秋風が吹く頃に

夏風風鈴

秋風宅急便

 秋の夕暮れは街全体を茜色の世界へと転ずる。コンクリートでできた高層ビルも、木造建築の古寂びた家さえも同色に染め上げてしまう。

 空は夜の支度を始める。線香花火のごとく最後の儚さを我々に晒しだす。

 十年前のあの日、彼女の顔は世界に抗うかのように色を失った。


 それはまだ青臭さの残る中学生の頃だった。僕は君に恋をしていた。今、振り返ってみれば初恋だったのだろう。

 毎日僕は君に夢中になった。蒸し暑い日も、雨が地面を叩く日も、雪の降る寒い日も。

 最初は片思いだったけど、いつしか君は僕と向き合ってくれた。廊下ですれ違った時、必ず声をかけてくれた。僕がテストで良い点数を取った時、素直に褒めてくれた。


 そして十年前の今日、卓越風のように君は僕の元から去っていった。

「じゃあね」

 これが最後の言葉だった。僕は何も言い返すことができなかった。精彩を放つ黒い髪が僕の正面に向いた。その折に、一瞥した鮸膠も無い表情は今も脳の奥底にこびり付いて離れない。



 ポケットに入れていたせいか少し萎れてしまったタバコを一本取り出す。安っぽいライターの弱々しい火で着火する。ほろ苦い香りを肺にそっと閉じ込めた。

 タバコの煙が空へと消えていった。それに続くように季節を知らせる紅葉が秋風に乗って僕の足元へ舞い落ちた。

 この葉に一言メッセージを書いて秋風にのせたら、君の元へ届くのかな。

 十年間の想いを込めて。




「君のことが好きでした」

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秋風が吹く頃に 夏風風鈴 @tyaaahan

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