鉢男

安良巻祐介

 

 事故によって義手ならぬ義頭を使い始めたN多さんは、充填剤の代わりに誤ってその中にガーデニングの土を詰めたまま3年間も暮らしていたことが春先に判明し、昏倒したところで病院へ搬送されたが、半日後に死亡が確認された。

 生物学的には土に置き換わった時期にもう生命活動は終わっていたのだが、本人がそれを認識しなかったために、意識の幽霊とでも言うべきものが脳の電気信号の代わりに肢体を動かして、日常生活を送っているような錯覚を本人に起こさせていたらしい。

 ちなみに、ぐるりの円周を描いた義頭の縁の底に覗く土からは、発見時すでに小さな分類不能の青い芽が出ていて、葬儀の出るまでに真っ白い奇妙な花を咲かせた。それは膝を抱えて座り込んで呆然とどこかを見ている男の姿によく似ていた。

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鉢男 安良巻祐介 @aramaki88

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