮かべ、うわ言のように言った。


「我が生涯に一遍の悔いなし……」


 その言葉とともに女子生徒の腕が地面に落ちる。


「明美!死んじゃダメ!」


「目を開けて!」


 コントのようだが本人たちは本気なので周囲にいる人も何も言わない。


 生徒会長は校舎内に入ろうとして、一人の女子生徒に気が付いた。遠くからこの出来事を見ていただけなので、まさか目が合うとは思っていなかった女子生徒が慌てて頭を下げる。


「あ、あの、おはようございます」


「おはよう。前髪を切ったんだね」


 生徒会長の発言に女子生徒が驚く。

 女子生徒は生徒会長の顔は知っているが、向こうがこちらのことを知っているとは思わなかったのだ。同じクラスところか学年も違うため話したこともない。自分の存在は知られていないと思っていた。

 それなのに昨日、自分で適当に切った前髪のことを指摘されて女子生徒は無意識に前髪を触りながら訊ねた。


「は、はい。少しだけ切りました。でも、どうして分かったのですか?」


「君の綺麗な瞳を隠す前髪がなくなったんだ。気が付かないほうが、おかしいよ」


 生徒会長が軽く笑いながら当然のように言い切る。その姿に女子生徒は立ったまま気絶した。


「大丈夫かい?」


 気絶しているので反応はない。生徒会長は綺麗な眉をよせて困った顔になった。


「保健室に連れていきたいが、私はこれから生徒会の資料を先生に提出しないといけないからな……」


「わ、私が連れていきます!」


 他の女子生徒が立候補しながら駆け寄ってくる。


「ありがとう。君は一昨日も私を助けてくれたね。感謝している」


「いえ、当たり前のことをしているだけです」


「君のような優しい生徒がいて嬉しいよ」


「はう!」


 朝から三名の生徒を昇天させた生徒会長は、実際にはないキラキラとした背景を貼り付けたまま職員室へと向かった。




 生徒会長は記憶力の良さを生かして学校の全女子生徒を把握し、褒めることに日々精進するという無駄に高い能力を発揮していたが、もちろん生徒会の仕事もきっちり実行していた。


 そんなある日のこと。


 生徒会会長である菊池(きくち)司(つかさ)が生徒会役員の女子生徒二人、書記の丸(まる)有紗(ありさ)と会計の鈴木(すずき)真奈美(まなみ)と帰宅をしている途中の出来事だった。


 三人は並んで歩いているのだが、会計の鈴木がずっと俯いている。その様子に生徒会長の菊池が声をかけた。


「このまま君がそんなに地面ばかり見つめていたら、私は道路に嫉妬してしまうよ。何か悩み事があるのかい?」


 鈴木が言いにくそうに話し出す。


「実は文化祭の予算について記入間違いをしてしまったような気がして……明日の朝には各部に予算案を配布しないといけないのに……」


「では明日の朝、早く学校に行って確認をしよう」


「それが、あの、申し訳ないのですが、明日は学校を休みます……先ほど家族から連絡があったのですが、身内で不幸がありまして葬式に出席しないといけなくて……」


「それは大変だ。どこを記入間違いしたか分かるかい?私でよければ訂正しておくよ」


「それが、はっきりとは覚えていなくて……予算案を見れば思い出すと思うのですが」


 二人の会話を静かに聞いていた書記の丸が提案をする。


「これから確認しては、どうですか?もし間違えていれば、私が明日の朝早く学校に行って訂正した予算案を各部に配布するようにしますから」


「そうすればいい。私も手伝おう。予算案のデータは持っているのかい?」


「はい。データが入ったUSBを持っています」


「なら、パソコンがあれば確認が出来るな」


 そこまで言って菊池の視線が泳いだ。確かにパソコンがあればデータの確認は出来る。だが、そのパソコンが問題だった。

 できれば学校のパソコンで確認したいところだが、下校時間を過ぎているため戻ることはできない。かと言って、そこらへんのネットカフェのパソコンなどで確認することは、ウイルスのことなどセキュリティを考えると危険すぎる。

