32話「約束が果たされる時」
楽しかった時ももう終わりに近づき、辺りはオレンジ色に染まっていた。相変わらず私たちは手を繋ぎ、いつもの並木道を2人仲良く歩いていた。
「……
そしてある時、
「うん、何?」
煉の言葉を待った。すると煉は近くのベンチに座って私を呼んだ。その煉の指示に従って、私は煉の隣に座る。
「――
そして煉は私の方へと向いて、私の『名前』を呼び、そんな信じたくても信じられない事を言ってくる。煉のその声色、表情はどこか緊張しているようだったけれど、真剣で真面目な感じが伝わってくる。だから煉が本気でそう言っているのがわかった。
「えっ!? うそ……」
でもそう言われても、信じられそうになかった。だってついに昨日まで失っていた記憶が、そんな急に戻ったなんて……あまりにも突然すぎてその言葉が確信には至らなかった。
「ホントだ。俺は飛行機事故で両親を亡くしている」
私のその疑念を晴らすかのように、煉が記憶を取り戻せていないと知りえない情報を言ってくる。
「えっ、そんな……ホントに……?」
それで徐々に徐々に確信へと変わっていくが、まだ半信半疑だった。だけれど、たぶん煉は本当に記憶を取り戻している。今の煉の顔つきもそうだし、状況証拠がどんどんと揃っていってるから。でもそれを私の中でまだ完全な確信を掴むことはできないでいた。
「そして俺は栞と1つ、大切な約束をしてる」
私がいつかあげた最大のヒント、それが今確信への答えへと変わっていく。
「……煉、じゃあ言ってみて」
「栞が帰ってきたら、『俺のお嫁さんになってくれる』だろ?」
「煉ッ!」
その言葉を聞いた瞬間、何にも考えずに私は煉へと抱きついてく。帰ってきたんだ。煉が……『工藤煉』が!
「ちょっ、栞!?」
そんな私に戸惑いながらも、それを受け入れ、手を私の背中へと回してくる煉。私はただただ煉が戻ってきたという感覚を、大事に噛み締めていた。嬉しくて嬉しくて仕方がなかった。やっぱり昔の煉が帰ってきてくれたということが、あの過去の記憶を、楽しかった日々のことを、大切な日々のことを思い出してくれたということが、嬉しくてたまらなかった。あまりにも嬉しかったのか、気がつくと自然と目から涙が溢れていた。そのせいで感極まってしまい、私は煉の肩で泣いてしまっていた。
「やっと、やっと思い出してくれたんだね……嬉しい……」
「ごめんな、こんなに待たせて」
そんな風に謝りながら、煉は私の頭を優しく撫でてくれていた。
「ううん、いいよ。それ以上に、煉が記憶を取り戻したことが嬉しいから。でも、もう忘れちゃイヤだよ?」
いくら過去の記憶は関係ないって強がっても、やっぱり好きな人に忘れられてしまうことほど、悲しい事はない。それと同時に、あの時の辛い記憶が
「ああ、もう忘れないよ、絶対にな」
煉のその言葉には、強い意志が感じられた。
「うん……ありがと」
「――なあ、栞」
それから少し間があって、煉は私たちの互いの顔が見える位置に私を離して、私の名前を呼ぶ。
「ん、なに?」
「栞はこうして
あの時の忘れもしない大切な約束。それを果たす時がきたようだ。煉はそう言って、私に確認を取る。
「うん、もちろん。煉がそれを望むなら」
私はめいいっぱいの笑顔で、そう返事をする。
「ああ、もちろん望むさ。だって俺は記憶とか関係なしに、栞のことが好きだから」
「え?」
「実際、俺は記憶を取り戻す前からもう栞に惚れていた、と思う。もっと言えば、あのミスコンの時から俺の心は奪われていたのかもしれない。あの時は一目惚れに近かっただけど、でもそれから『栞』という人物を知って、より好きになった。俺の記憶なんて正直、『栞を悲しませたくない』それだけのためって言っても過言じゃない」
どうやら煉も私と同じ考えだったようで、そんな恥ずかしい事をすらすらと言い並べていく。
「そ、そんな……真顔で、恥ずかしいよぅ、煉……」
あまりにもその顔が真剣で、流石に恥ずかしかった。でもそれと同時に、好きな人に『好きだ』と思われて、とても幸せだった。あれほど色々とあった煉が、そう思ってくれていたんだからなおのことだ。
