勇者のパーティを追放されたので、俺は魔王になって悪役令嬢や詐欺牧師、天才盗賊をスカウトして最恐パーティを組んでみた

桜草 野和

短編小説

 俺の名前は『フーワ』。道具屋の長男で、自分で言うのもなんだが、俺はいい奴だった。





 片田舎の村『ドラファ』の100年に一度のビンゴ大会で優勝し、景品として『入れ替わりのスキル』を手に入れた。





 俺は村人たち全員で面倒を見ていた、ボケてしまった大賢者『ジンテ』様と入れ替わることにした。





 おじいちゃんになることは嫌だったが、人助けのためだ。勇者が魔王を倒して、世界が平和になったら、また元の自分に戻ればいい。





 大賢者ジンテとなった俺は世界中を放浪して、類稀なる知識と魔法の力で、困っている人たちを助けた。





 そして、鉄鋼業が盛んな地方都市『アイケーベ』が、魔王軍に襲われている時に、勇者のパーティと出会った。





 鉄製の武器や防具を奪いに来た300体くらいの魔王軍から、勇者『リク』たちが必死に街を守っていた。


 街の人たちも、溶かした熱い鉄を流して、応戦している。





 正義感の強さが顔に出ている勇者『リク』のパーティには、女にも見えるほどの容姿端麗な剣士『タキーオ』、かわいい顔からは想像できないほどの怪力娘『ムーア』、戦闘中も隙さえあれば本を読みだす読書家の女魔法使い『シオン』がいた。





 皆、次々と魔王軍のモンスターを倒して、街に侵入させないでいた。





 俺も魔法を駆使して、魔王軍から街を守るために協力した。シオンは本来、回復系の魔法を得意としていたので、俺の援護を確認すると、皆のダメージを回復する役目に集中した。





