第5話 残すものを選びましょう

 二日目は、屋敷に残す物の選定をした。


 不用品を処分した仕事場と寝室は、それだけで見違えるようだった。昨日の魔窟が嘘のようだ。


 清浄機能も復活し、窓を開けなくても空気が清浄化されるが、ブラーナはなんとなく部屋の窓を開けていく。

 窓から見える庭には昨日から業者が入り、みるみる整えられていく。


「庭が、喜んでる……」


 思わずそんな言葉が出て、ハッと口を抑えるブラーナに、ララは当たり前だというような様子で同意した。


「これで、もう誰も幽霊屋敷だなんて言いませんね」

「幽霊屋敷?」


 知らなかったのか、驚いたような顔でブラーナが言った。

 昨日は、古い屋敷にはいて当たり前なんて言っていたのに。


「幽霊が住むなら、妻たちが住んでたらよかったのにな」

 軽い口調でブラーナがそう言うので、ララはまじめな顔になってしまう。

「ダディ」

「ん? やっぱり変か?」

 幽霊でもいいから、一緒に住んでほしいなんて。

 そう思って一人照れるブラーナに、ララはふるふると首を振る。


「あんなに汚くしてて、喜んで住む奥さんや娘なんていませんよ」

 現実を叩きつけられ、思わずブラーナはがっくりと肩を落とした。


『ルーカス、今日のお花よ。綺麗でしょ』


 またマリィの声が甦った。

 マリィは、綺麗なものや可愛いものが好きだった。いつも楽しそうに庭師と共に花を育て、メイドと共に家具を磨き、コックと一緒に料理もした。家中が彼女の欠片かけらであふれていた。


「綺麗にしたら、帰ってくるだろうか」


 亡くなった人間は帰っては来ない。

 分かってはいるが、ララが聞き上手なため、ついついおかしなことを口走ってしまう。


「私のせいですか?」

 ブラーナが、あまりにも情けない顔で文句を言うので、ララは我慢できず声をあげて笑ってしまった。


「では、髪とひげもきれいにします?」

「ああ、うーん」

「なんで悩むんですか」

「なんとなく、伸ばしっぱなしだったからな。ないと心もとないと言うか……」

「奥様はお髭が好きだったんですか?」

「……嫌ってた」


 ブラーナは、妻から髭を絶対に伸ばさないでね、と言われたことを思い出し、あわてて洗面所に走る。

「急にどうしたんですか?」

「わからん! わからんが、今妙に妻が近くにいるような気がする。彼女は俺がひげを伸ばすのが嫌いだったんだ」

「まあ……。っ! ダディ、今から理容師さん、呼びますか?」


 久々のカミソリで頬を少し切ったブラーナに、ララは尋ねた。

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