第243話 俺の戦いはまだ終わらない

「コスプレパーティですか?」


「エルフなんて嘘だな。そんなものいるわけがない!」


「失礼ね!」


 マスコミは亜人のフローラ達を見て疑ったものの、俺は波止場に連れて行き、シレーヌが泳いでる姿を見て仰天する。


「に、人魚だと!?」

「あれは何だ!?」


「キューイ!」


 リーフが海上に姿を現すと、役人と取材陣は腰を抜かした。首長竜を見たらそうなるわな。


 これで本当だと分かり、ニュースは世界中に広がっていく。


 俺は撮っておいた動画も配信したので、ヘスペリスのことを疑う者はいなくなった。


 こうして俺は「異世界帰りの男」として知れ渡る。

 


 それから俺は山彦から、あることを提案される。


「兄ちゃん、オリンピックに出ない? 水泳あたりで」


「はあー!?」


 どうやら穂織・両親・山彦が俺に栄誉を与えたいらしい。


 みんな俺に対して感謝と罪悪感があるようで、気にしなくていいと言ったが、何度も説得されて出てみることにした。


 ヘスペリスでどこまで自分が鍛えられたか、試してみたい気持ちもある。


 ただし参加種目はビーチバレー、山彦とペアを組む。苦労と喜びは弟と分かち合いたい。


「ふん、海神のゴリ押しか」


「なにが異世界帰りだ。世界の強豪に通用するわけがない!」


 こうした非難の声を俺達は実力で黙らせる。


 予選から連戦連勝で負けなし。数々の世界大会でも優勝して、俺達兄弟は金メダルを手にした。


 実にあっけなかった。山彦の見事な作戦のおかげだが、


「……遅い、動きが遅すぎる。ジャンプ力もない。地球のアスリートはこんなものなのか? これでは亜人の子供にも劣るぞ」


「いやいや、兄ちゃんが強すぎるだけだよ」


 なぜかボールの動きは遅く見えるし、相手のジャンプが低いのでブロックするのは簡単。

 アタックの威力も感じなかった。


 想像以上に俺の身体能力は上がっていたらしい。これには誰もが目を見張る。


 他の種目でも余裕だったろう。もっとも女達から見れば、俺はまだまだ弱い……しくしく。


 そのフローラ達は、試合の応援にきて、『異世界美女軍団』として注目を浴びることになる。


 一目見ようと人が殺到したので、警察と海神家のボディガードがつくほどだった。


 国際バレーの親善試合に参加するも、


「母さん達が相手でなくてよかったわね」


「すぐに病院送りだわさ」


 世界の代表チームに圧勝、対戦相手はかなりショックを受けていた。気持ちは分かる。


 やっぱり亜人は強かった。



 それから山彦は卒業したあと、外務省に入庁してヘスペリスの担当官となる。


 行き来ができるのであれば、国として無関係ではいられないので、海神家を通して国交を結ぶことになる。


 実際にやりとりするのは穂織と雅。


 フローラとは合わないが二人は馬があったらしく、さらに穂織はアマラとシレーヌを食い物で買収し味方につける。


「裏切り者ー!」


「フローラ、友情より食べ物なのだ!」


「うんうん! ケーキ美味しいです」


 喧嘩はするものの、女達はそれなりに仲良くやっている。



 そして俺は……



『海彦、神怪魚が出たぞ!』


「……またですか。分かりました保叔父さん、今から退治に向かいます」


 ヘスペリスは平和になったが、今度は地球に神怪魚ダゴンが出没する事態になっていた。


 邪神が矛先を地球に変えたのかもしれず、散発的に霊道が開かれて送り込まれてくる。


 たまったもんじゃねー!


 連続で来ないだけましで、期間が空くのは謎だった。


 邪神の考えは理解できんし、どこでナニをヤってるか知らん。


 どちらにしろ、各国は対応に手を焼くことになる。


 なにせ魔法を使ってくるわ、魚雷は当たらないわで、軍艦では倒すことができなかった。


 広範囲の爆雷攻撃すらもナイアスの守りで防いでしまう。


 あとは体当たりを喰らい、何隻もの軍艦が沈められ潜られて終わり。



「幸坂海彦さん、助けてください!」


「お願いします!」


 海での被害は甚大、天文学的損害だ。


 各国の政治家達は頭をさげて俺に助けを求めてくるが、なんで日本に帰ってきてまで、神怪魚と戦わなあーあかんねん!


 俺はゴネるが、皆に説得されて渋々やるしかなかった。これが仕事となる。


 まずは海神家に頼み、速い水中翼船を用意してもらい武器を積む。海を飛ぶ特殊武装船だ。


 神怪魚が相手だと装甲を厚くしても、船を横倒しにされたら意味がないので、高速で逃げ回るしかないのだ。


 主力となるのは聖獣リーフ。さらに体も大きくなり、魔法も使えるようになった。


 リーフが水中格闘に持ち込んで神怪魚を弱らせ、俺が網を使ってトドメを刺す戦法だった。


 これでなんとか倒せたが、神怪魚は次々とやってくる。あーうぜー。



 ちなみにフローラ達は動けないので、武装船に乗るのは俺と山彦のみ。


 なぜなら女達は全員臨月……何も言わないでください、聞かないでください。


 童貞……そんな時代もありましたね。俺は遠い目をする。

 


 出航準備が終わり、俺は波止場に行って武装船に乗り込む。


「いくぞリーフ。あとで美味い物を食わせてやるからな」


「キューイ!」


 とは言ったものの、エサを作るのは大変だ。なにせ食べる量が多い。


 一番の稼ぎ頭だから文句は言えない。


「さあ兄ちゃん、勇者の出番だよ!」


「俺は勇者じゃなくて、釣り人なんだが……」



 完

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俺は勇者じゃなくて、釣り人なんだが 夢野楽人 @syohachi

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