「あ、ごめん。でも『過去の俺』とか関係なしに『今の俺』も栞が好きってことを伝えたかったの」
「うん、ありがとね。でも、私もそんな感じ。昔の煉は知っていたけど、あれから十年ちょっとぐらい経ってるから結構『今の煉』とは違ってて……確かに最初は『昔の煉』の部分ばかりを探してた。でも次第に触れていくうちに『今の煉』しかない部分が見えてきて……気づいたら『また好き』になってた」
頭の中で転校してきてから今までの煉との思い出を呼び起こしながら、私はそう語る。最初は恐怖で怯えてしまうほど、別人な煉だった。だから煉に昔と変わらない部分を見出して安心していた。でも時が経つにつれて、ちゃんと『今の部分』も見えるようになってきて、やっぱり私は煉が好きだと再認識した。結局、私は何年経っても煉のことが好きだった。
「なんか、2回恋してるって感じだよな」
「うん、そうそう」
「んで、どうなの?」
「何が?」
「俺のこと。ハッキリと一言で聞きたい」
そんな愛を語り合っている時、煉の悪魔が現れる。あきらかに知ってて言っている、そんな悪い顔をしていた。
「むぅー煉のいじわる……私も『今の煉』が大好きってこと」
そんないじわるをする煉に頬を膨らませつつ、私はちゃんと言葉で煉への想いを直接伝える。
「うん、ありがとう」
でも自分から求めておいて、いざそう言われるとすぐ照れるんだから。まあ、そんなところも可愛くて好きだけど。
「――ねえ、煉。私たちがDestinoをもらった時のこと、覚えてる?」
そんなことを思いながら、私は煉が記憶を取り戻したら、したかったこと。それをしてみようと、そんな前置きをする。
「ああ、親父が『儀式』つって結婚式の時のアレをやったんだろ?」
「うん、あの時は『出来なかったこと』……してもいい?」
ちょっと上目遣いになって、煉にそんなお願いをする。でも直接的にハッキリと言うのは恥ずかしかったから、そんな感じでぼかしてしまう。
「ハハ、わかった」
でも私と煉の関係なら、その言葉の意味がわかるようで、軽く笑いながらそれを受け入れてくれた。いよいよ、今度こそ正真正銘の『初めてのキス』がやってくるのだ。私は静かに目を閉じ、煉を待った。やっぱりこういう時は煉からしてほしかったから。胸の鼓動は留まることを知らず、高鳴っていた。もうこれだけの距離ならば、煉に聞こえてしまうそうなぐらいにうるさかった。そしてそんな状態で煉を待っていると、私の唇に煉のそれが触れるのがわかった。それで私は頭が沸騰しそうなほど、熱くなっていた。でも今の私にはそれさえも心地よくて、とても幸せな空間につつまれていた。
「――えへへ」
たぶんお互い『初めて』ということもあってか、どれぐらいの時間キスしていればいいかがわからなかった。感覚ではすごく長い時間していたように思える。そして名残惜しそうにしながら、私たちは唇を離していく。そして目をあけ、すぐに煉と目が合ってしまった。恥ずかしくて、ちょっと照れてしまい、思わず笑ってしまう。
「愛してるよ、栞」
「うん、私も煉のこと大大だーいすきっ!」
そんな煉の言葉に応えるように、私は満面の笑みで煉へ愛の言葉を紡ぐ。こうして私たちは晴れて、結ばれることとなった。そして思うこと、本当に煉への愛を諦めないでよかった。最初の絶望から希望を見出して、それを掴み取ることができてよかった。だってそこにはこれだけの幸せが待っていたのだから。もうそれがあまりにも嬉しくて、私を応援してくれた全ての人たちに感謝したいぐらいだった。だからこそ、これからはその人たちへの恩返しの意味も込めて、しっかり煉と愛を紡いでいこうと思う。そう新しい決意を胸に抱き、私たちはしばらくの間、2人だけの幸せな時間を過ごしていた。
Destino―栞:Side― 瑠璃ヶ崎由芽 @Glruri0905
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