無題:答え
結局。
わたしは人間なのか。そうではないのか。
葵ちゃんが意味ありげに朱里ちゃんを推すものだから、そこのところどうなのか、わたしの状況を踏まえ直接聞くつもりだったんだけど……。
「ああ、いいよ言わなくて。そんなのどうでもいいから」
という一点張りで、全く聞き耳を持ってくれなかった。
それならば、とわたしは話題の転換、疑問の転換で聞きたいことを聞く。
「……朱里ちゃんもあの夜見たよね。魔性ってやつ。もう金輪際関わりたくはないけど、実質、人間と魔性の相違点ってなんだろう。何か、ボーダーラインだったり条件だったりがあるのかな?」
朱里ちゃんは、ここでなぜかため息をついた。
「いやに細かいことを気にするんだな。そうやって、ちびちびしたところに目を向けてると、スケールの小さい人間になっちまうぞ」
う……。そう言われると何も言えない。たしかにわたしはねちねちとこういうふうに答えの出ない問いに挑み続けてるんだよな……。
「まあ、人間が人間であるための要素なんて、最初っから決まってるようなもんだろ」
え、そうなの?
人間か人外か、直感でなんとなくは区別できるけれど、案外、そういったボーダーラインは敷かれてないように思ってたんだけど。
「いやいや、これは初歩中の初歩。前提条件という前提条件じゃねえか。灯台もと暗し、見落としがすぎるぞ黒菜」
そこまで言わなくても。そしてそこまで言うと葵ちゃんが黙ってないよ。
と、思ったけれど葵ちゃんは何も言わず、ただ朱里ちゃんの言に耳を傾けているだけだった。
楽しむように。
味方はなし、と思いきや、
「それは是非とも聞いてみたいことだな」
なんてふうに禍鱗ちゃんが会話に加わってきた。魔性を専門とする仕事柄、そういった区別を遵守しておきたいのだろう。
わたしと禍鱗ちゃんから答えを催促された朱里ちゃんは気を良くして「しょうがねえな。それなら教えてやるよ」と胸を張った。
……正直、どことなく悔しかった。
「人間、誰でも持っているもの。それは、他でもない。生きているか、死んでいるか、そんなことは関係がない。そんな表面上的なことなんかじゃなくて、重要なのはただ一つ」
そこまで言って――朱里ちゃんは胸に手を当てた。
そして、その手を軽く握る。
目に見えない、何かを優しく包み込むようにして。
その、非物質的なものを抱き抱えて、朱里ちゃんは断言する。
なんてことない、問いへの答えを。
「――心があるかどうか、だろ」
わたしは人間ですか? 貴乃 翔 @pk-tk
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