 そうなるとウイルス対策がされている誰かの家のパソコンになるのだが、現在地から一番近いのは菊池の家であった。


 自宅に招待する。


 それはまったく問題ない。だが、そこからパソコンがある自室に招く、ということが問題であった。


 学校では『白馬の王子様』『現代に舞い降りた守護天使』『究極のフェミニスト』『生(リアル)宝塚〇劇団』と隠すことなく言われているが、自室はひた隠しにしている趣味満開の部屋なのだ。


 八畳ほどの部屋の壁は淡いクリーム色の下地に小さな花柄が描かれ、アイボリーの木枠の窓には白いレースのカーテンが下がっている。天井からは照明機能を放棄した小さなシャンデリアがぶら下がり、滑らかな丸みを帯びた木枠で造られたソファーの上には可愛らしいぬいぐるみが鎮座している。


 菊池はこの沢山鎮座しているぬいぐるみの中から一緒に寝る子を寝る前に選ぶことを密かな楽しみとしている。毎晩、たっぷり三十分はかけて一緒に寝るぬいぐるみを厳選すると、花柄のベットカバーがかけられたソファーと同じデザインのベッドで就寝するのだ。


 部屋に置いてある小物は可愛らしい花柄や白色で統一され、無粋なものは一つもない。部屋の主である菊池以外は。


 そもそも菊池は可愛らしいものを眺めることが好きだった。自身が身に付けると似合わないので、服や靴などは動きやすいシンプルなものを着用している。もっとも自分が着ていたら見ることができないので興味がないのだ。


 そんな学校生活と真反対の部屋は菊池の極秘事項のため家族以外は不可侵領域だった。


 だが、今の会話の流れで自分の家に招かないわけにはいかない。他の二人の家が近いならそちらに誘導することもできるが、残念なことに二人とも家は遠い。


 菊池はリビングにパソコンがないことを悔やみながら、他にパソコンがある部屋を必死に思い出した。そして、この二人を招いても問題ない部屋にパソコンがあることを思い出した。


 ここまでの考察時間、約一.五秒。


 菊池はここまでの苦慮を一切悟らせない笑顔で二人に言った。


「よければ、これから私の家に来ないかい?私のパソコンで予算案を確認したらいい」


「いいのですか?」


 どこか嬉し気な二人に菊池が微笑む。


「あぁ。少し散らかっているが、それでもよければ」


「ぜひ!」


 学校中の憧れの的である生徒会長の家が拝見できるという事態に二人の心の中はリオのカーニバル状態になっていた。




「こちらへどうぞ」


 二人が通された部屋は黒を基調としたシックな部屋だった。

 壁は白色だがカーテンやベッドカバーは黒に近い紺色。机やソファーは黒一色で装飾が一切ないシンプルなデザインだ。余計な物はなくすっきりとしており、むしろ少し寂しいぐらいの部屋だった。


「カッコいい部屋ですね」


 二人が頬を赤くしながら学校での菊池のイメージ通りの部屋を見回す。


 菊池は部屋が予想通り部屋が片付いていたことに内心で安堵しながら机の上にあるパソコンの電源を入れた。


「USBを貸してくれ」


「はい」


 鈴木が鞄の中からUSBを取り出す。菊池はパソコンに接続しながら素早く視線を巡らした。


 今のところ見える範囲に可愛らしいものはない。だが、この部屋の主である菊池の双子の片割れは、菊池とは正反対で身に付ける物は可愛らしいデザインであることが多い。

 服から靴、鞄に小物まで花やフリルが付いたものを着用する。しかも学校が私服校であるため、持っている量が多い。そのほとんどは押入れの中に収められているが、片付け忘れがないとも言えない。


 菊池はパソコンを操作しながら、スパイ映画に出てくる諜報員顔負けの鋭さで双子の片割れの部屋をチェックしていく。そこで本棚の中段にある小箱に目が留まった。


 見た目はシンプルな黒い箱だが、実際はアクセサリー入れだ。横から見るだけでは気が付かないが、上から見れば蓋のガラス部分から中にある可愛らしいアクセサリーが丸見えになる。


