第5話

翌日、日本の経営史の講義があったはずだ。全回生に開講しているから、200近くの人がいる。まだ序盤だからだろう。そのうち100を下回りはじめる。こういう講義の特徴である。

担当はゼミの教授である。顔がむくれていたから、あの程度の酒量でも顔に現れるとは可哀想だ。

今朝の日経新聞記事から女工哀史や野麦峠を引き合いにだして、私たちが歴史を知るべき理由をといた。そして最後に一言だけいった。

「私は、毎年このような話をしています。話題は、必ず見つけることができます」

かくして。サラリーマンは仕事が手につかなくなると、昔のことを思い出して嫌になる習性がある。私だけかもしれないが。もう少し、生き方に工夫があっても良かったのではないかと。全社に向けた広報ポスターでは同い年くらいの女の子たちが笑顔でとられていた。

今でも網島が元気にしていると嬉しい。短編どころか、メールも絶えて久しいのだ。 彼女も仕事を得たはずだ。

どこかで彼女が見出だされたのならば、それがよかったのかもしれない。


それならば。


それならば、まるで将来が私たちから先もって失われているようではないか。

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青い黄昏 古新野 ま~ち @obakabanashi

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