 勇者リクは特に強かった。


 金色に輝く勇者の剣を振るって、魔王軍のモンスターを次々と倒していた。





 8時間ほどの激闘の末、魔王軍は全滅した。勇者リクは、モンスターを1体も逃しはしなかった。深傷のモンスターにも容赦なく、トドメを刺した。





「仲間になれよ」





 俺は今回の戦闘での活躍が認められ、勇者リクに仲間に誘われた。魔王討伐の途中で、この地方都市『アイケーベ』に立ち寄ったところ、魔王軍に遭遇したそうだった。





 片田舎の村の『ドラファ』から、勇者のパーティに選ばれる者が出るなんて、初めてのことだろう。


 光栄なことだ。俺はリクの誘いを快諾した。





 それからは、勇者のパーティとして、魔王討伐の旅に参加した。








 3年後ーー





「ジンテ、いやフーワ、お前はもう仲間ではない。俺のパーティから追放する」





 勇者リクは、突然俺をパーティから追放した。





 3年かけて魔王城まであと50kmほどの魔女の街『ユニサイエス』まで来たのに……。





 実は、この『ユニサイエス』の長であり、底なしの魔力を持った魔女の『チベリジョンヌ』が、俺が大賢者と入れ替わっていることを見抜き、勇者リクに教えたのだ。





 勇者である自分と、入れ替わられることを恐れたリクは、即座に俺をパーティから追放した。





 剣士タキーオ、格闘家ムーア、魔法使いダンは、リクの顔色を伺って、別れの言葉さえ言わない。





 ちなみに、魔法使いシオンは戦闘中にまた読書して、モンスターに大ケガを負わされた。


 俺が助けに行くには遠すぎた。





 シオンのすぐそばにいた勇者リクは、モンスターのリーダーを倒すことを優先し、シオンを見捨てた……。半年前のことだった。





 あの頃から俺は正直、勇者リクのことが苦手になっていた。とはいえ、勇者のパーティを辞めたりしたら、世界中の人々から非難を浴びまくることになる。





 リクのほうから、追放してくれて良かったと思った。








 俺は近くの村『キロメッシュ』で、リクたちが魔王を倒すのを待つことした。


 『キロメッシュ』は、貴重な魔法石を採掘するために、魔王城の近くで危険なのに、勇敢な者たちが暮らす村だった。





 しかし、『キロメッシュ』につくと、俺は村の中に入れてもらえなかった。


 それどころか、村人たちから、矢を放たれた。


 魔法で矢の先を、パンに変える。


 しまった。一つだけフランスパンにしてしまい、顔面に当たりまあまあ痛かった。





「臆病者はとっとと帰りやがれ!」





「勇者様から聞いたぞ、この卑怯者!」





 危険をかえりみず、魔法石を採掘していて、尊敬の念を抱いていた『キロメッシュ』の村人から罵声を浴びる。





 リクは、俺が魔王に恐れをなして逃げ出したと、デマを流していたのだ。


 とにかく“入れ替わりのスキル”を待つ俺を遠ざけたいようだ。








 俺は失意のまま生まれ故郷の『ドラファ』に帰った。





 何ということだ。片田舎の美しい村が破壊され、田畑も荒らされていた。





「フーワ、お前が勇者様のパーティから逃げ出したせいだ! もう、お前は息子でもなんでもない」





 俺は父さんに絶縁を告げられる。母さんや弟たちは、黙って泣いている。





 村の中央には、俺と入れ替わった『ジンテ』が檻に閉じ込められていた。


 全身アザだらけだった。かわいそうに……。





「ラドシュンテ!」





 俺は魔法で檻を壊すと、自分の元の体に戻る。





 痛いぞ。全身痛いぞ。それに何より、心が痛いぞ。俺が何をしたというのだ。絶対に許さないぞ、勇者リク!








 俺は『ドラファ』の村を立ち去ると、身体を引きずるように歩いて、モンスターが多く出現する『青霧の森』に入る。





 最初は、元気な身体が手に入ればそれでよかったので、スライムと入れ替わる。





 おおー、意外とスライムは速く動ける。





 スライムになった俺は、急いで魔法を使えるモンスターを探す。


 俺の元の身体の傷を早く治してやらないと、入れ替わったスライムがかわいそうだ。





 幸運なことに、すぐにスライムバーバと遭遇する。俺はすぐにスライムバーバと入れ替わると、自分の元の身体を見つけて魔法で傷を治す。





 元気になると、俺と入れ替わったスライムは、森の奥深くへと入って行く。


 この青霧の中、一度見失ったら、まず見つけられない。


 俺はやや動きが遅いスライムバーバから、カミナリカラスに入れ替わり、自分の元の身体を追いかけた。





 そして、俺と入れ替わったスライムが何かにぶつかって、尻もちをつく。


 青霧の中、キラリと眼光が光る。


 でかしたぞ! 俺と入れ替わったスライム!





 青霧が薄くなると、巨大なナイトドラゴンの姿が見えた。





 俺は攻撃される前に、ナイトドラゴンと入れ替わる。


 そして、スライムと入れ替わった元の自分の身体を傷つけないように爪で掴むと、魔王城を目指した。








 魔王城までひとっ飛びすると、散歩中のケルベロスと遭遇したので、入れ替わることにした。


 ケルベロスは魔王のペットにされていたので、このほうが魔王に近づきやすい。





 魔王城は無事だった。まだ、リクたちは来ていないようだ。





 俺は魔王城に侵入すると、あっさりと魔王の間までたどり着き、





「お帰り、ケロちゃーん!」





と油断しまくりの魔王と遂に対面する。





 魔王は、背丈は人間より少し大きいくらいで、角が生えているがなかなかのイケメンだった。





 俺は魔王が弱くなったほうが都合がいいので、いったん近くにいたスライムに入れ替わってから、魔王と入れ替わった。





 やったぞ! 遂に勇者リクと戦える魔王の身体を手に入れたぞ!





 スライム→スライムバーバ→カミナリカラス→ナイトドラゴン→ケルベロス→スライム→魔王。





 思っていたより早く魔王になれて良かった。





 俺はまず、大切に運んで来た元の身体を指差し、





「この魔王の間から出さずに守るのだ」





とペットのケルベロスに指示する。





「ウギョラァハミギワラバマーカワウ」





 聞いたこともない鳴き声で、ケルベロスが返事をする。多分、理解しているのだろう。親からさずかった大切な身体だ。食べないでくれよ。





 スライムと入れ替わった魔王が、「本物の魔王は俺だ」と伝えようと、ケルベロスの前でピョンピョン跳ねる。





 ケルベロスは火を吹いて、スライムを瞬殺する。


 本物の魔王は、たった今、ペットのケルベロスに倒された。








 よし! あとは勇者リクに復讐さえすれば、めでたしめでたしだ。





 俺は魔王城でじっと待つことなどできず、勇者リクを探しに行く。








 しばらく空を飛んでいると、遠くの街で、美しい娘がギロチン台で処刑されようとしているのが見えた。魔王はかなり視力がいいようだ。あの方角の街は、確か貿易で富を築いたボッテリーノ王国の首都『ララムー』だな。








