10話:始まりの終わり
「あー、クソ。痛ってぇー。何もそんなに強く蹴らなくても良くねーかー? 痛てててて……」
そう言ってぎこちない歩き方でゆっくり歩いているのは全身を赤で統一させた少年、ゴウだ。つい先程病院内で龍翔の怒りの一撃を無防備に食らったゴウは先を行く三人よりもかなり歩くペースが遅い。
「早くしろってー、日ぃ暮れるぞー?」
「誰のせいだよ……って、っ
歩きの遅いゴウを前で左手で大きく手招きをして急かすのは龍翔だ。そしてその横を歩くのが、龍翔の右手と手を繋いで歩く晟だ。二人の距離は、昨日と今日でかなり縮まっている。理由は、お互いの伝えていなかった気持ちをしっかり伝えられたことが大きい。
この点に関しては、龍翔も晟もゴウに感謝をしている。そのため制裁は一発で終わらせたが、完全に無防備だったゴウにはその一発がかなり効いたらしい。たしかに、さっきの蹴りは今までで聞いたことも無い程大きい音だった。
しかし、さっきから中高生みたいなやり取りばかりしている二人が本当に四天王と呼ばれるほどの存在なのか晟は少し疑っている。
しかし、良くも悪くも、接しやすい二人は四天王だと言うことが分かってもかなり親近感が湧く。
そんな事を思いながら歩いていると龍翔の家に着く。体感時間にして、30分程は歩いただろうか。
先ずは早く身支度を整えて異世界に行く。それが第一目標である為に、四人全員で準備に取り掛かる。
「おいリゥー! これなんだー?」
「あぁ、卓球台な。おまえが昨日焼き焦がした体育館にもあっただろ。その台で球を打ち合うスポーツがあるんだよ」
どうやら卓球というスポーツは異世界にないらしい。新しいおもちゃを見る少年のように目を輝かせているゴウに龍翔と晟は顔を見合わせてクスクスと笑う。
「へぇ! 楽しそうだな! よし、持って帰るか! クロ、頼むわ!」
「分かりました」
そういうとクロはステッキを構えて卓球台に翳す。すると卓球台は光の粒となり消える。
「え、何したの?」
目前の光景に晟は目を丸くする。
「卓球台を原子のレベルまで分解させたんだよ。大きいと運びずらいからな」
サラッと説明する龍翔に対し、改めて異世界の凄さを痛感する。と言っても半分ほどは理解出来ていないが、とりあえず凄いということだけは理解した。
「よし、しっかり書き置きも出来たし、あとはそーだな……んー、あんまり持って行きたいってものもないし、俺のものは大体残ってるだろ? ゴウが目を引くようなもんがなければもう次行くけどどうだ?」
「そーだな。さっきのタッキューってやつ以外は大丈夫そうだな。あとはお前らがさっきから持ってるその四角い平べったいやつが気になる」
「ん? あぁ、スマホのことか。これは向こうにも持っていくから後で複製してもらえばいいっしょ」
「ん、それなら大丈夫だ!」
珍しいものには目を光らせて食いつくゴウも、流石にもうそろそろ帰りたいのか早めに受け入れる。
「ーーさようなら、今までありがとう」
今まで過ごしてきた家に別れと感謝の言葉を伝え次は晟の家へ向かう。
「ふぅー、ここが晟ん家かー。何気に来るの初めてやなー」
「たしかにね。俺が龍翔くんの家に行ったことは何回もあったけど、俺ん家には来たこと無かったよねー」
「せやなー」
晟は龍翔の家に上がったことがあるため、そこまでの躊躇いがなかった。
しかし、初めてで龍翔が躊躇するかと言えば、それは違う。それどころか、初めての興奮でテンションは上がっているくらいだ。
「とりま始めるか! おっ邪魔しまーす」
と言って準備を始める。とはいえ大体のものは向こうでも調達できるため、あまり持っていくものは無いが晟が大切にしていたものや、ゴウが目を輝かせるようなものがあるかもしれないので一応一通りチェックする。
「晟の部屋発見! 突入ー!!」
「あ、ちょっとー!」
テンションの上がっている龍翔は、晟の部屋を見つけると勢いよく扉を開ける。そんな龍翔を見て晟もすぐに後を追う。
「はぁー! 片付いてるー!」
「そう? 普通だよー」
テンション上がりまくりの龍翔に対し晟は至って冷静だ。
「おっ! ベッド! っとー!」
「あ、ちょっとー! 寝てないで手伝ってよー」
ベッドに飛び込みゴロゴロとしている龍翔を見て晟は少し口をとがらせながらも笑っている。
「あ、これ晟の服ー? けっこーあんねー。全部持っていくかー!」
「え、服くらい少しだけ持って行って向こうで買えたりしない?」
「買えるけどー、晟に似合う服があるか分からないしー……ほら、この寝間着とかめっさ似合ってるじゃん! かーわいー!」
「なんかからかってない!?」
「そんなことないってー。可愛いと思うぞー?」
テンションが上がって若干いじってるようにも聞こえるが、龍翔的には一応本心だ。本心と一緒に我儘でもあるが、これだけテンションの上がってる龍翔を見るのも久しぶりなので服は全部持っていくことにした。
そして両親や友達への手紙を書き終え、晟と龍翔は大体の準備が整うと他の部屋を物色していた二人と合流する。
「今までありがとう! バイバイ!」
そう言って晟も家に感謝と別れの言葉を告げて家をあとにする。
「よし、それじゃあ準備も整ったし、異世界に向けて出発だな。ーー晟、寂しくないか? 本当に一緒に来ていいのか?」
「うん、大丈夫! ちゃんと手紙は書いたし、龍翔くんもいるから!」
「そうか。でも辛くなったら言えよ。どうしてもってなら戻してあげることもできるから」
「ありがと!」
そんな最後の確認をする二人に、クロがゆっくりと近づく。
「あの、提案があるのですが、もし宜しければこの世界の時間をずっと止めておくという手もありますよ? そうすれば戻ってきたい時に戻ってきて時間を動かせば二人はいつも通りに接してもらえるはずです。まぁ、その場合体を元の状態に戻すので少し手間もありますが」
「おまえ、そんなことできたのか?」
「はい、一応時を司る天使なので。まぁ少し時間もかかりますが、お二人さえよろしければそのようなことも可能です」
思いがけないクロの提案に、二人は驚愕する。そして顔を合わせて頷き合い、クロの方を見る。
「それは有難いけど、さっきの通り俺も晟も異世界で生きると決めた。初めからこっちの世界に戻ってくること前提じゃ、なにか心残りみたいになって思い切り楽しむことが出来ないかもしれない。だからこっちの世界に戻るのは最終手段だし、辛くなるのも最初の内だけだ。数ヶ月なら戻っても何とかなるし、大丈夫だ。ありがとうな」
「そうですか。いえ、お二人がそう決心されてるのであれば問題ありません。最悪の場合、時間と一緒に記憶をも巻き戻すことも可能ですしね。使わなくて済むくらいに楽しんでもらえるのが一番ですが」
「そうだな。俺もその力を使わなくて済むように、晟と全力で楽しむさ。な、晟!」
「うん!」
クロの提案にしっかりとした決意を露わにして、異世界を楽しむことを決意した二人は万遍の笑みで向かい合う。
「そンじゃー、話も纏まったみたいだし、そろそろ行くぞー?」
「おう!」
「うん!」
そうして新しい新生活が始まる。
前世が四天王だった俺は、今世も四天王に舞い戻る 羅弾怖我 @radanfuwa
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