エピローグ

第242話 みんな連れて帰るしかない

 俺は三年、いや一年半ぶりに日本に帰ってきた……嫁達とリーフを連れて。



 あの夜、話し合いをしたが俺は何も言えず、親父と族長達も押し黙る。


 何を言っていいかわからない。力で解決できる問題ではなく男は役に立たなかった。


 女達の希望を聞いて、妥協案を出したのはお袋と奥様軍団である。


「じゃーみんな、日本にいらっしゃい」


「え――――――――!?」


「それは良い考えですね、咲耶さん」

「うんうん」


 フローラ達は驚くしかない。エイルさんと母親達は大いに賛同する。


「海彦さんは一人しかいないのですから、娘ら全員をお嫁さんにしてもらうしかありません。選ばれなかった者が出れば、部族間のしこりになります。それと誰も引かないでしょうから、いずれ奪い合いになってしまうでしょう」


「うむうむ、その通りじゃ」


「それと親元から一度は離れて暮らしなさい、フローラ。日本で学ぶのも良い経験です。孫ができたら戻ってらっしゃい。ユーノー義姉あね様、ヘスペリスには帰ってこれるのですよね?」


「ああ、義妹は賢いのう。ロビンは良い嫁を持った。地球にオドの力は少ないが、ためれば霊道アウラは開ける。あとは妾が力を貸してやれば、年に一度くらいは帰れるじゃろう。そこで、これを渡しておく」


「それはお婆ちゃんの水晶玉!」


「霊道が一度開いた時、婆様から送られてきた物じゃ。もう一つあるはずじゃから、これで地球との通話も可能じゃ。魔力持ちが何人もおるから、妾の時ほど苦労はすまい」


「はい、ロリエが持ってます」


「では問題ないですね。あとは海彦さん、全員娶ってください。お願いします」


 エイルさんは俺に決断を迫る。もはや逃げることはできなかった。


 誰も選べない俺が悪いので、腹をくくる。


「……はい、分かりました。だけどフローラ達はこれでいいのか?」


「納得はしてないけど、他に手はないからあきらめるわ。取り合いはしたくないし」


「どこまでもついて参りますわ、海彦様」


「みんな平等に愛してね、お兄ちゃん」


 他の女達もうなずいた。


「反対、反対、反対!」


 一人ごねたのは穂織だが、すぐにユーノーがたしなめて説得する。


 言い負かされて、渋々我慢したようだ。あれから性格は変わったのかもしれないが、


「クソ婆!」

 と小声で毒づいていた……聞かなかったことにしよう。



 こうして俺は家族と嫁と日本に帰ることになった。


 そして相棒も置いていくわけにはいかない。泣かれて暴れられたら大変だ。


「俺と一緒にくるか? リーフ」

「キューイ!」


 話して意思確認をすると、首を振ってこたえる。喜んでるようだった。


 またドリスの犬で友達の、ヨーゼフとパトラッシュもついてくる……だから俺を噛むんじゃねー!



 ただ俺達がいなくなるので、ヘスペリスの防衛に不安が残る。


 魔物達はまだまだいて、これからも襲ってくるだろう。通訳機能は戻ったが、亜人を守っていた霧はない。


「心配はいらぬ。妾は残るし武器もたくさん持ってきたからのう。これで十年、いや百年は戦える」


「では、あとのことはよろしくお願いします」


 潜水艦には大量の携帯兵器が積まれていて、機関銃の他に迫撃砲やロケットランチャーもある。

 

 一般企業が武器を持つのは問題だが、これには裏事情があった。


 海神グループが処分に困った形落ち品を、軍と国から買い取ったのである。


 日本ばかりでなく各国からだ。名目上は武器の解体処理。


 古いとはいえ未使用品も多く、魔物相手には十分で、戦士達は強いから負けることはないだろう。


 それとヘスペリスの科学力は進歩しており、さらなる兵器も作られていた。


 潜水艦はメンテができないので、山彦が操縦して帰ることになる。機密も多いしな。



 こうして俺達は海神丸に乗り込み、ユーノーと奥様軍団が開いてくれた霊道を通って、日本に帰ってきた。


 一番最初に再会したのはたもつ叔父さん。親父と抱き合って大泣きする。


「海彦と山彦を育ててくれてありがどな、保!」


「あんぢゃ――――ん!」


 感動の兄弟再会である。


 まあはたから見たら、叔父さんの方が老けて見えるだろう。


 その後、親父と叔父さんは一緒に漁をするようになり、保叔父さんはエルフの嫁さんをもらうことになる。



 それから海神家所有の島に、みんなで住むことになった。


 元はユーノーの隠れ家で、先祖返りして耳が尖った子孫達も住んでいたのだ。


 一般社会では目立つので隠れ里のようなものである。歳を食わないから若いまま。


 敷地は広く、定期便がくるので何不自由はない。俺らは居候になるが、


「タダで世話になる気はないわ」


 と言ってフローラ達は穂織に、金塊と宝石の原石を渡す。上下関係を作らないためだ。


 穂織は金塊は受け取ったが原石は返した……結婚指輪に変えて。


「綺麗なのじゃ」


「ありがとです」


「気に入ってくれて良かったわ」


 指輪をつけてみんな満足してるようだった。


 気の利いたお返しに、穂織に対する俺の好感度も上がる。詳しく話を聞くと、


「ダイヤだけでも10ctを超えてますから、日本だと値段は数千万になるかと。とても受け取れませんよ、海彦さん」


「そっか……」


 やはりヘスペリスは宝の山である。


 それからしばらく、俺は骨休みをしていた。フローラ達は遊びと勉強。


 見るもの聞くもの全てが刺激的なようで、滅茶苦茶楽しんでいる。


 ただロリエは海神家に頼まれて、治療師の仕事をしている。もともとはユーノーが金を稼ぐのにやっていた。その利益は大きい。


 なにせ樹精霊ドリアードが体に入り込んで、癌だろうがウィルスだろうが悪いものを全てとってくれるので、治せない病がないくらいである。


 公に知られるとまずいので、この秘密を守れる人だけが治療をうけることができた。



 そして山彦は海神家を通じて、俺と両親の帰還を国に報告し手続きを進めていた。


 死亡扱いされてるので、失踪宣告を取り消さねばならない。


 無論、役人はヘスペリスの話を与太話としか受け取らなかったので、マスコミと一緒に島に呼んで、事情聴取と取材を同時に受けることにする……。

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