 この状況を瞬時に把握した菊池は爆弾を回収すべく、すぐに行動に移した。


「飲み物を持ってくるから、二人は座って待っていてくれ」


「気を使わないで下さい」


「すぐに帰りますから」


 遠慮する二人に菊池が有無を言わさない笑顔を向ける。


「レディーたちを招待しておいて何もしないなんて、みっともないことはさせないでくれ」


「は、はい」


「それではお言葉に甘えて……」


 二人が黒いソファーに腰をかける。


 その様子を見ながら、菊池はさりげない足取りで本棚の前を通り、文字通り目にもとまらぬ速さで黒い箱を回収すると部屋から出て行った。


 部屋のドアが閉まると同時にキッチンに向けて全力ダッシュをする。リビングのテーブルの上に黒い箱を置いて、キッチンの棚からガラスのコップを取り出す。ここは珈琲か紅茶を出すべきなのだろうが、それでは時間がかかり過ぎてしまう。この間にも部屋で何かが見つかっているかもしれない。そう考えただけで菊池の動きは光速を超えた。


 コップにオレンジジュースを入れ、皿にお菓子を入れると、菊池は瞬く間に部屋のドアの前に戻っていた。


「待たせたね」


 何食わぬ顔で菊池が部屋に入る。ソファーに座っていた二人は予想外に早い菊池の帰室に少し驚いた顔をした。


「全然、待っていませんよ」


「そうかい?こんな味気ないものしかなくて悪いが、ゆっくりしてくれ」


 菊池が笑顔を見せると二人は頬を赤くして両手を顔の前で横に振った。


「こちらこそ突然、お邪魔して申し訳ないです」


「あの、本当にお気遣いなく……」


「そんなに緊張せず楽に過ごしてくれ」


 そう言って菊池はコップとお菓子をローテーブルに置きながら、もう一度部屋の中を入念にチェックした。本棚には無難な題名の本が並んでおり、パソコンもトップ画面もどこにでもある風景の写真だ。


 これならイケる!


 菊池は内心で勝利のガッツポーズをしながら、さっさと作業を終わらせて二人に早急に帰宅して頂く方針に自身の行動をシフトした。


 USBから文化祭の予算案の資料を取り出し、会計の鈴木を呼ぶ。


「どこが間違っているんだい?」


 鈴木は口をつけるか迷っていたオレンジジュースを置いてパソコンの前に来た。資料を数秒眺めた後、サッカー部とバスケットボール部の予算を指さした。


「この二つの部の予算が入れ替わっています。サッカー部は模擬店をするので、この予算では不足します。バスケットボール部は展示と体験教室なので、こんなに予算は必要ありません」


「そうか。各部に配布する前に気が付いて良かった」


 菊池がパソコンを操作して予算の数値を入れ替える。


「よし。では、明日は早く学校に行ってこの予算案を各部に配布しておこう」


「私のミスなのに……ご迷惑をおかけして申し訳ございません」


 鈴木が深々と頭を下げる。


「気にするな。いつも君には助けられているからな」


 顔を上げた鈴木に菊池が微笑みかける。

 全女子生徒が見惚れる笑みを眼前で、それも自分にだけに向けられた。そう考えただけで鈴木の瞳はとろんと溶けそうになった。

 感動と感激で失神しそうになる鈴木を後ろから丸が支える。二人が一緒に行動するのは、菊池の女たらし行動で失神をした時に対処するためでもあり、こうした場面は慣れたものであった。


「会長……ありがとうございます」


 どうにか失神を免れた鈴木が丸に支えられたまま礼を言う。菊池は書き換えた予算案を保存するとパソコンからUSBを引き抜いた。


「明日の朝、学校で印刷をして配布しよう。これは私が預かっていてもいいかい?」


「はい、お願いします」


 菊池は二人をソファーに座らせると優雅に雑談を始めた。本心では今すぐにも帰ってもらいたいのだが、そんな素振りは一切見せない。だが、飲み物とお菓子をどんどん勧め、相手に帰らせるきっかけを作ることは忘れない。


