第24話 「10時間30分後」


「気になっていたんですが、宮井さんが転生した種族って、政府が出した小冊子に載っていませんよね? それと、自信が有る様でしたが、それほどに強いのですか?」


 山本氏の質問は、少なくとも彼が『「召喚」されてしまった時に注意すべき10項目』を読んだ事を示していた。


「うん、載っていなかったな。それと世間に流れている情報にも出ていなかったと思う。そしてこのサイズからは考えられない位に強いね」

「それほどですか・・・・・ もし、そんな強い種族なら有名になっている筈です。少なくとも僕が知らないと言う事は確かにネットにも情報が出ていないと考えても良いと思います」

「詳しいの?」

「世間よりは・・・ まあ、オタクゆえさがと言う奴です」

「まあ、こちらの世界に詳しい人間が居ると助かるので、素直にありがたい。それで、皆さんに確認しますが、政府が発行してる『「召喚」されてしまった時に注意すべき10項目』を全て読んだ人は居ますか?」


 山本氏だけが手を挙げる結果になった。


「私は子供たちにプリントを配布する時に指導要綱を読みましたが、それほど詳しくは無かったですね。もし宜しければ、簡単に教えて貰って良いですか?」


 佐藤先生が提案をして来た。

 事前の予定でも小冊子の内容を説明する積りだったから、渡りに船と言える。


「そうですね。最初の項目は『周りに危険が無いかを確認しましょう』です。『被災者』がいきなり食べられた事例が有ったそうです。ですから、真っ先にこの項目が出て来ます」


 みんなはポメラニアン顔に鷹頭なので、人間の時よりは表情は分かり難いが、息を飲んだ気配は分かった。


「次が『周りに召喚された人が居ないかを確認しましょう』です。1人よりは2人で一緒に居た方が、2人よりも3人で居た方が精神的に安定するからと言われていますし、その通りでしょう。3番目が『集合出来れば、助け合いましょう』です。集団行動をする事で理性を取り戻す狙いが有ると思います。日本人は本能と言って良いくらいに集団行動が得意ですからね。また、集団が大きくなれば外敵から襲われる可能性が減ると言うのも考慮に入れていると思います。ほら、魚が集団を作るみたいなもんだと思えば分かり易いでしょう」


 みんなが「ああ」とか「なるほど」と呟いた。

 実際には効果は分からない。少しでも生存の可能性を上げたい為に書かれたとも思えるし、ただの気休めという可能性も否定出来ない。


「4つめが『自分の能力を確認しましょう』です。例えば、襲って来る外敵に対抗出来る手段を持っていても、知らなければ使えずに危機に陥ります。例えば、先生と黒田さんは空を飛べるという特技を持っています。それだけでも大きなアドバンテージです。他の皆さんは身体能力が高い種族です。ただ、空を飛ぶのと同じ様に能力を使いこなす必要が有ります。山本さんは使いこなせそう?」


 山本氏が首を横に振った。


「ずっと試していますが、残念ながら糸口も掴めません。小冊子には残念ながらどうすれば良いかを書いていなかったんですよね。ネットでも読んだ記憶が無いですし。まあ、少なくとも元の身体よりも力も運動神経も上と言う事は分かりましたけど・・・」


 敢えて口にしなかったが、多分、俺や娘たちは恵まれている。

 猫もどきは本能が前面に強く出て来る種族なのだろう。

 だから、能力を掘り起こす事が割と簡単に出来た。

 沙倶羅ちゃんのドラゴンもどきも同じだと思う。


「上手く伝わるか分かりませんが、見本を見せましょう。今は通常状態です。この状態で1度触って下さい」


 そう言って、みんなに腕を触れて貰った。

 この状態の時は腕の毛も大人しい。

 俗に言う『モフれる』毛だ。


「合っているかは分かりませんが、実感としては肉体が一種の興奮状態になる感じでしょうか? アドレナリンが出まくって、通常では考えられない力を発揮する感じですね」


 何度も使った能力なので、すぐに発動した。


「どうぞ触って下さい。先ほどとは毛の様子が違っている事が分かる筈です」


 みんなも触った瞬間に違いが分かった様だ。


「先ほどとは硬さが全く違うと思いますし、触ったところに静電気を帯びた層が有る事に気付きましたか?」

「静電気と言うよりも、そうですね・・・ オーラ? 生体エネルギー? 何かそういう『力』というものを感じました」


 山本氏は能力の存在を知っていて、自分でも発動しようと努力していた為に感じたのだろう。


「そこまで感じたのなら、もうほとんどの壁を越えているよ。あとちょっとで能力を使える様になる筈です」

「宮井さんに太鼓判を押して貰えるなら自信が持てます。明日中には使える様になりますかね?」

「大丈夫でしょう」


 山本氏がポメラニアン顔で笑顔を浮かべた。

 意外と笑ったと分かるものだな。

 他のみんなに視線を移すと、自分の腕を触ったり、さすったりしていた。


「さっき、山本さんが言っていた生体エネルギーと言うのは言い得て妙です。イメージとしては、人間は力を込めると筋肉が太くなって固くなりますよね。この能力は力の代わりに生体エネルギーを込める感じです。そうすると、普通の状態の数倍の力と強度が発揮出来る様になります。分かり易く言うとスーパーサイ●人になれます」


 ぶっちゃけた・・・

 なんせ国民的マンガだから知名度は高いし、一番分かり易い例えだし・・・

 分かってくれるよな?


「スーパーサイ●人ですか? 強そうですね」


 そう呟いたのは村田郁子さんだった。

 息子のあらた君とは姉と弟という感じの仲良し親子だ。

 感性も近いのだろう。ドラゴンボー●を読んだ事が絶対に有る筈だ。


「村田さん、強そうでは無く本当に強いですよ。ただ、何か武器となるものが有った方が良いとは思います。素手でも強いのですが、ボクシングや空手なんかの格闘技を習っていない限り、攻撃しても当たらないでしょう。木の棒の先を削って作った槍でも良いので、明日時間が有れば材料の木の棒を探しておいた方が良いでしょう」

「はい」


 ここは、格闘技を身に付けていない素人が身体能力だけ生き残れる様な世界では無い。

 取敢えず、先を急ごう。


「5つ目が『自衛手段を確保しましょう』です。例えば、たまたま傘を持っていたら、それはもう武器です。身を潜められる場所を確保する事も有りでしょう。能力を使いこなす事もそうです。自衛が出来る様になれば余裕が生まれます。だから6番目にやっと『食料を確保しましょう』が出て来ます」


 ニヤリという感じで笑顔を浮かべて、わざと間を開けた。


「これに関しては今日は満点でしょう。たらふく食べましたからね」


 場の空気が少し軽くなった。


「後は食べられる植物の確保を追加すれば、しばらくは大丈夫でしょう」


 これに関しては微妙に種族ごとの差が有るので、ちょっと気を配る必要が有る。


「次からが難しくなります」


 みんなが俺を食い入るように見つめている。


「7番目が『移動圏内に接触可能な知的生命体が存在するか確認しましょう』です」



 ここからの話の行方によって、俺たちの今後が決まる。


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第3次召喚大災害 mrtk @mrtk

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