9話:新生活に向けて

「ーーいいよ。俺、龍翔くんと一緒に行く」


「いい、のか?」


 晟の同行表明に龍翔は目を丸くする。

 ゴウの提案にも驚いたが、晟の了承にはもっと驚く。それはクロも同様で、驚いていないのは提案したゴウだけだ。まるでこうなるのを分かっていたように、龍翔を見てニカッと笑ってみせる。


「だって、ゴウさんの言ってることは合ってるから。龍翔くんが俺と一緒にいたいって言ってくれてるみたいに、俺も龍翔くんと一緒にいたい。それでも龍翔くんが異世界に行かないといけないなら俺も行く。行っていいなら、俺も行きたい!」


「晟……」


「なら、これで決まりやな! リゥはアッキーラと一緒に異世界戻り決定だ!」


 晟の堂々とした言葉に気を良くしたのか、ゴウは晟と肩を組み一気に距離を縮める。少し戸惑った様子で晟は苦笑いをするが気付いていない。


「けどよ、ゴウ。晟が付いてきてくれるんなら俺は文句はねーけど、今すぐどうこうってのは無理じゃねーかな。ここは一応病院だし、外に出る時に見つかったら面倒だし、俺も晟も親がいる。親にはそんなの説明できないし、四天王とか天使とかがいるなんて知られたらそれこそ一大事だ。どうするんだよ?」


「確かに……」


「おまえ、それ本気で言ってンの? 10数年もこっちにいたからこっちの世界の常識が頭にくっついた的な? アッキーラは分かるけど、おまえまでそンな感じかよー」


 真面目な話をしているつもりの龍翔と晟にゴウは余裕な表情だ。本気で分からないような顔をしている龍翔に、嘆息してからクロを指さす。


「何の為に、クロが来たと思ってン?」


「まさか……そうか、そういうことかよ。なーる。理解理解」


 そう言って全てを理解した様子の龍翔に、まだ理解出来ていない晟は疑問の眼差しを向ける。

 そんな晟を見て龍翔が説明を始める。


「つまりだな、晟。今まであんまり気にしてなかったけど、この病院静かすぎないか?」


「ーー確かに、静かすぎる」


 龍翔の問いかけに晟は耳をすませる。


「それに、今日俺が目を覚ましてから俺らはここにいるゴウとクロ以外に誰とも会ってない。それに、時計見てみ?」


 そう言って病室に置いてある時計を見る。

 するとーー


「動いて、ない?」


「そう、俺ら以外の人の動いている気配がないのと、動かない時計。つまり?」


「時間が止まってる?」


「ピンポンピンポーン!」


 龍翔の問いかけに晟が答えると、そのやり取りを楽しげに眺めていたゴウが正解の合図を出す。


「でーも、少し違うな。正確には、俺ら以外の時間が止まってる。俺らの中で進む時間は体感時間だけだけどな。今止まっている人の前に出ても、その人に気づかれることは無い。異世界の話をこの世界で生きていく人間に聞かれるのはまずいからな。だから、この世界で動いていられるのは俺ら四人だけだ」


「なら、晟の時間を止めてないってことは元々俺ら二人を連れ帰るつもりだったのか?」


 初めから晟も異世界に連れていく予定だったような口ぶりのゴウに、龍翔は疑問をぶつける。


「勿論、そのつもりだったな。この計画は少し前から作られてたものだ。リゥを連れ帰る時に、一人くらいは支えになる人物が欲しいだろうっていう考えでな。それで少し様子を見て、そこのアッキーラを選んだ」


「なら、クロが晟を拒んだ理由は?最初から二人で来いって言えば、おまえが来るような事態にはならなかっただろ?」


「だー、かー、らー! これは計画なんだってば! 最初からそんな話をしたら変に強制力が高まるだろ? アッキーラを連れていった方がいいかもってのはあくまでも俺らの考えで、大事なのは二人の気持ちだ。その気になれば二人を無理矢理に異世界に連れ帰ることだってできる。でも、俺らの思い違いで実はそこまで仲良くなかったとかじゃ困ンだろ? だから試したのさ! 二人の信頼を!」


「おまえ、もしかして……昨日の訳の分からない火災はおまえらの仕業か?」


 二人を試したとの発言に、どこからどこまでが試しなのかが分からない龍翔は昨日の火災を疑う。

 そしてその答えはーー


「勿論、俺らの仕業だ。発火も、教師とお前らを分断する木も、アッキーラだけを体育館に閉じ込めたのもな。因みに消防隊とかが来なかったのはあの学校以外の時間をクロに止めてもらったからだ」


 そんなゴウの言葉に、龍翔と晟は呆気に取られる。


「ーーゴウ、ちょっと俺の前に来て後ろ向け」


「ンー?」


 目の前に立てと言うような指示をした龍翔にゴウは素直に従う。


「歯、食いしばれよ」


「ン?って、ギャァァァァァーー!?」


 無音の世界に、少年ゴウの叫び声だけが響く。

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