 早くしなければもう一つ爆弾が帰ってくる。あれは聡いから下手なことはしないだろうが、もしも、ということもある。できれば、遭遇する前にこの二人には帰って頂きたい。


 そんな菊池の願いも虚しく、その爆弾は玄関のドアを開けていた。自分の保身を第一に考えて雑談をしていた菊池はそのことに気が付いていなかった。


 爆弾はリビングのテーブルに自分のアクセサリー入れが置いてあることを見つけた。何故、ここにあるのか不思議に思ったが、とりあえず手に持って自身の部屋へと向かった。


 女子三人が談笑しているところにドアノブが動く。そのままドアが開いたところで、部屋の中を見た爆弾が硬直した。


「誰?他人(ひと)の部屋でなに……」


 言いかけたところで光速移動した菊池が爆弾の口を塞いだ。もちろん二人からは見えないように、自分の背中で隠して。


「おかえり。なにか用かい?」


 にっこりと微笑んでいるが瞳には殺気が混じっている。それだけで、いろいろと悟った爆弾は軽く頷いた。そこで菊池は塞いでいた口を外して一歩下がる。


 爆弾は可愛らしく小首を傾げて微笑んだ。


「今度の日曜日に一緒にランチに行こうと思って。いいよね?姉さん」


 上を向いた長い睫毛が大きな瞳をより大きくみせている。髪は緩く立て巻きロールで、小さな口と顔も相まって人形のようだ。

 おねだりのような言い方だが、実際は取り引きである。ランチを奢れば、ここは穏便に済ましてやろう、という爆弾の心の声が菊池には聞こえた。


 ランチと言っても、たぶん吉〇家の大盛り牛丼だ。爆弾はこの外見のせいか〇野家に入るとジロジロと見られるので、一人では行きたくないらしい。


 吉野〇の牛丼一つで済むのなら安いものだと菊池は二つ返事をした。


「わかった」


「もうすぐ母さんたちが帰ってくるから、夕食の準備をしているよ」


「あぁ、頼む」


 爆弾はドアが閉まる前にソファーに座っている二人を見て微笑んだ。


「じゃあ、|ごゆっくり(・・・・・)」


 整った顔立ちで愛らしい笑みなのだが、その裏に何かを含んでいるような言葉を投げられた二人はそそくさと立ち上がった。


「つい長居をしてしまいましたね」


「帰ります」


「あ、そ、そうか。では、見送ろう」


 思わぬ展開だが菊池にとっては好都合であるため、たいして引き止めずに二人を玄関の外まで案内する。


 そこで鈴木が菊池に言った。


「遅くまで申し訳ございませんでした。ご家族の方にもご迷惑をかけてしまって……」


「あぁ、要(かなめ)のことは気にしないでくれ。むしろノックもなしに入ってきたのだから、失礼をしたのはこちらのほうだ」


「可愛らしい姉妹がおられるのですね」


 丸の指摘に菊池の顔が一瞬引きつる。


「ふ、双子なんだが二卵性で似ていなくてね。要は違う高校に通っているんだ」


「それでお見かけしたことがないんですね」


 鈴木が納得したように頷く。


 夕日が長い影を作り、気温が下がってきていた。


「暗くなってきたな。二人とも早く帰った方がいい」


「そうですね。お邪魔しました」


「失礼します」


 歩き出した二人の背中を菊池は心の中で大きく安堵しながら見送った。寿命が二~三年は縮んだ気がしたが、どうにか秘密を守れた。


 誰も見てはいないのだが、菊池は舞台の上の男優のような派手な動きで踵を返すと、悠然と家の中に入っていった。




 菊池の家が見えなくなった頃、鈴木が噛みしめるように呟いた。


「会長の部屋に入ったなんて夢みたい……生徒会役員になって良かった」


 実際は菊池の双子の部屋なのだが、事実を知ることはないだろう。むしろ事実は知らないほうが幸せだ。


 惚けている鈴木に対して丸は何かを考え込んでいる。てっきり自分と同じように夢見心地になっていると思っていた鈴木は丸に声をかけた。


「どうしたの?」


「会長の家族構成ってご両親と双子の弟の四人家族だったと思うのだけど……」


 丸の爆弾発言に鈴木の思考が停止する。


「え?は?でも、あんなに可愛らしかったのに?あ、でも従妹とか親戚の方かもしれない!」


「さっき会長は双子の、って言われたわ」


 己の発言が爆弾となり、ここで爆発をしているのだが幸か不幸か当の本人はそのことを知らない。だが爆弾は爆弾であり、爆発は爆発である。


『…………』


 答えを知りたいような、でも知らないほうがいいような、そんな微妙な空気が二人を包む。


「帰りましょうか」


「そうね」


 二人は大きな疑問を抱えたまま帰宅の途についた。

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