 その美しき娘は悲鳴を上げなかった。


 かなりの距離があったが、余裕で間に合った。


 危うく通り過ぎて、隣街まで行ってしまうところだった。


 さすが、魔王の身体能力だ。素晴らしすぎる。





「ま、魔王だ! 皆の者かかれー!」





 騎士団が戦いを挑んでくるが、剣を軽く振るうだけで吹き飛んで行く。





 魔王のあまりの強さに、馬車の下に隠れていた騎士が、慌てて逃げて行く。





 俺は美しき娘をギロチン台から助け出してやる。





「助けてなんて言ってないから、お礼は言わないわよ。それにしても、ダサっ。今、逃げて行ったのが、私の元婚約者で騎士団長子息のデリーよ」





 なるほど、そういうことか。





「あんな奴に婚約破棄されて私はやっぱり運を持っているわ。結婚しようとして、いろいろ卑怯な手を使った時間がもったいないけどね。あんな奴、あの小娘にあげてやるわよ。オホホホッ。オホホホッ」





 田舎育ちの俺でも知っている。実物に会うのは初めてだ。この美しき娘は悪役令嬢だ。





「私の名前は、エミリ。あなたは魔王ね。で、どうするの? なぜ魔王が私を助けたの? 奴隷にでもする気? そんなの絶対にごめんだわ」





「理由はないよ。助けたかった。ただそれだけさ」





「変な魔王だこと。あれっ、私の首飾りはどこ? あの小娘から奪い取ったお気に入りの首飾り。胸の谷間に隠していたのに……」





 ああ、それなら、ギロチンが落ちる時に、目を瞑った隙を狙われて、盗賊にとられたのだ。俺にははっきり見えていた。





 そんなに大切な物なら、取り返してやるか。





 俺はとっくに、街から抜け出していた盗賊を捕まえると、また悪役令嬢のエミリの元に戻る。





「チェッ。ずっと狙っていたのに」





 まだ15歳くらいの少年の盗賊が、首飾りをエミリに返す。





「痛っ!」





 エミリは首飾りを受け取ると、少年をビンタした。





「ちゃんと返したのに何をするんだよ!」





 まあ、確かにちゃんと返せば許される話でもない。





 それにしても、あの早業。この少年は只者ではない。今も魔王の剣を盗もうと隙を伺っている。





「少年、名はなんと申す」





「魔王が人間の名前に興味あるのか? 変な魔王だなー。俺の名前は、そうだな、ケロちゃんと呼んでくれ」





 絶対、偽名だな。しかも、ケロちゃんって、魔王がペットのケロベロスを呼ぶ時と、同じではないか。さてはこの少年、魔王城に侵入しているな。





 バーン! バーン!





