夜歩き地蔵さん

水木レナ

こんにちは! 私、夜歩き地蔵!!

 ハローディア……みなさん、初めまして!

 っていうのも何か変だわね……それというのも、私、何世紀も前から、那須烏山では「夜歩き地蔵」って有名だったの!!

 今も昔も、人間ってかわいいわね!!!


 え? 私を知らない?? じゃあ、語っちゃうか!!!


 昔々のその昔、私は大沢おおさわ大杉おおすぎ神社っていうところの道端に立ってたのよ。

 朝になると、いろんな恰好をした人々が通ってね。

 子供たちは野に咲く花をくれたり、話好きのおばあさんが長いお祈りをしてったり、したのよね。


 昼間もやっぱり人通りが多くて、私はニコニコしながら、それを眺めたものだったわ。

 だけど、夜になるとつまらなくってね。

 だあれも話をしてくれないの。


 それで私は思い立って、近くの弁天さんを訪ねることにした。

 その日に見たこと、聞いたことを、面白おかしくおしゃべりして……明け方近くにはまたもとの道端に戻って。

 そんなことを繰り返したわ。


 ところがある夜のこと。

 風も吹かない静かな通りを、いつものように重たい足を引きずって歩いてた私……。

 一人のお侍さんを見つけたの。


 私、うれしくなっちゃってね。

 だっておしゃべりできると思って、両手をあげてゆっくりと近づいていった。

 そうしたら……。


 私の足音にびっくりしたのか、そのお侍さんの背中がびりっと緊張して、かすかにこちらを見た。

「うぬう!」

 と言って近づいてきたから、いよいようれしくて、私は目をピカピカさせながら飛びつかんばかりに喜んだ。


 しかし……繊細だったのね、そのひと。

 びりびり毛を逆立ててる猫みたいに身を低くし、素早い動きで光る刀でもって切り付けてきた。

 あれっ!?!


 あっちゃー、と思ったわよ、私も。

 だって、わたしは石仏。

 何でも刀で切れると思ったら大間違いよ。


 カチン!!!

 音とともにお侍さん、ばったり気絶してしまった。

 あらまあ、と思ったけれどね。


 今でも可哀想だったと思うわ。

 腕が痛かったでしょうに。

 下手をしたら一生使い物にならなくなっていたかもしれない。


 そのまま朝になって、畑仕事に急ごうって村人が見つけてくれなきゃ、風邪ひいちゃってたかもなあ。

「このお侍さん、なんでこんな所に寝てるんだべ」

 私はひやっとしながら、そばに突っ立ってた。


 村人は彼の耳元で大きな声でどなってね。

「お侍さん、お侍さん」

 って言ったら、彼、目を醒まして……静かに立ち上がったわ。


 そこは立派なものだった。

 腕をさすって、刃のかけちゃった刀を拾ってね、私の背中を見た。

「あんれまあ! お地蔵さんに刀傷が!! だれの仕業だべ!?!」


 村人がそう、声をあげたもんだから、彼、気にしちゃって。

 何かぶつぶつ言いながら、きまり悪げにどこかへ行っちゃったの。

 お気の毒。


 でもでも、いいこともあったのよ?

 村の人たちがね、私が寂しくないようにって、弁天さんの近くに新しいほこらを建ててくれたの!!

 私のためによ!?!


 うれしかったわー!

 これで弁天さんと仲良くできるって!!

 それから毎晩、女子トークよ!!!


 あ、そうそ。

 今も後ろにまわって見てもらえばわかると思うんだけど……私の背中の刀傷はそのときのもの。

 そうして私は「夜歩き地蔵」って呼ばれるようになったんだわ。


 了

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夜歩き地蔵さん 水木レナ @rena-rena

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