 突如、銃声が鳴り響く。





 エミリが騎士団の銃をとって、発砲していた。





 狙われたのは牧師で、見事に心臓部と頭部を撃ち抜かれている。エミリの銃の腕前はかなりのものだった。邪魔者たちをいったい何人狙撃してきたのだろうか。





「やっぱり。私を処刑する前に、聖水をかけたとき、この牧師変だと思っていたのよ」





 エミリは嗅覚も一流だ。





 撃たれた牧師からは、血が出ていない。





 グニュグニュとまた元の牧師に戻る。こいつは、変身スライムだな。





「牧師、いい仕事。スライムなんか、やってらんない」





「俺だったら王様に変身するけどねー」





 ケロちゃんが言うと、





「王様、いろんな人に会うの面倒。牧師、ちょうどいい。それからおれっちの名前は、キッシーにしとく」





と変身スライムのキッシーが答える。また偽名だ。





「よしっ、お前ら皆、俺の仲間になれ!」





「アハハハッ」





「ククククッ」





「スラスラスラッ」





 悪役令嬢のエミリと、天才盗賊のケロちゃんと、詐欺牧師のキッシーが一斉に笑う。





「何がおかしい?」





「だって、魔王が“仲間”になれって変ですわ」





「そうそう。魔王なら、手下になれとか、しもべになれとか、そんな感じでしょ。普通は」





「魔王、仲間、ほしい。愉快、愉快」





 しょうがないじゃないか。仲間にしたいのだから。





「で、何をしたらいいのかしら?」





「早く指示してくれよ、リーダー」





「魔王の指示、ワクスラ。ワクスラ」





 ワクスラって、ワクワクのことか? まあ、そんなことより、3人は仲間になってくれたようだ。頼みたいことがある。





「野郎ども! 国王を始末するぞ!」





 俺がそう言うなり、エミリは500mほど先にある城に向かって銃を撃ちまくる。





 見張りの兵隊たちが倒れるのが見えた。さすがの腕前だ。





 ケロちゃんの姿はもうない。





 エミリは、キッシーを盾に使いながら、兵隊や騎士団を見つけると、狙撃しながら城に向かう。百発百中だ。





 キッシーは何発も銃弾を浴びたが、ダメージはない。





 俺も建物を破壊しながら、城に向かう。





 城に着くと、門の前でケロちゃんが待っていた。衛兵が倒されている。格闘センスもあるようだ。





「城のすべての部屋の鍵、開けておいたよ。あと、兵隊たちの銃から弾も抜いておいた。まあ、魔王にはそんな必要なかったかもしれないけど」





「宝は盗まなかったのか?」





「バカだな。盗んでとっくにアジトに隠して来たに決まっているだろ」





「殺すぞ」





 バカと言われて、思わず言ってしまう。俺は心も魔王になってきているのか?





「仲間は、殺しちゃいけない。もっというと、俺は殺しはしない。盗賊にだって誇りはある」





「くだらない」





 そう言うエミリも、撃った相手の急所は外している。





「た、助けて……」





 撃たれた衛兵が、エミリの足を掴む。靴に血がつく。





 バン! バン! バン!





 急所は外すが、エミリは怪我人だろうがかまわず撃ちまくる。清々しいくらいに。








「な、何をする。ワシが誰だかわかっているのか」





 ケロちゃんが、国王を中庭に連れてきた。





「逃げ出そうとしていたから連れて来た」





 ケロちゃんも、キッシーもいい仕事をしてくれる。





「あら大変。かなりいい男の匂いがしますわ。それも2人も……」





 やはり、エミリの嗅覚は鋭い。





 近くにいたのか、勇者リクのパーティが姿を現した。


 剣士タキーオ、格闘家ムーア、魔法使いダンも健在だった。





 やっと来たか、勇者リクめ!





 首都を襲えば出てくると思っていたぞ。





 勇者リクはまさか俺が、魔王と入れ替わっているとは夢にも思っていないだろう。





 俺はいったん、エミリに何発も撃たれて瀕死の衛兵と入れ替わる。





 そして、リクと入れ替わり、タキーオ、ムーア、ダンを金色に輝く勇者の剣で切った。





 さらに、俺はケロちゃんが連れて来た王様に歩み寄る。





「や、やめろーー」





 衛兵の身体に入れ替わっているリクが力無く叫ぶ。





 誰がやめるものか。俺はケロちゃんが連れて来た王様の首をはねる。





 そして、リクの腹に勇者の剣を突き刺す。





 俺はまず瀕死の衛兵になっているリクと入れ替わり、勇者様の身体を返してやる。





 次に、あまりの出来事に、きっとんとしていて、自分が魔王と入れ替わっていると気づいていない衛兵と入れ替わり、魔王の身体に戻る。





 勇者のリクは魔法で傷を治すことができるが、もはや傷を治す気力を失なっている。





 この城にいる大勢の者に、あろうことか王様の首をはねたところを見られたのだ。





 勇者リクは、王様殺しの重罪犯だ。





 地に落ちた勇者だ。





 でも、待てよ。俺が与えられたスキルには、別の使い方もあったのか!





 俺はひとっ飛びすると、スライムを一匹捕まえて戻る。





 そして、スライムと入れ替わると、すぐに勇者リクと入れ替わる。





 スライムは魔王になり、国王殺しの勇者リクは、スライムになっている。





 俺はさらに、エミリに何発も撃たれた衛兵と入れ替わり、また魔王の身体に戻る。





 つまり、





 勇者リク→スライム


 瀕死の衛兵→勇者リク


 スライム→瀕死の衛兵





という具合に、入れ替えたのだ。俺のスキルは、他人も都合のいいように入れ替えることができる便利なものだったのだ。





 エミリに何発も撃たれてた衛兵に、勇者の身体を与えることにした。


 リクには憎しみしかないが、勇者の身体は使える。





 俺は魔法で、勇者リクの身体と、瀕死の衛兵の身体の傷を治癒する。





「よし、お前はこれから、国王殺しの勇者として生きるのだ。名前はなんという?」





「マルゴだけど、僕、嫌ですよ。国王殺しの勇者になるなんて」





 嫌、という選択肢はない。これからも、その勇者の身体を使って、悪事を重ねてもらう。どんどん勇者の名を汚すのだ。





 それがスライムになったリクにとって、何より辛いはず。


 ほら、やめろ、と言わんばかりに、俺に体当たりしてくる。





 俺は、殺さない程度に、スライムになったリクを遠くの彼方まで蹴飛ばした。





 せいぜいスライムとして長生きしろよ。そして、勇者の非道な行いを聞いて苦しむがいい。








「ほ、本当だ……。国王様が殺されている」





「こんなことが起こるなんて」





 国王が殺された話を聞いて、民が集まって来た。





 転がっている国王の首を見て、民は驚いている。





「……や、やったーー!」





「搾取ばかりの国王が死んだぞー!」





「勇者様ありがとう!」





 民から大歓声があがる!





 国王の首を切った勇者、今はマルゴが胴上げされている。





「さすが、勇者様! 国王の悪事を見抜いていたのですね!」





「当たり前だ! 僕は勇者だからね!」





 マルゴはすっかりその気になっている。





 国王の首は、民に踏み潰されている。さすがに、あれはかわいそうだし、バレてしまう。





 俺は国王の首を回収すると、国王の身体にくっつけてやる。





 国王に変身していたキッシーが、牧師の姿に戻る。血は、定番のトマトジュースとケチャップをいい割合でブレンドしたものだった。





「勇者、名声、手に入れたよ」





「まあ、今回は仕方ないさ」





 民が喜ぶ姿を見ているとジーンとする。さぞかし、圧政で苦しめられていたのだろう」





「魔王が泣いてどうするのよ」





 エミリは、ティアラ、首飾り、イヤリング、腕輪、指輪など、城から盗んで来た装飾品で全身をコーデしていた。





「ケロちゃんは一緒じゃなかったの? もう城内にはいなかったわよ」





「先に行ったのさ。俺たちが次に行く街の偵察にな」





 俺が命令したわけではない。ケロちゃんは、自らそうしていた。頼りになる天才盗賊だ。





「そろそろ行くわよ」





 エミリは胴上げされていたマルゴの髪を鷲掴みにすると、引きずって連れて来る。





「僕はいやだからね。魔王の仲間にはならないよ」





 そうごねるマルゴの耳元で、エミリが何かを囁く。





「ど、どうしてそのことを……」





「みんなに、言っちゃおうかしら。ほら、私って口が軽いから」





「わ、わかったよ。仲間になるよ」





「なるよ?」





「仲間になります。どうか仲間に入れてください」





「頭がまだ高いわね」





「この通りです。魔王様、僕を仲間に入れてください」





 勇者リクと入れ替わったマルゴが俺に土下座する。めちゃくちゃスカッとする光景だった。











 魔王の俺と、悪役令嬢のエミリと、牧師に化けている変身スライムのキッシーと、急遽勇者になったマルゴと、馬車に乗って街道を進む。





 もちろん、馬車を走らせるのはマルゴの役目だ。





 遠くのほうから、天才盗賊のケロちゃんが走って向かって来るのが見える。何か情報を掴んだのだろう。





 この5人のパーティで、世界中を旅するのだ。





 目的はない。





 今回のボッテリーノ王国の民のように、偶然助けることがあるかもしれないが、そういった人助けに縛られない旅をしようと思う。





 せっかく、頭の固くないおもしろい仲間が集まったのだから。





「ねえ、そう言えば、本物の国王はどうしたのよ?」





「それ、おれっちも、忘れていた」





 こいつら、悲鳴慣れしていやがる。


 マルゴは、マジで? という顔をしている。





「お仕置きとして、ずっと馬車で引きずっているだろうが!」





 俺が教えてやるが、





「あっそう」





「やっぱり、興味ない」





 エミリとキッシーには、馬車で引きずられている国王の悲鳴が聞こえていないようだ。





 本物の仲間と楽しい冒険になりそうだ! ワクスラするっ‼︎(流行らせるつもりはないが、密かに気に入っている。)





 俺たちは今、使命や正義を無視して、ただひたすらにワクスラしているっ‼︎

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勇者のパーティを追放されたので、俺は魔王になって悪役令嬢や詐欺牧師、天才盗賊をスカウトして最恐パーティを組んでみた 桜草 野和 @sakurasounowa

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